NFC(Near Field Communication)Windows Insider用語解説

「おさいふケータイ」「Suica」のようなサービスを実現する近距離無線通信の国際規格「NFC」。スマートフォンにもよく搭載されている(「iPhone 6」に搭載との噂も)。今後主流となりそうなこの技術のポイントや最新動向を解説する。

» 2013年03月25日 11時31分 公開
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 「NFC(Near Field Communications)」とは、広義では携帯電話や非接触ICカードなどの各種デバイス間において無線技術を用いた非接触の近距離通信を行う技術の総称である。より狭義で具体的には、「ISO/IEC 14443」と「ISO/IEC 18092」の2つの標準によって定められた近距離無線通信規格を指す。これらは、技術的には世界中で広く利用されているMifare(Type A/B)、主に日本や一部アジア地域で利用されているFeliCa(Type F)といった規格の上位互換にあたる。「至近距離でなければ通信できない」というセキュリティ上の特性を活かし、主に個人認証や決済などに利用されている。また近年では「NFCタグ」と呼ばれる無線タグを用いてQRコード代わりにしたり、端末同士での情報交換や接続に利用したりと、応用範囲が増えつつある。

NFCを利用したサービスの例

 日本では「おサイフケータイ」や「Suica」などの名前で広く知れ渡っているのがFeliCaで、すでに多くの人が利用している。商品の決済や交通機関の出入場記録、身分証明に関するものまで、多くの情報が携帯電話やICカードに内蔵されたセキュリティ・チップ上に記録され、専用のリーダに軽くかざすだけで簡単に必要な処理が行われる。切符を買う手間や小銭を出す手間が省けるため、対応したサービスが多ければ多いほど利便性が向上する。

海外におけるNFC対応の携帯端末を利用したサービスの例 海外におけるNFC対応の携帯端末を利用したサービスの例
フランスのニースで提供されているCityziサービスでは、フランスの携帯キャリア3社(Orange、SFR、Bouygues)で発行されたSIMカードとNFC対応端末を組み合わせることで、トラム(路面電車)やバスの乗車のほか、対応店舗での買い物が行える。これはトラム内に設置されたリーダ/ライタにNFC対応端末をかざして、その運賃を支払っているところだ。

NFCの基本的な動作原理

 NFCは一般に20cm以内での非接触通信を定義しているが、実際にはセキュリティと読み取り精度の問題があるため、対向するデバイス(ICカードなど)と読み取り・書き込み装置(カード・リーダ/ライタ)のアンテナ同士を数cm程度にまで近付けて利用することが多い。例えばFeliCaに対応したスマート・カードではICチップとアンテナが内蔵されており、これをカード・リーダ/ライタに近付けることでICチップの情報を読み取らせることが可能になる。この際、FeliCaカードとカード・リーダ/ライタの間には磁界による誘導電流が発生する。これを起電力とすることで内蔵のICがバッテリなどによる給電なしに動作し、カード・リーダ/ライタとの通信が行われる。これはシール状の「NFCタグ」でも同様で、こうした誘導電流による無線通信を行う装置のことを「パッシブ・タグ(Passive Tag)」と呼んでいる。

NFCやFeliCaの基本的な動作原理 NFCやFeliCaの基本的な動作原理
これはICカード側に電池などの電源が不要なパッシブ・タグ型の動作を表している。カード・リーダ/ライタからの電磁波を利用した誘導電流によってICチップが動作し、データの書き込みや読み出しが行われる。また、サイフなどに複数のICカードが入っていた場合、リーダ/ライタとの間で認証が行えず、情報の書き込みが行えない場合がある。Suicaと運転免許証などを同じ財布やパスケースに入れておくと、改札の通過時にエラーになるのはこうした理由からだ。

 逆に携帯電話やICチップを内蔵した小型ドングルなど、誘導電力なしで自ら無線通信が可能な装置を「アクティブ・タグ(Active Tag)」と呼ぶ。ハードウェアやソフトウェアの仕様にもよるが、携帯電話の「おサイフケータイ」がバッテリの切れた状態で動作しないのは、こうした違いによる。もっとも、携帯電話のNFC通信に必要な電力はわずかなため、ごくわずかでもバッテリに電力が残っていればおサイフケータイは利用できる。

