開発者がアプリのアイデアをヒラメクための22箇条まとめ

「アプリやサービスを開発する技術はあるが、アイデアが出ない」という開発者たちのために、@ITで掲載したアイデアの発想につながる記事から抽出して22箇条としてまとめた。

» 2013年04月08日 18時00分 公開
[@IT編集部@IT]

ヒラメキを、すぐ形にできる開発者だからこそ

 これまで、@ITでは多くのアプリコンテストを行ってきた。そこで、いつも課題となるのは、「アプリやサービスを開発する技術はあるが、アイデアが出ない」という開発者たちの悩みだ。しかし、本当にそうなのだろうか。

 開発者の方がより良いアイデアを思い付くことがあるのでは、ないだろうか。なぜなら、何気ないヒラメキを、すぐに形にできることは重要なことだからだ。

 例えば、ライフレシピ共有サイト「nanapi」のロケットスタート 代表取締役 古川健介氏へのインタビュー記事「伝えることを考え抜く『nanapi』のUIデザイン」(2011年6月29日、聞き手ホシナ カズキ氏)を引用しよう。

 デザインに限らないことですが、古川氏は、「アイデアには価値がありません。アイデアは、どうやってそれを形にするかが大事であって、形にできたときに初めて価値が生まれると思います」といいます。

 企画やシステム、デザインといったそれぞれで、アイデアは誰もがふと思い付くものです。しかし、『アイデア』というものはいってみれば“種”のようなものです。種だけあっても花が咲かないように、水をやって育てるというブラッシュアップや制作といった過程を経て、初めてアイデアは具現化されます。

 極端な話、形にできなければアイデアには意味がなく、形にするための手段や運用していくノウハウを持っているかにこそ意味があるという考え方です。

ロケットスタート 代表取締役 古川健介氏「社長の僕の意見が間違えていることもあるけど、どんどんアイデアを実践していくのがnanapiの強さです」

 さらに、リーンスタートアップの提唱者エリック・リース氏へのインタビュー記事「本当に解決すべき問題は何か? ZumoDrive創業者に聞いた〜シリコンバレー発、Webスタートアップの肖像(2)」(2011年6月29日)を引用しよう。

 リース氏は、ソフトウェアのスタートアップにとって重要なのは、いつまでにどんな機能を実装してリリースするかという“マイルストーン”の達成でも、それをスケジュール通りに行うことでもないという。どんな機能がユーザーに受け入れられて、どれが受け入れられないかを学ぶための“ラーニング・マイルストーン”を短期間に数多く繰り返すことだ、と指摘している。どういう優先順位でどの機能を実装するべきかを議論しているよりも、全部実装してしまって実験した方が早いし、科学的なアプローチでもあり得るとまでいう。

 「これはイノベーションのプロセス自体に、再製造プロセスを適用するということです。基本的な考え方は、何か新しい技術を実装する前に、実際の顧客とともに、安く、素早くアイデアを試してみて、そこから学ぶためのフィードバックを得るというものです。継続的にアイデアを試す。アイデアの失敗がその会社の失敗である必要なんかないんですよ」(リース氏)

 あるアイデアがうまくいかないと分かったときに、やり方を変えることを、リース氏は“ピボット”(pivot:旋回)と呼んでいる。Y Combinatorのスタートアップにも、ピボットを2度、3度と経験して始めて離陸した会社が少なくない。

 このように、プランナーや企画屋がアイデアを思いついて企画書にして開発者に頼むよりも、開発者がアイデアを思い付く方が有利な点が多いのではないかと思われる。

 「そうはいっても、出ないものは出ない」という意見も確かにそうだろう。しかし、開発・実装を行う際に、さまざまな手法やノウハウがあるように、世の中にはアイデアを思い付く、または、アイデアを形にするためにも、さまざまな手法やノウハウが存在している。

 例えば、2009年当時、コニットという企業でiPhoneアプリ開発をしていた佐々木義一郎氏、橋本謙太郎氏、中島敦氏の記事「iPhone音楽アプリ『メロディベル』ができるまで〜ここが大変だよiPhone開発(3)」を引用しよう。

 「アイデア出し」と一言でいっても、ブレーンストーミングや、ヒラメキなどいろいろな方法があります。弊社では、思い付いたネタは、すぐに皆に話します。その場でブレーンストーミング会になることも多いです。

