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» 2013年05月13日 15時18分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(31):どうする、知財計画2013

世界で最もクリエイティブな国は日本だという評価が圧倒的第1位だったのに対して、日本人だけが日本のことをクリエイティブだと思っていないという結果。自ら点検し、評価しつつ、外に出すための戦略をゼロベースで見直さなければならない。

[中村伊知哉,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

 知財本部コンテンツ専門調査会の2013年審議が本格化している。私が会長に就いて4年目の知財計画作りとなる。

 民主党から自民党に政権が移ったが、知財本部が発足したのは10年前の自民党政権なので、この分野を強化する方針は不変、というか、一層力を入れてくれることを期待する。ただ、10年たったのだから、これまでの10年の政策を踏まえて次に進むべきだ。

 10年前にはスマホもタブレットもなかった。地デジもブロードバンドも整備中だった。ソーシャルサービスもなかった。今やデバイスも、ネットワークも、サービスも様変わり。しかもビジネスがすべてボーダレスに移行した。コンテンツ政策はこの数年で変化はしてきたが、もはや断層的な転換が必要となっている。ビジョンを作り直すにはギリギリのタイミングだ。10年前、コンテンツ分野には成長産業という期待もあったが、今や悲壮感を持って立ち向かう必要がある。

 コンテンツ政策はこの3年で変換した。

  1. 著作権制度で守るスタンス以上に、プロジェクトを開発して攻めるスタンスに移行した。
  2. エンタメより基盤整備:インフラや人材育成に力を入れるようになった。
  3. 国内だけでなく海外展開に注力するようになった。

 方向としては良い。

 このタイミングでメンバーも若干の変更があった。吉本興業大崎社長、ドワンゴ川上会長、プレイステーションの久夛良木健さん、avexの谷口さん、デジハリ杉山学長、俳優の別所哲也さんら従来メンバーに、講談社野間社長、フェイス平澤社長、東映岡田社長らが加わり、角川グループ角川会長、漫画家の里中満智子さん、中山信弘東大名誉教授らも会議に参加され、報告を取りまとめるのはあらかじめ放棄したい怖いメンツだ。

 ただし、これまでの10年で、知恵は出尽くしているくらい出ている。画期的な新機軸はなかなか期待しづらい。各種政策にどう優先順位を付け、どう踏み込むかの決断が重要な段階だ。実行、あるのみ。その点、コンテンツ政策でよく例に出される韓国と日本との違いは、政治を含む「国の気合い」。これを民間サイドから強く求めたい。

 重点を置くべきは3点ある。

1. 海外展開の強化。

 海外のメディア枠を買う、輸入規制を撤廃してもらう、そうした思い切った手が必要だ。

 今回の政権交代直後、補正予算でコンテンツ海外展開に170億円が計上された。のっけから、政府にはやる気が見える。

2. 国内の基盤整備。

 長期的な底上げを図ること。デジタル教科書の完全普及、オープンデータ:政府保有情報のオープン化と利用フリーなど骨太の施策が必要。

 ネット選挙解禁、医薬品ネット販売解禁もコンテンツ政策とも捉えるべき。

3. 政府の一体化。

 8省庁が1つのテーブルに着いて、前向きに施策をぶつけ合うようになった。これが10年間の最大の成果かもしれない。これを前進させたい。

 特に、ハードソフト一体の政策が重要。オープンデータも、デジタル教科書も、コンテンツ政策とIT政策の複合がポイントとなる。これも政治主導で行ってもらう必要がある。   

 2013年会議の初会合で、デジタル・ネットワーク化(基盤整備)とクールジャパン(海外展開)の2本柱で進めることが了承された。議論の冒頭、私から「状況認識」の私見を話したので、記しておこう。

 デジタル化・ネットワーク化

 デジタル化、ネットワーク化が本格化して20年。新しいビジネスチャンスが広がっている。

 特にこの10年間で、コンテンツが注目を集め、著作権法を改正してデジタル化に対応するなどの政策が取られてきた。

 しかし、コンテンツの利用や情報の生産は爆発的に増大する一方、コンテンツ産業は拡大するどころか縮小傾向にある。

 さらに、この数年、マルチスクリーン、クラウドネットワーク、ソーシャルサービスといったメディアの刷新が起こっていて、デジタルやネットワークは新しい段階に入った。

 その中で、日本のコンテンツ産業はプラットフォームのグローバル競争にも勝利できていない。

 また、教育、行政といった分野でのコンテンツの生産と利用も遅れている。

 こういう状況の中、もちろん権利の保護は重要な課題であるが、世界的なデジタル化・ネットワーク化に対応して新しい産業と文化の発展を続けるためには、権利者と利用者の利害対立、ハードとソフトの対立といった構造を超えた、総合的な制度設計や新分野の創造が必要。