NFCのさまざまな実装形態

 NFCでは、「NFC対応携帯電話(スマートフォン)」といったデバイス、「社員証」などのICカード型のもの、「NFCタグ」と呼ばれるポスターなどに貼付される無線タグ(RFID)、これらタグやICカード情報を読み取るためのリーダ型デバイスなど、さまざまな実装形態がある。

 ICカードやNFCタグには、情報が記録されたICチップと通信モジュール、アンテナが内蔵されている。これに専用リーダ/ライタやスマートフォンなどのNFC対応デバイスをかざすと、誘導電流によって通信が行われ、カード情報の読み出しが可能となる。この場合、NFC対応デバイスが主体的に情報を読み書きする側であり、ICカード/NFCタグはそのアクセスに応じて情報を提供したり格納したりする、いわば受け身の側である。

NFCタグが添付された「スマート・ポスター」の例 NFCタグが添付された「スマート・ポスター」の例
前述のCityziでは、トラムの各停留所にあるQRコードまたはNFCタグから、トラムの運行状況を把握できる。これはポスター上のNFCタグにNFC対応端末をかざして、運行状況を掲載しているWebページへのリンクを取得しようとしているところ。
  (1)これらがNFCタグ。NFC対応端末と無線で通信することで情報を取得できる。
  (2)こちらは通常のQRコード。カメラ機能で画像を読み取ることで情報を取得できる。

 またNFC機能を内蔵するスマートフォンなどの携帯端末は、前述したICカード/NFCタグ情報の読み書きのほか、自らがICカード/NFCタグとして振る舞うことができるものもある。つまりカード・リーダ/ライタからのアクセスに対して、スマートフォンがICカード/NFCタグとして動作し、情報を記録したり提供したりできる。スマートフォンなら、Wi-Fiや3G/4Gといった自身の通信機能によってタグ情報を動的に更新できるので、単なるICカード/NFCタグと比べて応用範囲が広い。例えば何らかのチケットを利用する場合、チケット情報をほかの機械で書き込むことなく、スマートフォン自身で予約サイトへのアクセスとチケット購入、タグ情報としてのチケット購入情報の格納などの処理を完結できる。また1台のデバイスに複数のカード情報を同時に書き込むことが可能で、ユーザーはサービスごとに複数のカードを携帯しなくても1台のデバイスを持ち出すのみでよくなる。いわゆる「ウォレット(Wallet)」と呼ばれる機能であり、これもスマートフォン利用ならではのメリットだ。

NFCがサポートする3つの動作モード

 ICカード/NFCタグは「情報の記録」、専用のリーダ/ライタ装置は「記録情報の読み出しや書き込み」といった単機能に特化しているのに対し、NFCに対応した携帯電話(スマートフォン)では、どちらの機能にも対応できる。この2つの動作モードを「カード・エミュレーション・モード」「カード・リーダ/ライタ・モード」と呼び、互いに対の関係にある。またNFCの規格には「ピア・ツー・ピア・モード」と呼ばれる第3のモードも用意されており、同モードに対応したNFC端末同士であれば、NFCの通信機能を使ってデータの交換が行える。Android 4.x以降でサポートされた「Androidビーム」はこの「ピア・ツー・ピア・モード」を利用した機能だ。

NFCにおける3つの動作モード NFCにおける3つの動作モード
NFCでは3種類の動作モードが規定されている。同じNFC対応端末でも、動作モードによって役割が変わる。上図では「NFC対応端末」に実装されている各動作モードの挙動を表している。
  (1)携帯電話やスマートフォンなどのNFC対応端末をICカード/NFCタグとして利用するモード。
  (2)NFC対応端末をカード・リーダ/ライタとして利用するモード。
  (3)NFC対応端末同士でお互いに情報をやり取りするモード。「NDEF(NFC Data Exchange Format)」と呼ばれるフォーマットで情報を交換できる。原則としてセキュアな記録領域にはアクセスしない。