 自分だけでアイデアを考えていた場合は、非常に良いと思っていても、他人に話すことで、実は似たようなものがすでにあることがあります。逆に、他人の意見を取り入れることで、さらに良くなることもあります。どんなことでも良いので、思い付いたらすぐに皆に話してみることは非常に重要です。

 アイデアの種はいろいろなところに落ちています。

  • 自分がダウンロードしたアプリ
  • iPhone SDK付属のサンプルプログラム
  • 友人・家族との会話
  • 過去に好きだったゲーム・サービス
  • ブレーンストーミング
  • 雑誌/TV
  • ヒラメキ

 普段から、メモ帳などを持ち歩き、思い付いたらメモしておくことも重要です。メモ帳がなければ、誰かに電話して、伝えておくのでも良いと思います。メロディベルの場合は、弊社橋本のヒラメキから生まれました。

 橋本が友人の結婚式で、余興としてハンドベルを演奏したことがあります。練習中、iPhoneに題目曲を入れて聞いていました。その際、ハンドベルをイメージして手に持っていたiPhoneを振っていたところ、ヒラメキが生まれました。

 すぐに、そのヒラメキをメンバーに話すと、全員「それは良い!」ということで開発が決定しました。

 その後のブレーンストーミングから、シングルモードとマルチプルモードの2パターンがあった方がユーザーに喜ばれるだろうということになり追加しました。

 このように、一部紹介しただけでも参考になるものがあるかもしれないが、アイデアの発想法というのは、まだまだ存在する。本稿ではアプリ/サービス開発を始めようという方のために、@ITで掲載したアイデアの発想につながる記事から抽出して20箇条としてまとめてみたので、自分にあったものを見つけて参考にしてほしい。


【1】まず、プログラマがクリエイティブじゃないという考え方をなくす

 冒頭で述べた通り、「アプリやサービスを開発する技術はあるが、アイデアが出ない」という意見を良く聞くが、まずは、その思い込みをなくすことが重要ではないだろうか。

 「Mathematica」の開発元であるWolfram Research社の重役であり、イグ・ノーベル賞の受賞歴があり、iPadアプリ「元素図鑑」の作者であるセオドア・グレイ(Theodore Gray)氏に矢野りん氏がインタビューした様子を引用しよう。

セオドア・グレイ(Theodore Gray)氏

――グレイさんはクリエイティビティ(創造性)にあふれた方だと感じます。プログラマ/開発者といった、いわゆる「ITピープル」よりは芸術家寄りですね。

グレイ 「ITピープルはクリエイティブではない」ということですか?

――そうではありませんか?

グレイ 「ITピープル」もいろいろですよね。僕にとって「ITピープル」というのは「データベースの管理者」を指します。「プログラマ」という職種はITピープルに当てはまりません。そればかりか、プログラマは本来、非常にクリエイティブな性質を持ってますよ。iPhoneアプリやMac OS、ゲームのプログラマを見てみなさい。クリエイティブですよね。彼らはソフトウェアを通じてクリエイトしてます。デバイスやゲームコンテンツの開発にかかわる人間はクリエイティブですよ。

――私はプログラマがもっぱら、何かゴールや課題があって、その課題を解決するために何かを作るといったやり方で動く人という印象があります。一方、アートにはゴールとか、終わりのない作業に能動的に着手する人間であり、そうした態度こそがクリエイティブだと感じるのです。

グレイ デザイナもゴールに向かって“仕事”をしますよね。必ずスケジュールや、締め切りがあるし。開発者に関しても、例えば「ATMのシステムを作る」とか、そういう仕事には、締め切りがあります。でも芸術家、例えば絵描きだと「描きたいから描いている」という気持ち1つで行動しています。

 そこで1つ、開発者の例を挙げましょう。彼が例えば、「ハードウェアの限界を克服し、何か面白いソフトウェアを開発したい」と考えているとします。こうなると、もう彼の行為は絵描きや、写真家のような芸術家と同じです。ゴールはありません。クリエイティビティの勝負になってくる。

 そもそも、クリエイティビティの有無は職種によるものではありません。プログラマの場合も、クリエイティブな人とそうでない人がいる。その人間そのものがクリエイティブかどうかです。例えば、先ほどいった「データベースの管理者」だって「会計士」だってクリエイティブですよ。そんな会計士に会ったことはないけど!

