色を聴くデバイスが人間のカラダの一部として認められた日太田智美のビビビ「TEDTalks」ピックアップ!

「TEDTalks」の中から、編集部の太田が「ビビビ」と感じた動画をピックアップし、不定期に紹介する企画。今回取り上げる動画は、「I listen to color」だ。

» 2013年03月08日 13時57分 公開
[太田智美@IT]

本連載では、TED(「Technology Entertainment Design」の略)が主催するカンファレンスの講演動画「TEDTalks」の中から、編集部の太田が「ビビビ」と感じた動画をピックアップし、紹介していきます。


「I listen to color」

 ニール・ハービソン(Neil Harbisson)氏は、色がまったく認識できない「色覚障害」を持って生まれた。彼は色を見たことがなく、モノクロの世界で生きている。いつも空はグレーで、どの花を見てもグレー、テレビも彼の中ではまだ白黒だという。しかし、ニール氏は「色」を聴くことができる。

 2003年、彼はコンピュータ科学者の アダム・モンタンドン氏とプロジェクトを立ち上げ、「電子アイ」を作った。電子アイとは、色の周波数を認識するカラーセンサー。色の周波数を認識すると、頭の後ろに装着したチップに色情報が送られ、骨伝導で色を聴くことができる仕組みだ。ニール氏は、色の名前と音をリンクさせ、「色」を「音」に変換して聴いている。彼には、好きな色ができ、色付きの夢が見れるようになった。

 「色のある夢を見るようになったとき、このソフトウェアと僕の脳が1つになった気がした。夢の中では、デバイスではなく、僕の脳が電子音を作り出しているのだから……」彼は言う。デバイスがニール氏に溶け込み、カラダの一部になった瞬間だ。そして、このデバイスは、正式に「ニール氏のカラダの一部」として認められた。次の写真を見てほしい。これは、2004年に撮影された彼のパスポートである。

電子機器と一緒に写っているニール氏のパスポート写真 電子機器と一緒に写っているニール氏のパスポート写真

 イギリスでは、電子機器と一緒に写った写真をパスポート写真に使うことは許されていない。しかし、例外的に認められた写真が、これだ。「これは僕の体の一部であり、僕の脳の延長なのです」。ニール氏は、旅券局に粘り強く説明した。

 「色を聴く」ようになって、彼の人生は劇的に変わった。美術館へ行けば、ピカソの絵を、まるでコンサートホールにいるかのように聴くことができる。スーパーマーケットの中を歩けば、クラブの中を歩いているような感覚がある。「特に洗剤の通路は本当に素晴らしい」とニール氏はニヤリと語る。

 着る服にも、変化があった。これまではデザインで服を選んでいたが、今は音の響きで服を選んでいるのだそうだ。食べものに対する考え方も変わったという。盛り付け方次第で、自分の好きな曲が食べられるという。盛り付けを工夫すれば、作曲することも可能。「例えば、オードブルにレディ・ガガのサラダを食べられるレストランはどうか? 中高生も野菜を食べるようになるかもしれない。メインディッシュに、ラフマニノフのピアノコンチェルトはどうか? デザートは、ビョークかマドンナがいい。わくわくするレストランだ。音楽を食べることができるのだから」と彼はうれしそうに話す。

 現在ニール氏は、人間の視覚と同じ360色を認識できる。そればかりではなく、人間の目が認識できない赤外線と紫外線まで認識できる。さらに、「音」を聴いて「色」を感じることもできる。電話が鳴ったときには緑を感じ、モーツァルトの曲を聴けば黄色を感じるのだという。

 2010年、ニール氏は「サイボーグ基金」を設立した。サイボーグ基金は、人がサイボーグになるための援助をしたり、テクノロジによる感覚の拡張を推進する団体である。ニール氏は「知識は感覚から育まれる。感覚を拡張できれば、知識を拡大することができる」と話す。

 筆者は彼の話を聞いて、うらやましいとさえ感じた。毎日の生活が色と音であふれていて、とても楽しそうだ。「色は見るもの」、この思い込みが、私たちの能力や可能性を制限しているのかもしれない。


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