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» 2013年01月08日 18時59分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(24):日本型スマートテレビに必要なのは「根性」だ

テレビとスマホやタブレットを組み合わせ、小画面側でソーシャルとヒモ付ける「マルチスクリーン」。コンテンツ制作が世界的にも重要テーマになっている。SNSを使いたくなる番組ってどんなの? コンテンツを誰が作るの? タブレット上のCMって本放送のCMと違ってていいの? など、考えていく必要がある。

[中村伊知哉,ITmedia]

 スマートテレビ。日本はどんなサービスを生んでいくのか。

 放送・通信融合では3年出遅れた日本だが、それでもすでに日本型の融合モデルが生まれてきている。

 NHK「デジタル教材」。教育番組クリップをWebサイトで開放しつつ、教材や教授法を学校の先生方と共有するという「テレビ+ネット+学校」のコミュニティ。学校教育とテレビが強く結び付ているのは日本の特徴で、これをネットでも生かしている。

 「ウェザーニュース」は、衛星、ネット、モバイルでテレビ、PC、ケータイに番組を届ける放送・通信融合局だが、刻々とセンターに届く視聴者からの写メ情報を天候の実況や予報に役立てている。海外でもスマホが普及し始めたとはいえ、老若男女がユビキタスに映像情報発信できるのはいまだ日本特有のポジション。このモデルを構築し、いずれ海外展開を、というのがウェザーニュースの戦略だそうだ。

 他にもいろいろあるが、そこでやってきたのが次のステージとしてのスマートテレビ。マルチスクリーンにソーシャルメディアを組み合わせる。

 日本で検討されているサービスの多くは、GoogleやAppleが提案するようなタイプ、つまりテレビ受像器をPCに変身させ、ネットのコンテンツもソーシャルサービスも大画面にぶち込むスタイル=「オーバーレイ」とは異なる。

 それは第一に放送局が嫌がるからだ。テレビの画面を汚すな、と彼らは言う。テレビはテレビでそのままに。で、スマホやタブレットを組み合わせ、小画面側でソーシャルとヒモ付けよう=「マルチスクリーン」というのが今の基本的な方向だ。

 それはテレビ画面に集中する広告費を分散させることなく、スマホやタブレットで新しいマーケットを作りたいという姿勢の表れだ。

 すでにマルチなスクリーンを同時に使いこなす若者の情報行動スタイルを一歩進め、テレビ番組を放送局がソーシャルサービスに結び付けていく。日本型のアプローチとしては、こちらだろう。となると、放送局がどう出てくるのかが行方を左右する。NHK「ハイブリッドキャスト」も、在阪テレビ局の「マルチスクリーン型放送研究会」も、マルチスクリーンのサービスに注力している。

 もちろん、すべてがマルチスクリーンになったり、逆にすべてがオーバーレイにされたりするわけではない。コンテンツによって向き不向きがある。討論番組ならニコニコ動画のようにオーバーレイでみんなの声を投じればいいし、ドラマなら画面を汚さずセカンドスクリーンで遊べばいい。多様なコンテンツに応じ多彩なサービスが開発されていくことになろうが、日本の場合、ややそのバランスがマルチスクリーンに置かれるということではなかろうか。

 課題も多い。

 まずは技術。テレビの動画とタブレットの情報を同期させる技術がポイント。放送で映像を送り、通信でタブレットにデータを送る。それを同時に表示させる。実はとっても大変で、NHK技術陣もそこに力を入れている。

 そして、コンテンツ制作。マルチスクリーンを前提とした番組作りの手法だ。これは世界的にも放送人の重要テーマになる。SNSを使いたくなる番組ってどんなの? となるわけだ。第一、そのマルチスクリーン・コンテンツを誰が作るの? タブレット上のCMって本放送のCMと違ってていいの?

 制度問題もある。例えばコンテンツの責任の所在。放送コンテンツは放送局が法的責任を負うが、通信コンテンツは表現の自由が大原則で、発信者に介入ができない。となると、放送局が送る番組に通信でオーバーレイした情報が問題を引き起こしたら、その画面の責任はどこが負うの?

 著作権もある。放送コンテンツと通信コンテンツでは著作権法上の取り扱いが違う。放送コンテンツとする場合には比較的ラクに処理できるが、同じコンテンツを通信で流そうとするとあらためて権利者の許諾を要したりする。地デジネットワークやブロードバンドなどを混合して伝送する場合、その処理をどうするのか、厄介な問題だ。

 それ以上に重い課題は、そういう新しいサービスを「やる根性」だ。震災で縮こまるずっと以前、そう、失われた20年とされるその20年前あたりから、日本を覆い続ける縮み志向。これを吹っ飛ばして、チャンスを生かして海外に展開する意気込みを、スマテレ関係者の皆さんが蓄えているのかどうか、という点だ。

 放送・通信融合は、いいポジションにつけながら、この20年、日本はチャンスを逃してきた。GoogleやAppleやHuluなどの攻勢に、あらためてオタオタしているのだが、これを逆にチャンスととらえ、打って出る根性や気合いがあるか。

 これは同時に、メディア業界の構造変化の号砲なのかもしれない。ダイナミックな変化の場面も近づいているのではないか。

 放送局が6局あったとして、A社は東芝やNTTと提携、B社にはGoogleが出資、C社はAppleと同盟を結び、D社はmixiが買収、E社とF社は合併。ここ数年にわたる世界のメディア再編劇からすれば、それぐらいあってちっともおかしくない。いや、そうした腹ぐくりがあって初めて次のステージが見えてくるのではないか。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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