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» 2013年03月29日 15時01分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(29):アベノミクスはITをどう変える?

アベノミクスが掲げるITやデジタルの「成長戦略」。もしも著者が政策を考えるブレーンに登用されたら進言するプランを7つ挙げてみる。

[中村伊知哉,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

 アベノミクスというやつ。金融緩和と財政拡大と成長戦略の3本柱だそうで。

 ITやデジタルに関わりが強そうなのは3つ目の成長戦略。行方が気掛かりだ。ただ、産業振興よりも規制改革、つまり補助金を積むよりも規制緩和で、というのが安倍政権の基本路線のようなので、一安心ではある。デジタルは、弱い分野にお金をつぎ込むよりも、利用分野の規制を緩めてもらい、使われたがっているのだ。民主党政権の発足時は、情報通信法に後ろ向きで、規制緩和にも通信放送融合にも電波開放にもソフトパワー発揮にもネガティブだったので、当初つまずきを見せたが、自民党政権ではそんなことはなさそうだ。

 しかし、安倍政権はまだIT政策も知財政策もはっきりしたプランができていない。前の総選挙でも、経済、TPP、原発……多岐にわたる論点があったが、メディア政策についてはほとんど議論にならなかった。公約にあることはあった。自民党は、災害に強い情報インフラの整備、サイバーセキュリティ対策の強化、クールジャパンの国際展開などを掲げていたし、民主党はスマートメーターの普及促進、マイナンバーの利用開始、電波オークションの実現などを説いていた。公明もスマートメーターの普及や医療情報化の推進、アニメなどの海外展開支援を挙げていた。だが、いずれも政策の優先順位は高くない。

 前回、民主党政権に移行する際、高く掲げられたマニフェストには唯一「ネット選挙解禁」がうたわれていた。それさえまったく前進せずにおしまい。だから、これからも期待してはいけないのかもしれない。それでもなお、政治にしか期待できないことはある。

 例えば、「文化省を作ろう」。

 私はこのコラム(「文化省を作ろう」)でも申し上げてきた。念仏のように繰り返している。

 これに対し、「ハコはええから中身を考えろ」というご批判もいただいている。そりゃその通り。初代大臣と目するオノ・ヨーコさんが政策を考えれば良いのだが、それだけだと無責任なので、もしもブレーンに登用されたら進言するプランを挙げてみる。

1.文化産業政策の強化:日本をコンテンツ産業の本場にする

  • コンテンツ産業の法人税撤廃
  • 電波利用料のコンテンツ制作への使途拡充
  • コミケ、ニコニコ超会議、初音ミクおよびそれに類するものの奨励および外敵からの保護

2.文化通商外交の強化:海外への情報発信量を増大させる

  • 日本コンテンツ向け海外メディア枠の確保
  • 海外の日本コンテンツ輸入規制撤廃推進
  • コンテンツ、自動車、ファッションら総合輸出策の支援(経産省、国交省らと連携)
  • 人気Webサイトの多言語翻訳無料化

3.文化教育の強化:情報生産力を養う環境を整備する

  • 音楽・図画工作の授業倍増(教育大臣と連携)
  • 子ども創作表現活動拠点の全国整備
  • 国際的なコンテンツ大学院の重点整備(教育大臣と連携)

4.従来型文化行政の転換:著作権政策と芸術伝統文化保護策を刷新する

  • 著作権バーチャル特区の設定
  • デジタル著作権法案の策定
  • 業界補助金の縮小と文化バウチャーの創設
  • 文化寄付優遇税制の創設

5.IT利用政策の強化:利用面の遅れをばん回する

  • デジタル教科書の整備(教育大臣と連携)
  • NHKネット配信の義務化
  • ネット選挙の推進
  • 全省庁・自治体のオープンデータの推進

6.ポスト・インターネット政策の構築:次世代IT基盤の整備と開発を推進する

  • 全国の学校の先端情報基地化
  • スマートシティー、スマートグリッド、デジタルサイネージの全国整備
  • 電波政策、IT研究開発、IT標準化政策の総点検

7.政策形成手法の改善:オープンでソーシャルな政策参加を実現する

  • 世界的文化/IT関係者による政策評価機関の設置
  • 国際的文化政策ラウンドテーブルの常設
  • ソーシャルメディアによる政策参加手法の試行
  • ポリティカルアポインティと専門家登用の強化

 以上7項目。なお、文化庁、総務省通信放送部門、経産省IT部門、知財本部、IT本部を足した役所がこの行政を担うことになり、文科省から文化庁が抜けるので、教育担当を「教育大臣」と呼んでみた。

 このうち、5のネット選挙は、選挙後に与野党ともに動き始めた。これは議論は済んで、早期実施の段階にある。とっとと実現してもらおう。また、選挙後に組まれた補正予算でも、2のコンテンツ海外輸出のために170億円が積まれ、6のスマートシティーなどに関しても「ICTを活用した新たな街つくり実現のための実証」などの予算が編まれている。アベノミクスの2本目の柱である財政措置により、刺激が加えられている。

 問題は、3本目の柱である成長戦略にどう組み込むか。

 例えば1電波利用料のコンテンツ制作への使途拡充はどうか。年間700億円を超える利用料収入は、電波監視、研究開発などの限定的な業務に充てられている。これをコンテンツなど有望なデジタル分野の拡大に投下できないだろうか。電波利用料は携帯電話1台当たり年540円が徴収されているもので、それを下げろという有力意見もある。だが、民主党政権が進めようとした周波数オークションは法案も流れ、実現のメドが立たない中、デジタルの下位層から上位層に資金配分する知恵があっても良い。政府は防災無線デジタル化に使途を拡大する法案を提出するという。もう一声、どうだろう。

 そして、5のデジタル教科書の整備と、同じく5の全省庁・自治体のオープンデータの推進。教育と行政の情報化は、より大きなビジネス領域となる。

 デジタル教科書は政府が2020年に1人1台の目標を据えているのに対し、大阪市橋下市長や東京都荒川区西川区長のように2015年に達成するという首長も現れ、地域主導で動き始めた。だが、法律上、紙でなければ正規教科書として認められていないという入り口の壁が立ちはだかっている。すぐに制度改正に着手してもらいたい。

 統計、道路交通、気象など省庁・自治体の持つビッグデータを開放して民間も活用する「オープンデータ」は2013年から本格的に動き始めた。これもビジネスとして成立することが期待されているが、役所情報の著作権をフリーにできるのか、プライバシー問題をどうクリアするのかなど、民間の活用を促す課題の解決が求められる。

 民主党政権が、メディア融合や電波開放に舵を切るようになるまで3カ月以上を要した。今回の自民党政権にはそんな余裕はない。TPPや原発や外交と異なり、この分野を推進することに意見は分かれていないはずだ。成長戦略を推進するエンジンとして、初めから回転数を上げてもらいたい。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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