連載
» 2012年11月28日 12時13分 UPDATE

頭脳放談:第150回 Intelの基幹システム向けプロセッサ「Itanium」はどこに向かうのか

2年半ぶりにItaniumの新製品が登場。もう新製品の投入はないという勝手な思い込みが吹き飛ばされた。なぜ、そう思っていたのかといえば……

[Massa POP Izumida,著]

 IntelのItaniumプロセッサ・ファミリに久しぶりの新製品、Itanium 9500シリーズが投入された(Intelのニュースリリース「インテル、基幹業務コンピューティング向けに格段に優れた機能と性能を提供する最新のインテル Itaniumプロセッサー 9500 製品ファミリーを発表」)。新Itaniumのアナウンスとしては、2010年2月のItanium 9300シリーズ以来、約2年半ぶりである。動きの速い一般消費者向けのパソコン向けプロセッサとは異なるサーバ向け、それもシステムを停止できないような高いRAS(Reliability:信頼性、Availability:可用性、Serviceability:保守性)性の要求される「基幹システム」市場向けのプロセッサであるから、矢継ぎ早に新製品が出るということは考えにくい。が、それにしても間隔が長い。実をいえばItaniumファミリは、販売は継続されていても、もう新製品の出てこない保守品種のような扱いになってしまうのではないかと、勝手に思い込んでしまっていたくらいだ。その勝手な思い込みを吹き飛ばすリリースではあった。

Itanium 9500シリーズのダイ写真 Itanium 9500シリーズのダイ写真
Itanium 9500は、1チップに8個コアを搭載し、従来製品のItanium 9300に対して2.4倍の性能を実現しているという。

 何で勝手にそんな思い込みをしていたかというと、ここ何年もItaniumには逆風の発表が相次いでいたからだ。Red Hat、MicrosoftとOSベンダが次々とItaniumのもとから去ってしまった。また、Itaniumの需要家であるはずの、かつてのメインフレーマ系統の会社も脱落していったのが、Itaniumの雰囲気を暗いものとしていた。とうとう2012年夏には、何年も前に自社のメインフレームをItaniumにスイッチしたはずのNECまでもが、自社のメインフレーム向けにプロセッサの内製を復活させる、という発表をしたのが、筆者の認識に止めを刺した(NECのニュースリリース「NEC、現行機比、CPU性能を3.5倍に向上・消費電力を60%削減するメインフレーム「ACOSシリーズ」の大型機『i-PX9800/A100』を発売」。21世紀はItaniumの時代ということで、前世紀末に盛り上がったみんなの期待は、十数年経って、失望に変わってしまったのだなぁ、と。いったん逃げかけたOracleは、Hewlett-Packard(HP)に一喝されてItanium向け開発に踏み留まったようだが、脱落が相次ぐ状況は、どこかの国の政権政党(原稿執筆時点)に似ていなくもない。まあ、Itaniumは十数年も命脈を保っているのだから、まだましか。

 しかし、実際のところIntelは、Itaniumを止めるなどという発表は一度もしていない。それどころか、今回のリリースを読んでいけば、「まだまだ着々とやる」という意志を立派に示している。だいたいItaniumを使うような基幹系では、Red HatやMicrosoftのOSを使うということ自体が少なかったのに違いない。また、脱落してしまったかつてのメインフレーマの人たちは、このご時世なので、自社の業績悪化のために逃げたのだろう。また、NECは縮小均衡のスパイラルの中で、あえてお金のかかる自社開発などと、何を考えたのだろうか? いやいやしかし、本当にそうだろうか。だいたいItaniumの生みの親の1つであるHP自体、何年も前にプロセッサ開発からは手を引いてプロセッサ自体はIntel任せである。HP自身はItanium向けOSとシステムの開発に専念することでIntelとの間の交通整理をし、また自社の基幹製品として「強力に」Itanium搭載の製品系列を推進してはいる。が、踏み込んだというより、「適切な」間合いをとったとも見受けられる。そしてIntelそのもの自体が、Itaniumに間合いをとっているようにも見えるのである。

 そう感じる原因は、やはり半導体屋的な感覚である。Itaniumの製造に使用している製造プロセスを見るからだ。今回発表のItaniumは、現在、主力で数が流れているであろう32nmプロセスを利用している。x86サーバ向けのIntel Xeonもこのプロセスだから同じである。現在量産されているはずのItanium 9300シリーズ(65nmプロセス)に比べれば、2世代分製造プロセスが進み、そのこと自体は性能向上に寄与しているはずだ。でも、ほかと比較したとき、「何で」感が強い。

 すでに2012年前半に発表されたパソコン向けのプロセッサからは、さらに世代が進み、22nmプロセスに突入しているからだ。現行のIntel Xeonなどは、2011年の発表だから、2012年も年末になって発表された「最上位機種のItanium」が32nmプロセスというのは、「先端」な感じがしない。まぁ、サーバ向けの高信頼性の必要な高度な機種なので設計に時間がかかりそうだから、着手時点の最先端プロセスを使用しても出るときには他機種より遅れるということがあるのかもしれない。けれども、プロセス世代にして1つ飛ばしでしか新機種が出ず、また、毎世代、こなれた頃の製造プロセスで量産というのは、会社の中であまり期待されていない証拠と見えるのだがどうだろうか?

 そういう疑いの目で見ると、Intel Xeonとのプラットフォーム共通化も、メリットというよりリスク低減の側面が強いように思われる。Itanium専用に周辺を設計し直すのは、チップを作る側も、採用する側もリスクが大きすぎるから、この際、Intel Xeonと共通化してしまう、と。そのIntel Xeonが、かつてはItaniumの差別化の大きなポイントであったRAS関係機能を取り込んで、高信頼性化を進めているから、差は詰まりつつあるように見える。何となったら、ItaniumでなくIntel Xeonに行ってくれ、みたいな道筋が着々とつけられてしまっているように見えるのだが、どうだろう。

 VLIW(Very Long Instruction Word:マイクロアーキテクチャの1種)として、前世紀末に鳴りもの入りで登場したItaniumが、たかだか10年ちょっとでこのような状況に追い込まれるとは思わなかった(VLIWについては、「頭脳放談 第4回 VLIWは世界(プロセッサ)を救うか?」を参照のこと)。多分、当のIntelやHPの人の方がそのような気持ちは強いだろう。あの頃は、スーパースカラーが壁に当たって、これからはVLIWみたいな論調一辺倒だったからだ。しかし、その後の流れはスーパースカラーからマルチコアへと流れ、ついに「これからはVLIW」という流れにはなっていない。この先どうするのか? もう十年がんばったら今度こそVLIWの時代が来るのだろうか?


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサを中心とした開発を行っている。



Copyright© 1999-2017 Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.

@IT Special

- PR -

TechTargetジャパン

この記事に関連するホワイトペーパー

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。