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» 2012年11月20日 14時19分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(22):初音ミクと日本のクリエイティビティ

世界が日本を最もクリエイティブな国と評価しているのに、日本はそう思っていない。まずはそれが問題だ

[中村伊知哉,@IT]

世界一クリエイティブな国、日本

 「世界一クリエイティブな国は日本、クリエイティブな都市は東京。(参照記事:「最もクリエイティブな国・都市」は日本・東京 でも日本人は自信がない──Adobe調査」2012年4月にAdobe社が米英独仏日の各1000人、計5000人の成人に聞いた国際アンケート調査結果だ。

 36%が日本を最もクリエイティブな国と評価し、2位のアメリカ26%に大差を付けた! うなずける。ポップカルチャー、ファッション、食べ物、ケータイ文化、どれも日本は抜きんでている。アメリカは金融、IT、ハリウッドなど多くの分野で世界を引き離し、ビジネスの創造力を見せ付けているが、表現文化を一部のクリエイターだけでなく国民全体で創出する点では日本が勝る。

 最もクリエイティブな都市では、東京が他の都市を抑えて1位の30%! ニューヨークが21%、パリが15%。これもうれしい。東京は銀座、渋谷、アキハバラ、いくつもの極が異彩を放つ。どの国の料理も本格的なものが味わえ、どこに出かけても地上最高規格の便所が用意されている。

 こうした日本のクリエイティビティを最高に発揮しているのが「初音ミク」だ。

 5年前に誕生した音声合成DTMソフトが3万6000曲の作品を生み出し、11万作品の動画がアップされ、再生回数が数百万回にのぼるという、世界最大の持ち歌を誇る歌手に育った。

 2012年1月、ロンドン五輪のオープニングを歌ってほしいアーティスト投票で、並みいるアーティストを抑えて1位を獲得! それも日本ではなく海外のサイトからの投票が多かったという。

 初音ミクのパワー源は「技術、ポップ、みんな」の3点だ。

 まず、ボーカロイドという「技術」。誰もが専属歌手を持つことができるようにした技術。楽器を演奏するという壁を取り除き、一流のプロも使う歌唱クオリティを開放した。

 そして、カワイイ「ポップ」なキャラクターという身体性を与えた映像表現。16歳、158cm、42kg、これぞ萌え、という要素を盛り込んだコンテンツだ。ものづくり力=技術と、表現力=コンテンツという日本の2大強みをドッキングしたところにミクは実像を結んだ。

 より重要なのは、「みんな」が作る産業文化の形成。ニコ動やYouTubeといったソーシャルメディアで二次創作、n次創作と曲や映像の連鎖が広がり、新しいコンテンツが派生していった。

 作詞・作曲する人もいれば、映像を作る、歌う、演奏する、コスプレ、踊る、さまざまな様式での参加が許され、奨励される。ユーザーによる創作、共有、拡散の文化だ。公式ソング、公式アニメ的な囲い込みではなく、外へ外へと増殖していく。

 オープンソースだ。ソフトウェアのオープンソースは、技術の増殖だった。初音ミクはコンテンツのオープンソース。文化の増殖だ。誰もがマンガを落書きし、誰もがタテ笛を吹くことができる「みんなの表現力」がクールジャパンの源。初音ミクの産業文化が日本から生まれたのは必然といえよう。

 いまやミクは世界的アイドル。コンテンツビジネスとしてユーザーがCDやゲームを売るというチャンスも広がる。これまでミクはPC+ネットベースだったが、これから世界的にスマホやタブレットが普及する。ソーシャルサービスの利用も本格化するのはこれから。世界市場でのコンテンツビジネスはこれからとみてよい。

 課題は、第2、第3の初音ミクをどう生んでいくのか、長期的な環境を整備することだ。たまたま生まれ、みんなで育てた初音ミク。こんなイノベーティブなよい子を、最も生み続けたい。そのメカニズムを国内に確立したい。

 日本のクリエイティビティが育つことに期待がかかる。ところが、冒頭のアンケート結果は2つの問題も明らかにしている。

 まずは日本の自己評価が低いこと。他国が日本を評価しているのに比べ、日本のみが自分をクリエイティブだと思っていない。自らがクリエイティブだと考えている比率もダントツの最下位。アメリカ人は52%が自分をクリエイティブと思っているのに、日本人は19%!

 ずっとそうなんだな。ジャーナリストのダグラス・マッグレイ氏が2002年、フォーリン・ポリシー誌に「Japan’s Gross National Cool」を掲載、日本のポップカルチャーを高く持ち上げた。いわゆる「クールジャパン」の嚆矢(こうし)となったレポートだ。当時僕らも盛んにこうした自己評価を発信していたが、海外からの1レポートによる評価の方が浸透力が高かった。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授がソフトパワー論で後付けしたのも効いた。

 だからこれを自らのエネルギーに転化するのにてこずっている。ポップカルチャーのパワーを発揮する自家発電力がなかなか湧いてこない。今回の調査でも、自分の持ち物を正当に評価できないさまが見て取れる。

 それ以上にマズいのは、「創造力が経済成長のカギになると答えたのも日本が最下位」という結果だ。じゃ、みんなは何で食っていこうと思ってるのだろう。資源も、低廉な労働力もないというのに。資源はアラブやロシアや中国で、労働力は中国やインドで、じゃあ僕らはどうするというんだろう。知恵しかないんじゃないだろうか。

 アメリカは80年代、クルマや家電のクリエイティビティで日本に負けたけど、90年代以降、ITのクリエイティビティで巻き返した。日本はどのクリエイティビティを発揮していけばいいんだろう。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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