「コア技術こそが最強」と、フラッシュメモリ開発者は語る海外から見た! ニッポン人エンジニア(12)(1/2 ページ)

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。

» 2012年07月12日 00時00分 公開
[小平達也@IT]

世界一の技術を本気で追求し続ける、フラッシュメモリ開発者

 対談シリーズ「海外から見た! ニッポン人エンジニア」ではグローバル組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビュー通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治状況などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。

 第12回目は、今年『世界で勝負する仕事術―最先端ITに挑むエンジニアの激走記―』(幻冬舎新書)を出版した、竹内健 中央大学理工学部教授に話を聞いた。

竹内健氏 竹内健 中央大学理工学部教授

 竹内氏は、「フラッシュメモリ」の開発に初期から携わり、東芝を大きく成長させたエンジニアの1人である。また、「良い技術が売れるためには、経営の知識が必要」という問題意識を持ち、スタンフォード大学ビジネススクールでMBAを修了したという、エンジニアとしては異色な経歴の持ち主である。現在は、東京大学工学系研究科准教授を経て、中央大学で教鞭を執る。

 『世界で勝負する仕事術』は、世界中のライバルとしのぎを削るのが当たり前の環境、いわば「毎日が世界一決定戦」の中で働き続けることについて書いてあり、エンジニアにとっても刺激的な1冊だろう。


 フラッシュメモリ、次世代メモリの研究で世界的に知られている竹内氏の目に、ニッポン人エンジニアはどう映っているのか。


東芝時代はかなり自由だった

――『世界で勝負する仕事術』、とても共感を持って拝読しました。竹内さんはもともと、東芝で半導体エンジニアとして経験を積んだ後、大学に転職していますが、転職に当たり葛藤はありませんでしたか。

竹内教授:東芝、というと保守的な会社のイメージがあるかもしれませんが、私がいた職場では、むしろ社外に出ていくのは普通のことでした。もっとも、あくまでも私の半径10メートルの世界で見た“東芝”ですが。私は大学に転じましたが、外資系企業やベンチャー企業にいく人間はかなりいますよ。

――それは確かに意外です。竹内さんが所属していた部署は自由な風土だったということでしょうか。

竹内教授:そうですね。東芝に入社する時、博士課程に進学するかどうか迷っていたのですが、「うちの環境を使って、働きながら論文を書けばいい」と、フラッシュメモリの発明者である舛岡富士雄さんがおっしゃってくれたので入社した、という経緯があります。その後、米国留学も実現できましたし、声を上げれば意見が通りやすい、という企業風土があります。

日本のソフトウェア業界は、「どこに強みがあるのか」分からない

――なるほど。ところで、ハード開発に携わる竹内教授から、ソフトウェア開発の業界というのはどのように見えているのでしょうか。

竹内教授:分野が違いますが、GoogleやFacebook、Amazonなどは、強烈な基幹を持っているという意味で、意識はしています。

 私はソフトウェア開発が専門ではないので、あくまでも印象論ですが、日本国内のWebサービスやソフトウェアは、技術的な意味で「どこに強みを持っているのか」が正直なところ、いまひとつ分かりません。

――その企業ならではの特化した技術が見えない、代替可能であるということでしょうか。

竹内教授:よく「内需のサービス業は日本語の壁で守られている」と言われます。もちろん、短期的なビジネスとしては守られているフィールドで戦えばいいでしょう。しかし、エンジニアとしてどれほどの価値を出せているのでしょうか。

 「日本語の壁で守られている」サービスは、外国企業が「コストがかかるから展開していない」から保てているわけで、本気で海外勢が乗り込んできたら、木っ端みじんに吹き飛ぶでしょう。私としては、そういうリスクは、エンジニアとしては取りたくありません。

世界一を目指す日常――「後追いはきつい」

――なるほど。逆に、竹内さんが「エンジニア」としてやりたい仕事についておうかがいしたいです。エンジニアとして、どのような仕事をすれば価値を生み出せると思いますか。

竹内教授:世界一を目指すことです。他の企業には絶対に負けない製品を作り出し、競合他社に追い付かれないように日々、改良を続ける。これが、ハード開発の世界における日常です。東芝がフラッシュメモリで勝ったのは、それが世界一の技術だからです。

 後追いは、きついですよ。トップの企業が出したものを調査・解析してまねをする、といったことを延々と続けなければならないわけですから。そしてトップの企業は常に「追い付かれない」よう、時にブラフを出しながら、どんどん技術構造を変えていくわけです。一番でない企業は、常に振り回されなければならない。

 先ほど挙げた企業は、どこも「世界一」の強みを持っていると思います。しかし、日本の企業はどうでしょうか。ひょっとして、単なる「オペレータ」になってしまっていないか、という疑念はあります。

コア技術→サービス開発の流れはあれど、サービス→コアはない

――ハード開発に関わっている竹内さんならではの意見、ありがとうございます。「オペレータ」でないエンジニアとは、どういうスキルを持っている人でしょうか。

竹内教授:コアの技術を熟知している人です。コア技術を知っているエンジニアが、ユーザーに近い上位レイヤ、サービス寄りの仕事をすると、最初はもたついて「ユーザーのことが分かってない」などと言われるものの、一気に伸びる……という例を、何度も見ています。コアを知るために一度深くもぐっていれば、サービスを理解するのはそれほど難しくありません。

 逆に、カンや度胸でやってきたサービス寄りの人は、コア技術を簡単には学べません。だから私は、学生には「若いうちにできる技術を勉強しておけ」と言っています。

―― 一方通行ということですね。

竹内教授:そうですね。ビジネスの発想は確かに必要ですが、それは30代になってからでも学べますから。

――竹内さんも、アメリカでMBAを取得したのは、30代でしたね。

竹内教授:アメリカの場合、このあたりは日本よりはっきりしているんです。学部卒=現場、博士課程修了者=コア技術、と明確に分かれていて、現場で働いているエンジニアは「いずれお金をためて大学院に行き、コア技術に関わる」というキャリアパスを抱いています。日本の場合、ここらへんがかなり曖昧です。

コア技術に深く“もぐる”

――コア技術は、こつこつと時間をかけて積み上げるものですが、時代の変化に乗り遅れるかもしれない、という恐れなどはないのですか。

竹内教授:たとえコアとなる技術を持っていても当然、時代の変化はあります。そこが難しいところで、コアを作りながら、同時に環境の変化も見ていなければならない。

 とはいえ、一度、技術を深く知るためにもぐっておけば、「学び方」を知ることができます。学び方さえ一度きちんと身に付けておけば、別の分野を学ぶ時にも生かせるのです。1つの技術について、一度は深くもぐっておくべきです。

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