【2】「ビジネスとして、成功するか」なんて考えない

 冒頭で紹介した記事で引用したことは、ビジネスを前提にしたものだが、そもそもビジネスを前提することが自由な発想法の足かせになる場合も少なくない。Maker Faire 共同創設者 デール・ダハティ(Dale Dougherty)氏へのインタビュー記事「僕らはみんな何かの作り手だ!」(2012年6月8日、聞き手:チームラボ 高須正和氏)を引用しよう。

──Maker Faire、Make:ムーブメントを、「楽しめるもの」としてデザインするために、何か具体的に注意していることはありますか?

 「デザイン」というほど、たいしたことはやってないけど……。そもそも、イノベーションを生み出すのは“Play”、あくまで遊び感覚からだと思っている。アイデアを思い付く最初の段階で、「ビジネスとして、成功するか、失敗するか」なんて考えていると、新しい発想は出てきづらい(笑)。

 「俺の作ったロボットを見て、ビックリした人が、どんな顔をするかな?」みたいなことをスタート地点にしている。

 もちろん何か作れば、その過程で技術は身に付くし、ひょっとしたら作ったものが大ウケしてビジネスで成功するかもしれない。だけど、一番良いイノベーションは趣味、ホビーとしての世界で、考えるよりも本能のままに作ることから始まると考えている。

 今の社会はいろいろな側面があり、複雑になってきている。もちろん研究機関があり、新しいものを生み出すための組織もある。だけど、面白いアイデア、イノベーションは、自分たちの楽しみとしてMake:をしながらその中で気付いたこと、作ったものを見た人と実際にやりとりして気付かされたことの中にあるのではないか?と考えているんだ。

Maker Faire 共同創設者 デール・ダハティ(Dale Dougherty)氏

【3】アナログ・物理的な世界とデジタルの世界のデータを、どう交差させるか

 もう1つ、考え方の幅を広げてみよう。IT技術者はソフトウェアでできることを前提にアイデアを出そうとする傾向にあるように思われるが、その前提さえもなくしてほしい。【2】と同様のインタビュー記事から引用しよう。

──コンピュータがあらゆるものに入ってきてクラウドと接続される時代となりつつあります。スティーブ・ジョブズとウォズが、ガレージで“パーソナル”コンピュータを作っていた時代に比べて、いろいろなものが変わってきていると思います。特に最近・近代のMake:シーンは、どう変わりつつありますか?

 コンピュータがあらゆるところにあるようになって、アナログとデジタルの世界の間の接続点が、いろいろなところにできていると感じるね。

 例えば、よく行われているもので「iPhoneで写真を撮って、クラウドにアップロード」する。ここではiPhoneが、デジタルとアナログの接続点となっている。

 手元にある端末の性能や解像度は、あまり関係のない時代になってきている。例えばArduinoは安くて、性能もよくないコンピュータだ。だけど、多くのMaker、特にアーティストたちがそれを「アナログとデジタルの接続点」として使っていることがムーブメントになっている。何かにインタラクションさせてランプをともしたり、ロボットを動かしたり。アナログ・物理的な世界とデジタルの世界のデータを、どう交差させて何をアウトプットさせるかが、アイデアになってくる

 デジタルとアナログの接点の例をもう1つ。今度は情報がクラウドから降りてくる例として、Googleの自動運転カーがある。これまでの技術の使い方だったら、車自体にセンサをたくさん詰んで、性能をどんどん上げていくという方向だったと思うけど、彼らはネットワークから地図を与えて、地図上のソーシャルデータを与えることで、車と道の関係性を変えようとしている。

 デジタルのフィールドとアナログのフィールドの間、そのどこに立ってどういう視線で見るか、どの視点でもそれぞれの面白さがあるので、選び方が大事になっているね

【4】あらゆる世代の共通認識/あるあるネタを使う

 ここまで、アイデアの発想法として、さまざまな思いこみを取り払う考え方を紹介してきたが、そのうえでどうアイデアをひねり出すかについて、そのヒントを紹介しよう。ますは、やはり答えは自分の中にあるものだ。

