デジタル業界、2013年の行方は見えた?中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(30)

2013年も半ばだが、デジタル十大ニュースを振り返ってみよう。ビッグデータからスマートテレビ、LINEは成長市場となるか?

» 2013年04月25日 15時13分 公開
[中村伊知哉慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

 2013年も半ば。今年のデジタルの行方はもう見えただろうか。昨年のニュースをネット投票にかけ、今年初めに集計した「デジタル十大ニュース2012」。その結果をカウントダウンで紹介しながら、少しばかり振り返ってみる。コメントは私見。

10位 ビッグデータは宝の山?

 今最注目のワード、ビッグデータ。スマホやセンサからデータがガンガン出てくるし、政府もデータをガンガン出す姿勢。15年かかって「ユビキタス」がやっと現実のものとなった。それをどうビジネスにするかがポイントなのだが、誰にも見えてはいない。みんなにチャンスがある。だから期待されているのだろう。政府や自治体の情報をネット化する「オープンデータ」運動、頑張ります。

9位 スマートテレビ始動:放送、通信、メーカーの本格対応

 地デジ後、通信放送融合後のサービスがやっと見えてきた。テレビ局も通信会社もメーカーも本腰を入れている。グーグル、アップル、huluなどアメリカ発の動きが気になるが、日本はアメリカとは違う形で、つまりマルチスクリーン型のサービスが軸となって市場が立ち上がっていくだろう。

8位 アノニマス大暴れ!ACTAとか霞ヶ浦とか

 やられたね。霞ヶ関の代わりに誤爆された霞ヶ浦の事務所は災難でありました。

7位 遠隔操作ウイルスで警察手玉に取られる

 これも同様のサイバー攻撃。トロイの木馬。誤認逮捕で恥をかいた警察は、「デジタル十大ニュース2012」発表から1カ月後に、30歳男性を真犯人として逮捕したが、2005年、恋のマイアヒ、のまネコ、2ちゃんねる vs. エイベックス案件がらみでの逮捕歴があり、それに対する恨みという情報も。デジタル事件は連鎖し続ける。

6位 ソーシャルなデモ多発

 中東でジャスミン革命、ロンドンやニューヨークでも格差デモ。バーチャルなソーシャルサービスがリアルな世の中を動かしている。ただ、日本の場合は社会運動といっても韓流デモみたいに緩い感じ。日本的なソーシャル社会は、海外とは違うテイストを醸し出していくのではないか。

5位 炎上大国ニッポン:市長も社長も教育長も

 炎上問題が1年で3倍ぐらいに増加している。ビジネス案件、商業サイト案件が多かったのだが、昨年は大津いじめ問題が大炎上し、今年に入っても大阪・桜宮高校をめぐって炎が燃えさかったばかり。社会全体に広がり、案件も多様化、国際化している。日本は炎上大国なのだ。昨年、ニューメディアリスク協会を設立して対策に乗り出しているのだが、まだまだ続くと心得よう。

4位 コンプガチャ問題

 本件、お騒がせしております。グリー、ディー・エヌ・エー、ミクシィなどが中心になってこれも昨年11月にソーシャルゲーム協会(JASGA)を設立、私が事務局長になって、謝る毎日である。もちろん、健全化には力を入れる。一方、ソーシャルゲームは数少ない成長産業でもある。国際競争力を発揮すべく努力してまいりたい。

3位 違法ダウンロード刑罰化

 「デジタル十大ニュース2012」を発表した渋谷のパーティー会場には、音楽・映像業界の方が多数お越しになっていた。業界はこの法律に期待し、ロビイングの成果として投票した人も多かろう。一方、会場には学生も多数。彼らにすれば、ヘタにダウンロードするとお縄になるんで、もう音楽なんて聞かねーし、などというヤツもいる。ただ、それらの思惑とは別に、これは正規ダウンロードを増やすという導入の見込みとは違う効果を及ぼすのではないか。年明け、レコチョクが定額サービスを始めるというニュースもあったが、要はコンテンツがダウンロードのビジネスからクラウドのストリーミングに向かう、その号砲ということなのではないか。

2位 LINE8000万人、無料通話ソーシャルサービス戦国時代へ

 なにせスゴいのは、「デジタル十大ニュース2012」の投票を始めたときには8000万人ユーザーだったのが、発表時にはもう1億人超えのニュースが入っていたこと。すさまじい。他社も次々とサービスをスタートさせている。新しいバトル、新しい戦場だ。

1位 どないしてん日本家電産業

 で、やはりこれが1位。

 目の付けどころがアレだった会社もアレで。

 島耕作さんも社長退任だそうで。

 アベノミクスで復活なるか。

 ちなみに、2011年の十大ニュースの結果も掲げておこう。これは1位から。

2011年の十大ニュース
1位 スマートフォン急激に普及 上半期出荷台数は1000万台超
2位 スティーブ・ジョブズ氏死去
3位 復旧作業や安否確認にソーシャルサービスが活躍
4位 通信・放送融合法制が施行
5位 震災後 TVのネット配信が一時実現
6位 Facebookの加入者 日本で1000万人突破
7位 タブレット端末 各メーカーから出そろう
8位 地デジ、被災3県除き整備完了
9位 DeNA野球参入に楽天が反対
10位 サイバー攻撃相次ぐ

 そうだった、そうだった。マルチスクリーン(スマホ、タブレット)、クラウドネットワーク(融合法制、地デジ)、ソーシャルサービス(ソーシャル、Facebook)のメディア3分野構造変化が見事に表れたラインアップだった。

 2012年は、その具体像が現れた。マルチ、クラウド、ソーシャルのマイナス面、すなわちガチャ、炎上、家電の落ち込みといったゴタゴタが噴出した。半面、スマートテレビ、LINE、ビッグデータ、といった次の市場も見えてきた。

 2013年は、このプラス・マイナスの動きが加速して、次の方向がハッキリし、勝ち負けが分かれようとしている。問題を抑えること。成長分野を伸ばすこと。その両面にアクセルを吹かせているが、さて、年末にはどんな結果となっているやら。

中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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