 以下、3つのモードについてまとめてみる。

●カード・エミュレーション・モード

 携帯電話(スマートフォン)をICカード/NFCタグとして利用するモード。「おサイフケータイ」「モバイルSuica」といったサービスはこの機能を利用している。ICカード/NFCタグでは内蔵ICチップに情報が記録されるが、携帯電話(スマートフォン)の場合は「SE(セキュア・エレメント)」と呼ばれるICチップ部品に情報がセキュアに記録され、通常のストレージとは異なり、簡単に情報が読み出せないようになっている。SEに情報を記録することにより、携帯電話の通信機能/専用アプリケーションを利用してSE上の情報(課金情報など)を更新することなどを可能にしている。例えば、モバイルSuicaなどでは携帯電話を利用したチャージ(入金)ができたり、マクドナルドの「トクするケータイ」サービスでは専用の携帯/スマホ・アプリケーションを利用してクーポンをSE上に保存したりできる。

 SEの実装方式は大きく3種類に分類できる。

  • エンベデッド(Embedded)方式: 端末内蔵のICチップにセキュア情報を記録する方式。日本の多くの携帯電話のほか、GoogleがNexusシリーズで採用している
  • SIM方式: 携帯キャリアが提供しているUICC(Universal Integrated Circuit Card:SIMカード)に直接セキュア情報を記録する方式
  • SDカード方式: SDカードなど外部の媒体にセキュア情報を記録する方式

 現在、世界で最も利用が進んでいる事例としては「エンベデッド方式」が中心だが、GSM Association(GSMA)*1をはじめとする携帯キャリア連合らは「SIM方式」を強く推進しており、おそらくはSIM方式が今後の主流になる可能性が高いとみられる。一方で、3G/4Gなどの携帯通信やSIMカードを必要としない家電デバイスが今後増えてくることも見込まれていることから、第3の方式であるSDカード方式にも注目が集まっている。中国では銀聯カード*2の機能をアプリケーションとしてSDカードに内蔵し、これを携帯電話に挿入して決済に利用する実証実験が行われているなど、途上国でのサービス展開で活用する事例もあるようだ。SIM方式の採用は携帯キャリアがサービスにおける主導権を握るということも意味しており、どの方式を選択するかは業界間の綱引きがバックグラウンドにあると考えていいだろう。

*1 GSMAは、GSM方式を採用している携帯キャリアの業界団体。

*2 銀聯は、中国における金融機関の団体のことで決済システムの共通化を担っている。銀聯カードとはその所属金融機関で利用可能な決済用カードの総称。


●カード・リーダ/ライタ・モード

 仕組み的には「カード・エミュレーション・モード」の機能を反転させたもので、NFCのインターフェイスを使ってICカード/NFCタグの読み書きを行う。通信方法にもよるが、SEの存在は必須ではない。そのため、コストのかかるSEを搭載せず、後述の「ピア・ツー・ピア・モード」とこの「カード・リーダ/ライタ・モード」のみをサポートしたNFC対応スマートフォンも存在する。当然、このような端末にICカード/NFCタグとしての機能はなく、おサイフケータイのようなサービスは利用できない。日本で販売されている「NFC対応」をうたった端末でも、この2モードのみ対応のものがあるので注意したい。

カード・リーダ/ライタ・モードとピア・ツー・ピア・モードだけ実装されたNFC対応端末の例 カード・リーダ/ライタ・モードとピア・ツー・ピア・モードだけ実装されたNFC対応端末の例
これは2013年3月発売の富士通製Androidスマートフォン「Arrows X F-02E」の展示パネル。
  (1)「NFC(FeliCa搭載)」の下に「NFC決済機能非対応」と記されている。カード・エミュレーション・モードには非対応とのことだ。

 またIntelが将来のUltrabookにおいて、NFC対応を行うことを発表している。これは「カード・リーダ/ライタ・モード」をサポートしたインターフェイスを用意することで、MasterCardのPayPassVisaのPayWaveといった非接触決済サービスに対応したICカードを端末にかざして安全な決済を行える仕組みの実装を目指している。

●ピア・ツー・ピア・モード

 2つの端末のNFCインターフェイス同士を重ね合わせることで、端末間でデータ交換を行うモード。ここでは「NDEF(NFC Data Exchange Format)」と呼ばれる方式でデータがやり取りされる。ただしNFCのデータ転送速度自体がそれほど高速ではないため(100k〜400kbit/s程度)、数Kbytes程度のデータであれば問題ないが、画像や音楽などの比較的重いデータの転送には多くの時間を要する。そのため、これら大容量データの転送にはWi-Fi DirectやBluetoothなどのほかの比較的高速な転送技術を組み合わせるのが一般的だ。前述のAndroidビームが標準で画像データの転送を行えない理由はここにある。

