Windows RTWindows Insider用語解説

WindowsベースのタブレットPCには、Windows 8に混じって「Windows RT」と呼ばれるOSがしばしば採用されている。見た目はWindows 8そっくりだが、何が違うのか? 特長とメリット/デメリットを解説する。

» 2013年03月18日 16時58分 公開
[島田広道デジタルアドバンテージ]
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 Windows RTは、2012年にリリースされた、ARMプロセッサ搭載コンピュータ向けのWindows OSである。その基本アーキテクチャはWindows 8と同等で、機能的にもよく似通っているが、従来のWindowsアプリケーションを実行できないなど大きな違いもある。主にタブレットPCに採用されており、国内でもWindows RT搭載機種が販売されている。OS単体では販売されておらず、ハードウェアへのプレインストールとしてのみ提供されている。現時点でエディションは1種類だけである。また従来のWindows OSからアップグレード・パスはない。ちなみにWindows RTはWindows 8中の1エディションではなく、別個の製品である。

Windows RT搭載機の例 Windows RT搭載機の例
MicrosoftのタブレットPC「Surface RT」(写真は英語版)。国内では2013年3月15日から販売が始まっている(製品情報ページ)。

 Windows RT登場の背景には、タブレットPCの隆盛がある。従来、デスクトップPCやノートPCにはIntel/AMDのx86/x64アーキテクチャのプロセッサが搭載されてきたが、タブレットPCにとっては消費電力が比較的多くバッテリの持続時間が短いといった欠点があった。そのため、タブレットPCには消費電力の少ないARMアーキテクチャのプロセッサがよく搭載されている。ところが従来のWindows OSにはARM搭載タブレットPCに対応するバージョンがなく、タブレットPCのOSはアップルのiOSやGoogleのAndroid OSが大勢を占めている。それに対抗するべくリリースされたのがARM対応のWindows RTといえる。

Windows RTで、できること

 Windows RTの構成をごく簡単に表すなら、それは「いくらかの制限のあるWindows 8+Office 2013」といえる。

■UIや主要なプレインストール・ソフトウェアはWindows 8と同等

 ユーザー・インターフェイス(UI)としては、Windows 8の特徴であるWindowsストア・スタイルと、従来と同じWindowsデスクトップの両方を備えており、Windows 8と同じ操作方法で扱うことができる。また、エクスプローラやコマンド・プロンプト、Windowsストア、メール、People(アドレス帳)、ワードパッド、メモ帳などWindows 8の主要なプレインストールのソフトウェアは、Windows RTにもプレインストールされている。

Windows RTのスタート画面 Windows RTのスタート画面
Windows 8と変わらないWindowsストア・スタイルのデザインで表示される。Windowsストアやメール、Peopleといったソフトウェアがプレインストールされていることや、タブレットPCに適したタッチ操作ができる点も共通している。

Windows RTに同梱されているデスクトップ・アプリケーション Windows RTに同梱されているデスクトップ・アプリケーション
エクスプローラやコマンド・プロンプト、コントロール・パネルのアプレット、各管理ツール、タスク・マネージャなどなど、標準装備のユーティリティやアプリケーションはWindows 8とほぼ共通である。

■Windows RT用Office 2013を標準装備

 Windows RTの一大特長は、「Office 2013 RT」と呼ばれるWindows RT用のOffice 2013が標準で付属していることだ。これにはWordとExcel、PowerPoint、OneNoteが含まれる(Outlookは含まれていない)。x86/x64向けOffice 2013と比べ、マクロやアドイン、フォームが利用できないといった制限はあるものの、そのほかは閲覧・編集ともに同じ機能が利用できる(機能制限についてはマイクロソフトの「Office 2013 RTの紹介」が詳しい)。ほかのタブレットPCのプラットフォームでは、互換性不足からOfficeファイルの表示が乱れる(x86/x64向けOfficeと同じ表現ができない)ことが少なくない。その点で、マイクロソフトの「純正」のOfficeアプリケーションが利用できることは大きなメリットといえる。

Word 2013 RTの画面Excel 2013 RTの画面
PowerPoint 2013 RTの画面OneNote 2013 RTの画面 Windows RTにはOffice 2013 RTが標準装備される
Office 2013 RTはOffice 2013のWindows RT用エディションで、WordとExcel、PowerPoint、OneNoteが含まれる(Outlookは含まれない)。他のプラットフォームに比べ、マイクロソフト「純正」のOfficeアプリケーションで閲覧・編集ができることは大きなメリットといえる。

Windows RTができないこと

 Windows 8を含む従来のWindows OSでは当たり前だったことが、Windows RTではできない場合がある。

■従来のWindowsアプリケーションが実行できない

 Windows RTでは、従来の(x86/x64プロセッサ用)Windows OS向けに作られたWindowsアプリケーションが利用できない。これらのアプリケーションを実行しようとすると、「このアプリはお使いのPCでは利用できません」といったエラー・メッセージが表示されて、実行できない。つまり、従来のWindows OS向けの豊富なソフトウェア資産の大部分が、Windows RTでは実行できないということだ。