 コンテンツを我が国の経済と文化の原動力として推進するための戦略を実行すること。その政策のプライオリティを高めていくことが重要。

 クールジャパン

 クールジャパンという言葉が使われるようになってこれも10年になる。

 日本の現代文化は、クールジャパンとして世界の共感を得ている。

 その共感は、マンガ、アニメ、ゲームといったコンテンツにとどまらず、ファッション、食、伝統工芸、観光などに広がっている。

 さらに、工業デザイン、サービス水準、家族経営、生活様式、といった経済・文化全般に注目が集まっている。

 こうしたソフトパワーを経済成長につなげるために、海外市場を取り込むことがわれわれのミッションだ。

 手法としては、メディアやイベントでの情報発信を強化するというアウトバウンドが第一。さらに、人も技術も取り込んで、日本を本場に、産業文化の増殖炉にするというインバウンドがもう1つ。

 コンテンツやファッションなどの競争力ある産業分野を横断する施策に政府も民間も力を入れるようになったが、本格的な成果が上がるのはこれから。

 重要なのは、クールジャパンの力をきちんと認識すること。

 クールジャパンの力の源泉は2つあると考える。1つは総合力。文化の力、コンテンツやデザインを生み出す力と、技術の力、高品質な製品やサービスを作るものづくりの力、この文化力と技術力の双方を持ち合わせる総合力が、古来培ってきた日本の強み。

 もう1つは、国民の、庶民の、みんなの力。日本のポップカルチャーは限られた天才というより、みんなが庶民文化として育んできたものであり、いわばソーシャル力。ネットワークでみんながつながる時代は大いなるチャンス。

 しかし問題は、その力を日本人が認識していないこと。

 ある米企業の国際調査では、世界で最もクリエイティブな国は日本だという評価が圧倒的第1位だったのに対して、日本人だけが日本のことをクリエイティブだと思っていないという結果。

 クールジャパンという言葉も海外から入ってきたものであり、日本が自らを評価したものではない。自ら点検し、評価しつつ、外に出て行くことが重要。

 すでにさまざまな意見が出されている。政府データ・情報を著作権フリーにする主張や、孤児著作物の利用促進策などが提案され、スタートから取りまとめの大変さを予測させる。それ以上に、「コンテンツ」の概念を改めよという指摘が相次ぎ、環境の変化を認識させている。これまでの重要な論点は3つ。

1. パッケージからの脱却

 これまでパッケージ・コンテンツを中心に施策が組み立てられてきたが、もはやユーザー経験がより重視されている状況であり、コンテンツという言葉自体も見直すべき。ソーシャルゲームのようなダイナミックなコンテンツが重きをなしている。アプリを念頭に施策を考えるべき。といった、クラウドでソーシャルの情報環境を軸に据えた組み立てが必要という指摘だ。

2. グローバル化への対応

 ドワンゴ川上さんが「自主規制が日本企業のウィークポイントになっている。強い規律のせいでガラケーはiPhoneに競争力を失い、同様のことがソーシャルゲームでも起きる」と指摘していた。中山先生も「アメリカではできるビジネスが日本では不可能という事例がある。政府規制だけでなく、自主規制や業界慣行を見直す必要がある」。10年前は、官から民へという動きの下、公的規制を撤廃・緩和することに力を注いだ。それで民間に舞台が移管し、10年たったら、今度は民民の規制が問題というわけだ。私もソーシャルゲームの自主規制に汗をかいているが、指摘のような問題はすでに表面化している。日本の業界は自分で自分を縛るのに、外国企業はフリーハンドでビジネスを続ける、という構図。さあどうしよう。

3. エンタメからの脱却

  ユーザージェネレイテッド・コンテンツの広がりを戦略として捉えるべき。オープンデータ、ビッグデータをコンテンツ政策の観点で考えるべき。教育情報化をコンテンツ政策として推進すべき。これまで議論の中心をなしてきたエンターテイメント産業からスコープを広げよ、というものだ。これは私がこの10年ほど いい続けてきたことだが、やっと多くの口から立ち上るようになった。

 これに対し、そもそも10年間で知財はどれだけ増えたのか、ビジネスはどれだけ拡大したのか、という問い掛けもあった。ストックではなくフローで見ると、世界のコンテンツ市場が年6%で拡大する一方、日本市場は縮小傾向にある。他方、私の計算では、過去10年間で、日本の情報発信量は30倍に増大している。M2Mやビッグデータの活発化で、よりハイペースで増大するだろう。しかし、マッキンゼーによれば、この10年に「蓄積」された情報は、日本は北米の11%にすぎないという。情報は生むが、知財として蓄積されていないのだ。従来は産業規模の拡大を国の目標に据えていたのだが、情報量や情報流通行動などに目を向けることが重要になっている。

 戦略をゼロベースで見直さなければならない、ということだろう。頑張ります。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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