FeliCaとNFCの違いと諸問題

 冒頭でNFCはMifare(Type A/B)とFeliCa(Type F)の上位互換だと説明したが、実際には無線インターフェイスで共通化が行われているだけで、カード・エミュレーション・モードで必要となるSEの方式はその限りではない。いくつかの勧告を経てNFCが世界標準化されたが、同モードでサポートされたのはMifare(Type A/B)のみで、FeliCa(Type F)は世界標準から外れる形となった。つまり、日本国外でNFC対応をうたう端末のほとんどはMifare(Type A/B)のみをサポートしたものであり、FeliCa(Type F)との互換性はない。これは海外のNFC端末を日本に持ち込んだとしても、そのままでは物理的に「おサイフケータイ」や「モバイルSuica」といったサービスを絶対に利用できないことを意味する。

 現在、日本で販売されているNFCとFeliCaへの両対応をうたった端末では、NFCの共通無線インターフェイス(RF-IF)を搭載しつつ、FeliCa用の内蔵SEチップとMifare用のアプリケーションを搭載するUICCへのインターフェイス、共通の無線インターフェイス(RF-IF)の3つをブリッジ・チップで接続する方式を採用している(下図の真ん中)。両方式をサポートできる半面、チップ点数がMifare(Type A/B)のみの場合と比べて多く、コスト面や実装面積の面で不利となる。そのため、NTTドコモら各社は現在エンベデッド方式の形で搭載しているFeliCa用のSEを、将来的にUICC内部のソフトウェア領域に移していく方法を計画している(下図の(3))。これにより、内蔵SEやブリッジ・チップが不要になり、コストが低減できるほか、実装がシンプルになる。

NTTドコモが計画しているFeliCa(おサイフケータイ)とNFCの統合計画 NTTドコモが計画しているFeliCa(おサイフケータイ)とNFCの統合計画
現在は真ん中((2))の中間ソリューションの段階である。将来的には(3)のようにFeliCaアプリケーションもUICCへと統合し、チップ点数削減と低コスト化を狙う。
  (1)FeliCaだけに対応する実装方式。NFCには非対応。
  (2)FeliCaとNFCの両方に対応する実装方式。FeliCa用SEチップとMifare用UICC、およびこれらの橋渡しをするチップを搭載する。チップ点数が増えるのでコストや実装面積が増える欠点がある。
  (3)これも両対応の実装方式。UICCにFeliCa用SEをソフトウェアとして組み込むことでSEチップを省く。(2)よりコストを低減できるし、実装をシンプルにできる。

 ただし問題がないわけではなく、FeliCa用のSEを搭載せずにソフトウェア・ベースへと移行することで、一部アプリケーションの動作がシビアになる可能性が指摘されている。例えばJR東日本ではSuicaのレスポンス速度を100msec以下に規定しているが、これがロンドン市内で採用されているMifareベースの交通カードの「Oyster」では250msec以下と、要求レスポンスが大きく異なる。そのため、FeliCaをUICCのソフトウェア・ベースに移行することで、これらアプリケーションの互換性が維持できない可能性がある。もっとも、Edyやnanaco/WAONのようにショッピング系カードではそこまでのレスポンスを要求されないため、実際の対応はアプリケーションの種類やシステムの更新コスト次第とみられる。いずれにせよ、この互換性問題が今後の日本でのNFC一本化の阻害要因となっており、当面は「グローバル対応の携帯電話で日本のFeliCa系サービスを利用できない」といった状態が続くだろう。

 FeliCaベースの技術は、1997年に香港で導入されたOctopusカード(八達通)の展開を皮切りに、日本やアジア地区で広がりを見せていた。しかし、現在ではシンガポールのEZ-Linkなどにみられるように、当初はFeliCaベースだったもののMifareへの置き換えを表明している例も多い。将来的に日本と香港を除いた多くの地域では、Mifareを中心としたシステムが広まっていくものとみられる。日本でもtaspo(タバコ販売時の成人識別用カード)や運転免許証ではMifare技術が利用されており、今後も新規に構築されるNFCサービスではMifareベースのものを採用することになると予想される。

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