 ゼロベースのエンジニア、インタラクションデザイナー、BCCKS 取締役 テクニカルディレクター、そして東京芸術大学 非常勤講師であるdotimpactこと、田中孝太郎氏へのインタビュー記事「クスッとする世界観をアプリにするって面白いんです」(2013年1月11日、聞き手:アプリ製造ユニット「空缶工場」中澤綾香氏・島田達朗氏・正田冴佳氏)から引用しよう。

左:中澤綾香氏(「空缶工場」の総務部長。企画とデザインを担当。フリーランスでデザイナ、イラストレーターとしても活動中)、右:dotimpact 田中孝太郎氏

田中さん 皆さんは小学生くらいのころって、何に触れてました? 文化的なものとか、身の回りのものとか、ゲームとか。

島田 えっと……、カードゲームやってました。遊戯王とか。

中澤 あー、ポケモンもはやってたよね。

正田 ゲームボーイカラーが出たころですね。やってたな〜。

田中さん それを作ってる側を意識することってありました? 自分が作る側になりたいとか、自分より年上の人に憧れを抱くとか、そういうの。

中澤 わたし、赤ペン先生に憧れていました! 赤ペン先生は、絵も上手で、字も上手で、頭も良いし、最強だと思ってました。

田中さん ほぉ〜、面白いですね。赤ペン先生になりたい。それって結構、おばかアプリにもつながるんですよ。そういう憧れの対象って、それがある程度共感できるアプリとかサービスになったりすると、ヒットする可能性があるんで。

中澤 そうなんです、まさに今そういうのを考えていて。「早技先生シリーズ」みたいな感じで、シュッシュッて素早く採点したり、チョーク投げたり、出席取ったりできるやつ(笑)。

田中さん 出席、取りたいですねぇ! 意味もなく(笑)。そうそう、そういう「あれをやってみたかった」っていう一種のあるあるネタが、アイデアにつながったりするんです。先生への憧れって、あらゆる世代の共通認識ですからね。

【5】自分の体験の中にあったものを深く観察する

 あるあるネタがアイデアにつながることもあるが、それだけでは足りない。引き続き【4】のインタビューの中から引用しよう。

島田達朗氏(左・空缶工場の生産部長。開発を担当。データ解析に興味あり。オンラインギャラリーサービスのCreattyの中の人)と正田冴佳氏(右・空缶工場の工場長。企画とイラストとデザインを担当。通称“ジョン”)

島田 突拍子もないことを考えるよりも、自分の過去の経験とかを省みて、どういうことが自分の体験の中にあったのかっていうのを深く観察すると、ヒントになるのかもしれないですね。

田中さん コンピュータの上に何か作れっていうと、何でもできちゃうから、空想的なことを考えちゃいがちなんですよね、そういう訓練をしてないと。だけど、パソコンの中とか自分のセンサが届きにくいところだからこそ、自分のセンサに引っかかるような体験を持ってこないと、自分と関係のある世界に感じられなくなってしまうと思うので。そういうところは学生を指導してても気を付けていますね(編集部註:田中さんは今も、東京芸大の先端芸術表現学科で非常勤講師をしている)。

正田 共感するという意味では「あるある」の要素があった方が良いんですね。

田中さん そうですね。ただ「あるある」そのものでもやっぱりダメで。「あるある」が何らかのテクノロジによって自分の感覚にできるっていうのが重要なんです。アイデアは「あるある」でも、それが当人には真実味のある体験にならないといけなくて、そのために技術が必要だったら、それを使えば良いし、逆にそれを実現するために、買ってきたマウスを壊してボタンに細工するだけでも体験になるんです。

【6】世代間で生まれるズレや違和感を大事に

 自分と同じ世代で共有できるあるあるネタも良いが、異なる世代とのズレも大事だ。引き続き【4】のインタビューの中から引用しよう。

島田 (田中氏の子供の話しの後に)その子の世代とかは、僕らとは全く違う経験をして育っていくんですよね。自分の過去の経験を省みることで周りの共感を得られるっていう、先ほどの話からすると、自分の世代だけじゃなく、前後の世代にもウケるものを作るっていうのは、難しいような気もします。

田中さん テクノロジに対する感覚っていうのは、世代間の格差が大きいと思います。ただそういう、世代間で生まれるズレや違和感も、アイデアとして使えることがあります。なので、何が違うのか、何が変わっていくのかっていうのを観察することが重要ですね。

