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» 2013年02月19日 15時26分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(26):大学がしっかりせえよ。

日本は産学連携が弱過ぎる。グーグルもフェイスブックも学生が、大学が生んだ。日本の大学はこの分野で何か生んだか?

[中村伊知哉,ITmedia]

大学がしっかりせえよ。

 グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック。ITはアメリカが制した。日本は見る影もない。プラットフォームを握った者の勝ち。ハードとソフトの一体経営だ。国内に甘んじることなく、世界市場をにらまなければ。日本企業はまったくカヤの外だ。

 とおっしゃいますが。かつてそれらを達成した企業があった。任天堂だ。ファミコンは、ゲームのハードとコンテンツを押さえ、流通=プラットフォームを握った。当初から世界を見据えていた。ソニーのプレステもそうだった。できない話ではない。

 アメリカにあって日本にないものは何か。企業に力はある。政府だって優秀だ。最大のギャップは、大学の力だと思う。

 日本は産学連携が弱過ぎる。特にIT分野はそこが大きな課題。MITもスタンフォードもハーバードも、大学が中心になり、技術もビジネスモデルも開発している。グーグルもフェイスブックも学生が、大学が生んだ。日本の大学はこの分野で何か生んだか?

 私が政府を出て参加したMITメディアラボは、大学院でありながら当時150社もの企業スポンサーと強烈な同盟を結び、ビジネスやサービス、商品の工場であるだけでなく、政策メッセージを発信する増殖炉でもあった。私が関わった$100PC構想は途上国を中心に世界35カ国が受け入れている。

 次いで日本センターの研究所長を務めたスタンフォード大学は、MIT以上に政治や経済に近い。コンドリーザ・ライス教授はブッシュ父子政権に参画したし、ジョン・ヘネシー学長はグーグルの取締役として企業発展に邁進した。博士課程で学びながらヤフーを生んだジェリー・ヤンは、スタンフォード日本センター出身だ。

 さらに日本は、産と官が遠いのも問題だ。90年代半ばの官僚不祥事以降、特に官僚と産業界とのパイプが詰まり、霞が関が情報不足に陥って的確な戦略が打てない。そのパイプを開く役割を学が担うこともあっていい。アメリカの大学も結構そういう役割を果たしている。

 じゃぁ自分でやれ。ということで私は今慶應でそれを試している。メディア政策の産官学プラットフォームをつくることをミッションにして。政府に提言するだけでなく、自ら組織やプロジェクトを設計し、実行に移すことが本務だ。

 デジタルサイネージやスマートテレビなど、産官学の連携によるメディア開発も進めている。デジタル教科書の実現、子ども創作ワークショップの普及なども政策プロジェクトとして実施。デジタルえほんを制作しているのも、新型教材の開発という公益から取り組んでいるものだ。そのエンジンとして、企業コンソーシアムや社団法人、NPO、株式会社など活動に適した組織も立ち上げ、運営にも身を投じる。

 このようにリアルな社会経済と握ってコトを起こす手法を「リアルプロジェクト」と呼び、大学院(慶應義塾大学メディアデザイン研究科:KMD)の軸に据えている。これは従来の教育や研究とは異なる活動が多くなるので、本分を守れというお叱りを受けることもあるが、知ったことか。

 さらに、政策分野であるだけに、政府とのやりとりが多いため、御用学者とレッテルを貼られることもある。御用学者ってのは通常、政府や政権の意を受けて、その都合のいいようにたいこ持ちをするやからのことを指す。もちろん政府の正しい政策には乗る。コンテンツ海外展開策の推進やデジタルサイネージの技術開発など。最近では情報公開と民間利用を進めるオープンデータ構想には積極的に協力している。

 ところが、私は結構政府の逆張りなのだ。前の自民党政権時代には、国内産業重視で総花的なコンテンツ政策に反論、デジタル+ポップカルチャー+海外重視路線に転換すべく動き、民主党政権で実現。通信・放送融合法制も政府の意向を突き抜ける案でニラまれた。民主党政権では、日本版FCC設立に真っ向から反対し、話がつぶれるまで論陣を張った。電波政策に対しても開放路線を主張、電波特区も推進した。教育情報化は今も改革急先鋒で政府から目を付けられている。

 なのに御用!の声が掛かるのは、是でも非でも政府とのやりとりが多かったからだろう。特に民主党政権では、政権側の経験が不足していて、その相手をする民間人も層が薄かったので、特定の人への相談事が集中する傾向にあった。 

 問題は大学だけにあるのではない。政治にもあるということだ。

 民主党政権の後半は渋々ロビイングに動いた。前の自民党政権下では私はロビイングに反対だった。資本力と人材が豊富な強いセクタが政策を左右するためだ。政治と官僚と一部の大企業とが密室で政策決定する。だから、民間フォーラムやパネル討議を開催してアピールしたり、民間研究会を編成して情報発信したりする手段をよく用いていた。

 しかし、民主党政権となってほどなく、熟議を重んじるが決議しない弊害が現れた。「万機公論ナレドモ決セズ」。停滞する。すべき政策が明らかならば、直接、決定権者を説得する方がいい。脱原発デモのように、周りをウロウロしていても、政治が決定せず動かなければ、何も変わらない。そこで、直談判をねじ込む場面が増えた。政治に力量があれば、不要なことだ。第一、日本最大最強のロビイング機関は霞が関である。産や学のロビイング力など官の前では赤子のようなものだ。

 だからといって、官をたたいている場合ではない。世界の中で日本が沈没しつつある今、強い力を弱めている余裕はない。政治のような、弱いけれど本来の柱を建て直して安定させること。そして、いまだ働きが十分でない大学の機能を強化することだ。と自分に対していっておく。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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