Windows RTでプログラムが実行できないときのエラー・メッセージの例 Windows RTでプログラムが実行できないときのエラー・メッセージの例
Windows RT上で従来のWindowsアプリケーションを実行しようとすると、このようなエラー・メッセージが表示され、実行できない。

 Windows RTで実行できないアプリケーションには、従来の.NET Framework対応ソフトウェアや従来のInternet Explorer向けActiveXコントロールも含まれる。その一方でバッチやVBScript、PowerShellで記述されたスクリプトはWindows RTでも実行できる。

実行プログラムの種類 実行可/不可
バッチファイル
VBScript
PowerShell
Flash ○(IE10上のFlash Playerで再生・表示可能)
Java ×
Silverlight ×
従来のWindowsアプリケーション(Win16/Win32/Win64を使ったx86/x64ネイティブ・プログラム) ×
従来の.NET Framework対応アプリケーション ×
従来のInternet Explorer向けActiveXコントロール ×
Windowsストアのアプリケーション ○(一部はWindows RT非対応)
Windows RTで実行できるプログラムと実行できないプログラム
従来のネイティブ・アプリケーションやNET対応アプリケーションは、Windows RTでは実行できない。つまり過去の豊富なWindows向けソフトウェア資産の大部分が実行できない。

 ソフトウェア開発環境としては、Windows 8上のVisual Studio 2012を使った、Windowsストア・アプリのクロス開発のみがサポートされている。ARMプロセッサ用バイナリからなるデスクトップ向けのアプリケーションは作成できない。結局、エンドユーザーがWindows RTで実行できるネイティブ・アプリケーションは、実質的にWindowsストアから入手できるものに限られる。

■利用できない周辺機器がある

 Windows RTで利用できる周辺機器は、現時点で実質的に、対応するデバイス・ドライバがWindows RTに同梱されているものに限られる。同梱のデバイス・ドライバでは対応できない周辺機器の場合、Windows RT向けに作られたデバイス・ドライバを組み込む必要がある。しかし、それらが提供されている周辺機器は現時点で決して多くはない。たとえ同梱のデバイス・ドライバが周辺機器を正しく認識した場合でも、ベンダがWindows RT対応のサポート・アプリケーションを提供していないため、使い勝手がWindows 8と比べて劣ってしまう、といった事態も考えられる。

Windows RT対応のイーサネット・アダプタを探しているところ Windows RT対応のイーサネット・アダプタを探しているところ
マイクロソフトは、Windows RTやWindows 8の各種互換性情報を「互換性センター」というサイトで提供している。
  (1)「Windows RT」を選ぶ。
  (2)周辺機器の対応状況を確認するには「デバイス」をクリック(タップ)する。
  (3)確認したい周辺機器をここから絞り込む。ここでは有線のイーサネットに接続するためのアダプタを探してみたが、Windows RTで公式に利用可能とされている製品は見あたらなかった。

■Windows 8の企業向け・上級者向け機能の大部分が利用できない

 Window 8 Pro/Enterpriseに搭載されている企業向け・上級者向けの機能は、Windows RTにはほとんど実装されていない。例えばWindows RTではActive Directoryに参加できないため、グループ・ポリシーなどによる統一的な管理ができない。またリモート・デスクトップのサーバ機能もない(クライアントとしては接続可能)。仮想マシンの実行(クライアントHyper-V)やディスクの仮想化(記憶域プール機能)、IISの機能も持っていない。その一方でディスクを暗号化するBitLocker(解説記事)には対応している。

Active Directoryドメインには参加できない Active Directoryドメインには参加できない
これはコンピュータ名を変更するためのダイアログ。操作方法はWindows 7などと共通だが、「所属するグループ」については[ドメイン]が選択できず、ワークグループ名の変更しかできない。

 Windows RTの機能一覧は、Windows 8レボリューション「第1回 Windows 8製品版の概要」の表「Windows 8のエディション別機能」を参照していただきたい。


 Windows RTの評価は、汎用のクライアントOSとタブレットPC専用OSのどちらとして捉えるかによって、大きく異なるだろう。汎用OSとしては、Windows 8と比べて機能不足は否めず、何より従来のWindowsアプリケーションが利用できないというデメリットが用途を大幅に限定してしまう。

 一方、タブレットPC専用OSとしては、Windows 8から機能を絞り込んでコンパクト化を図りつつ、タブレットPC市場で採用の多いARMプロセッサに対応した。そのため、Windows 8と比べると、安価でバッテリ持続時間の長いWindowsタブレットPCを実現しやすくなった。アプリケーションについては、そもそも従来のデスクトップ・アプリケーションの大半はタッチ操作に最適化されていないので、タブレットPCに適した新しいWindowsストア・アプリケーションで評価すべきだろう。

 その点で鍵となるのは、Windowsストア・アプリケーションの充実度である。始まってから1年も経っていない現時点では無理もないことだが、正直なところ、iOSやAndroid OSのタブレット向けアプリケーションに比べ、まだまだ質、量ともに不足しているといわざるをえない。Windows RT搭載タブレットPCの導入には、こうした状況も鑑みる必要があるだろう。

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