おばかアプリの発想法

 自分の中にあるものを掘り下げ、他人との共有/違和感を認識したうえで、さらに考え方の幅を広げてみよう。

 「おばかアプリ」という一見何の役に立ちそうもないアプリがある。2010年4月21日に「おばかアプリ勉強会」というものが開催されたので、レポート記事(レポーター:仲里淳氏)から開発者たちの発想法を引用しよう。

【7】役に立つモノを簡単かつ安くひとひねり加えて実現

第3回おばかアプリ選手権の優勝者 チームラボ 山本遼氏

 山本さんが考えるおばかアプリ開発の極意は、まず実用性のあるアプリであること。次に、簡単であること。高価な部品や複雑な仕掛けよりも、シンプルで身近な素材を使って作ることが、ユニークでおばかな要素を生み出すという。

【8】何気ない日常を過剰に感動的に演出

面白法人カヤック 林真由美氏

 まず「Trash Roll」「おはかアプリ」は、どちらもOSのゴミ箱機能をリデザインした作品。「Trash Roll」は、「ゴミ箱を空にする」を実行する際に、削除されるファイルが映画のスタッフロールさながらにBGMとともに流れる。同じく「おはかアプリ」も、ファイルの削除を大げさに演出したもの。削除されたファイルのお墓がデスクトップに作られ、霊となったファイルがうごめくというものだ。

 ファイル削除ごときに大げさ以外のなにものでもないが、そのコンセプトについて「何気ない日常を過剰に感動的に演出したもの」と説明する。

【9】駄洒落によるネーミング

 「パンティノン神殿」「タニマニア」は、お色気いっぱいのiPhoneアプリ。「エロ」は人々の注目を集める要素の1つではあるが、この2つの場合は駄洒落によるネーミングも重要なポイントだったという。

【10】無駄をさらに無駄に活用する

 最後に紹介した「馬鹿(うましか)アプリ」は、「無駄をさらに無駄に活用する」というコンセプトのアプリ。カヤックが明和電機と共同開発した「貧乏ゆすり計測デバイス」であるYUREXを使い、貧乏ゆすりによって仔馬と仔鹿を立ち上がらせるというもの。

【11】本来のアプリ自体とは異なる部分にこだわる

サイバーエージェントの浦野大輔氏(左)と渡辺梓氏(右)

 “おばか”ならではのポイントとしては、食材の肉に高級なものを使ったり、萌え要素を入れたりといった、本来のアプリ自体とは異なる部分にこだわった点を挙げた。「私って何やってんだろ? と思うこともあったが、深夜のナチュラルハイな状態で乗り切った」とのこと。冷静に考えずに、とにかく自己満足で突き進むことも大切なのだ。

【12】欲求指向プログラミング

シグマコンサルティング 橋本圭一氏

これは自分の好きなことやりたいことをアプリ開発のテーマにすることで、高いモチベーションを維持して取り組めるというもの。要するに「好きこそものの上手なれ」だ。

【13】チームでやろう

社外の人と組むことで、新鮮さや刺激を生み出すというもの。自分1人では想像もしないことを生み出すためにも、これは重要だ。

【14】異なる分野の人でも楽しめるアプリを目指そう

AR三兄弟 川田十夢氏

ポイントとして挙げたのは、「内輪(WebやIT業界内)だけでなく、外の人(別の業界)でも楽しめるものを作れば、結果的に多くの人に伝わる」ということ。

【15】ユーザーという役作りをする【16】ものごとの要素を分解してみる

 さまざまな考え方を見てきたうえで、商品としてのアプリやサービスのアイデアをひねり出す手法を紹介しよう。

 「コレジャナイロボ」「土下座ストラップ」「ごはんかいじゅうパップ」で有名なザリガニワークスの武笠太郎氏と坂本嘉種氏、日本大学藝術学部 講師 布目幹人氏へのインタビュー記事「分解して振り切って、余白でコミュニケーションを」(2012年3月12日、聞き手:ねこポッポ 佐藤翔氏)では、多くの手法が紹介された。

ザリガニワークス 武笠太郎氏(左、ぼけ)、坂本嘉種氏(右、つっこみ)

――ザリガニワークスならではのアイデア発想法を教えてください

武笠 まず、僕がアイデアを坂本に投げると、そのアイデアの要素を分解して内訳を出してくれるんです。

布目 すごくシンプルにいうと、ボケとツッコミみたいな感じですよね。

坂本 そうですね。例えばメーカーから企画を依頼されたときは、武笠と近々ミーティングしなきゃなぁ、と思いつつ、しばらくそれぞれの頭の中でイメージを膨らましておきます。武笠は具体的な商品案とか仕掛けを考えますが、僕はユーザーの気持ちになりきって「この企画テーマなら商品のこの面白さを押し出すのがふさわしいだろう」とミーティングに向けて気持ちをセッティングしておきます。

 ミーティングでは武笠のアイデアについて、「ココが面白さの肝だよ」「あれを付けた方が良い」「アプリで出した方が良いかも」「ココをとがらした方が良い」というように話し合います。ほぼ毎回こうやってモノや企画が出来上がっていきます。

――坂本さんは「何が面白いのか」というのは、どうやって判断しているんですか?

坂本 役作りです。ユーザーやお客さんになりきります。普段から、自分が見たり経験したりして感じたことに、なぜそう感じたのかを、できるだけ分解して考えるようにしています。人に説明できるくらい具体的にです。今までストックしてきた情報を組み合わせて、想定されるユーザーの人物像の人格になりきって、誠意で考えます。

――うわぁ、すごく難しそうです。例えば「ザリガニ」を分解するとどうなりますか?

坂本 ザリガニですか。ザリガニは「身近にいるかっこ良い生き物」とか「男の子にとってキャッチー」とか「攻撃的」「強そう」「わんぱく」というイメージがありますが、一方でノスタルジックさもありますね。

 そのように分解した後で、対象のユーザーを意識して「じゃあ、そのいくつかの面白い要素の中で、ココを極端にとがらせていこう」と考えます。それは入り口としてとがらせるのであって、他の面白さや要素をなくすわけではありません。とがった部分以外の余白を、できるだけ大きく取るのが大事です。余白が多ければ多いほど、手に取ったユーザーが自由に想像を膨らませて楽しめます。

 商品や企画の魅力がちょっとでもはっきりしていないと不安になって、いろいろ付け足してしまいがちです。そうするとユーザーが感情移入しにくくなって、「これはこんなふうに共感しなきゃダメなんでしょ? わたしには関係ないや」となってしまいます。とがった部分を作り目立たせると、一見不自由になってしまいそうですが、実はこのことに気を付けると、間口の広いモノづくりができるようになります。

【17】正攻法から逃げる、近道を探る

――武笠さんのアイデアはどのように生まれてきますか?

武笠 僕は「頑張って作る」とか「時間をかけて人より優れたモノを作る」という正攻法から逃げる癖があります(笑)。「何か近道がないか」と考えてみるんです。自爆ボタン(アプリではなく壁に貼れるタイプ)なら、きっと正攻法は基盤を作ってリアルな爆発音をサンプリングして押すと鳴るというものですよね。でも、押しても音は鳴らないし、インテリア・アクセサリとしてただ緊張感だけが部屋に漂うという商品にしたらよく売れました。

坂本 「押すまでが遊び」っていい切っちゃう感じですね。

武笠 そうやって近道を探ることが、実は面白さにつながると思ってるんです。自分の中での“笑い”が、それなんですね。

【18】大喜利のような講評&100円で投票してもらう

――日大藝術学部の広告の授業ではどのようなことを教えていますか

武笠 ガチャガチャの企画のワークショップをやっています。メーカーさんから、ガチャガチャの本体を、40人の学生の数に合わせて40台借りています。

 まず学生に「中身の商品は作らなくていいからポップのデザインを作ってきてください」とお願いします。ポップはそこを見て、お客さんが遊ぶかどうか決めるガチャガチャの重要な部分です。ナマモノはダメとか、200円程度で買えそうなモノ、当たりやハズレがあってもいいなど、最低限の決まりを伝えておきます。

 そして翌週、みんな自腹で300円持ってきて、せーので自分が買いたいガチャガチャに100円を入れます。つまり3回投票できます。ある学生のガチャガチャは2000円近く稼ぐかもしれないし、0円の学生もいます。

――それはショックが大きいですね(笑)

布目 そうですね。すごく実践的です。企画やデザイン、ネーミングによって100円の価値がどうなるかを身をもって体験できます。

武笠 自分自身もユーザーとしてガチャガチャに投票することで、何かを感じてくれているはずです。この商品が欲しいと思った理由や、自分が欲しいと思った商品と、自分が作った商品の違いを比較できます

布目 他にも、ザリガニワークスさんから「モバイル○○」とか「○○専用○○」といったテーマを学生に与えて、A4の紙に企画を書いてもらい、壁に貼って、みんなで「これおもろいねー」とか「これ付き合いきれないわぁ(笑)」と大喜利のような講評会もします。それを踏まえたうえで、ガチャガチャのワークショップに入っていきます。

日本大学藝術学部 講師 布目幹人氏

【19】絵やイラストでブレスト「ビジュアルブレスト」

 冒頭でも紹介したブレーンストーミング(ブレスト)だが、最近はJPopのタイトルになるほど一般的だが、言葉やテキストでやることが多い。面白法人カヤック 林真由美氏の記事「アイデア力を高める! 誰でも簡単!ビジュアルブレストのススメ」を参考に絵を描く方法も試してみてほしい。

 今回紹介する「ビジュアルブレスト」とは、言葉やテキストではなく、絵やイラストなど用いて、アイデアをビジュアライズしブレーンストーミングをする手法のことです。例えば、ロゴデザインのアイデア出しに使ったり、またはプロダクトのデザイン、WebサイトのGUIなどなど、さまざまなシーンで活用できます。

大人数で互いのアイデアを膨らませていこう!

【20】Evernoteで「1人ブレスト」

 ブレストというと、複数人でやるものを思いがちだが、1人でもできる。拡張現実ライフ 佐藤伸吾氏の記事「『1人ブレスト』や『タスク管理』ができるEvernoteとは」を参考に試してみてほしい。

 Evernoteを使い始めてから、ネットで読んだ気になる文章、街で見掛けた面白いモノの写真、人との会話の音声など、さまざまなものをメモとして残すようになりました。

 残したメモはそのままにせず、電車での移動時など空いた時間に読み返して、そこからいろいろなアイデアを作り出していくような使い方をしています。

 私は、これを「Evernote 1人ブレスト」と呼んでいます。ここではその具体的な方法を紹介します。

【21】メモしたアイデアを1度忘れる

 一方で、メモしたアイデアを1度忘れることも重要だ。シグマコンサルティングの菅原英治氏は、記事「ジョイ・オブ・プログラミング:VB研読者向け 特別企画」で1度忘れることを提案し、その手法自体をアプリにしてしまっている。

 今回作成するアプリは、題して「アイデア・タイム・カプセル」です。このアプリでは、思いついたアイデアをテキスト情報として記録できます。ただし、記録時に指定した期限が来るまで、登録した情報を見ることができません。

 このアプリは、『思考の整理学』という本を読んで思い付きました。この本では、良いアイデアを思い付く方法として次のようなことが述べられていました。

  • 思い付いたアイデアをすぐに人に話さない
  • メモに書き留めてしばらく忘れる
  • しばらく時間が経過してからメモを見直す
  • 見直したときにも良いと感じるものを、可能性のあるアイデアとする

 私は、この方法をサポートするアプリが欲しいと考えました。メモとして機能し、かつ一度記録したら時間が経過するまで、内容を確認できないようなアプリです。手書きのメモや、パソコンにテキスト・ファイルとして記録した場合、誘惑に負けて、思わず内容を見てしまうかもしれません。それを防ぐことができるアプリが欲しかったのです。

【22】アイデアソン/公開ブレストイベントに出る

 アイデアソン(アイデアをマラソンのように出し続けるイベント)やブレストを公開イベントとして行うものなど、アイデアを思い付くためのイベントは多く開催されているので、それに参加するというのも1つの手だ。これらのイベントはアプリを作るイベント(ハッカソンやコンテスト)につながるものが多く、アイデアを形にする道筋も示されていることも多い。

 以下の記事で雰囲気をつかんでほしい。

 これらの記事を参考にアイデアソンなどが面白そうだと思った方は、実際にこれから開催されるアイデアソンなどに参加してみてはいかがだろうか。

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