SDNコントローラの推進で進化するシスコのSDN戦略ネットワーク利用高度化のユースケース開拓

シスコが4月23日、同社SDN戦略の進展を説明した。その骨子は、提供開始済みの同社製品に共通のAPIである「onePK」に加え、SDNコントローラの展開の道筋がはっきりしたことで、より抽象化されたレベルでのプログラマビリティを提供し、顧客におけるネットワーク関連の問題を解決していけるようになるということだ。

» 2013年04月24日 12時48分 公開
[三木 泉,@IT]

 シスコシステムズはOpenDaylightプロジェクトの発表を受け、4月23日に都内で同社のSoftware Defined Networking(SDN)戦略の進捗を説明、国内でも今後積極的に推進活動を行っていくことを明らかにした。戦略関連の説明の骨子は、提供開始済みの同社製品に共通のAPIである「onePK」に加え、SDNコントローラの展開の道筋がはっきりしたことで、より抽象化されたレベルでのプログラマビリティを提供し、顧客におけるネットワーク関連の問題を解決していけるようになるということだ。

 シスコは2012年6月、マルチレイヤでのプログラマビリティを提供するCisco ONE戦略と、onePKの提供について発表した。今回の説明は完全にその延長線上にある。

 まず、onePKについては、一部顧客による導入が進んでいることを報告した。日本では7組織が検証を実施、現在は「コントロールド・アベイラビリティ」(限定顧客を対象とした提供)段階にあるという。

 onePKは、これまでの同社ネットワーク製品の複数のAPIを統一して提供する取り組み。シスコ社内の、内輪の話だという言い方もできる。しかし、シスコがさまざまな分野をカバーするネットワーク製品を持っているからこそ、これらに共通のAPIを提供できることが意味を持つともいえる。

 つまり、SDNを特定の技術の集合体と考えずに、事業者や企業における何らかのサービスやアプリケーションを実現し、あるいはそのサービスレベルを保証するためのネットワーク活用だととらえたとき、そのサービスやアプリケーションの提供経路すべてに関わる必要があるからだ。

 説明の場に、米国からTelePresenceで参加した米シスコ バイスプレジデント. SP チーフアーキテクト兼最高技術責任者のデビッド・ワード(David Ward)氏は、「SDNはデータセンターの中だけの話ではない、クロスドメインの(データセンター、LANコア、WAN、ユーザーアクセスなどにまたがる)オーケストレーションを実現する機会を与えるものだ」と話し、データセンターに限定されることの多いSDNの解釈では、一部の問題しか解決できないことを強調した。

「すべての製品がソフトウェアアップグレードでSDN対応」

 シスコはOpenFlow対応に乗り気でないと言われがちだが、前回の記事に書いたCatalyst 3750-X/3560-Xのほか、Nexus 3000のOpenFlow対応も進められているという。OpenFlowにも積極的に対応するが、シスコの考えはOpenFlowだけでは限定的なことしか実現できないというもの。そのためにonePKを推進している。

 「この意味でのSDN対応は、すべての当社製品にわたり、ソフトウェアのアップグレードだけで実行できる。これは当社にとって非常に重要だ。競合他社のように、機器の入れ替えを求めることはない」(ワード氏)。

SDNのユースケースを開拓

 しかし、onePKは機器単位でのプログラマビリティを提供するにとどまる。さらに筆者が補足するなら、ユーザーにとっては、いくらシスコが幅広い製品群を有しているからといっても、それだけでサービスやインフラを構成するわけではない。このため、OpenFlowやonePK、その他のAPIを包含し、抽象化するSDNコントローラが必要となってくる。SDNコントローラが、ハードウェアあるいはソフトウェアのネットワークコンポーネントに対する操作のための多様なAPIを受ける一方で、ネットワークアプリケーションに対するAPIを提供する必要がある。

シスコのSDN戦略の全体像

 「コントローラの上で提供されるAPIはネットワークレベルのプログラミングインターフェイスだ。ここに最大の開発者のエコシステムが生まれようとしている。対象としているのは、顧客の社内にいるネットワーク運用担当者やITプロフェッショナルだ。ネットワークを導入し、自動化し、オーケストレーションし、エンド・ツー・エンドのソリューションをつくる人たちだ。当社のSDNコントローラに関していえば、遅延、ジッタ、利用率、帯域保証、パケットロスなどの情報を、エンド・ツー・エンドで提供してくれるネットワークインテリジェンスを、最大限に活用するという意味で、市場のリーダーになっていきたい」(ワード氏)。

 シスコは他のネットワーク関連ベンダとともにSDNのオープンソースプロジェクトであるOpenDaylightプロジェクトを発足。これに対して同社のコントローラを寄贈(コントリビュート)した。事実上、シスコのコントローラがOpenDaylightのコントローラとなることを目指している。

 シスコは世界で約50の顧客と、同社のSDNの試験導入や検証を実施。これを通じて見えてきたSDNのユースケースには、例えば次のようなものがあるという。

  • データセンターやWeb 2.0企業において、リンク利用率の監視に基づき、Hadoopクラスタやデータベースクラスタの負荷分散を実施
  • 通信事業者において、クラウドサービスにおけるユーザー企業単位のネットワークセグメントと企業拠点間の接続を制御、さらにWAN接続の帯域保証を組み合わせ、エンド・ツー・エンドでサービスレベルを保証
  • 金融関連では、地理的に離れた複数のデータセンターを結び、大規模なアプリケーションを運用。特定のアプリケーションに対する要件に基づき、自動的に最適なデータセンターに分散配置する

国内でもSDN技術を積極的に推進

 シスコは、国内で同社のSDN技術に関するサポート体制を強化すると発表した。同社は「SDN応用技術室」を設置、関連技術の普及活動、ユースケースやエコシステムの開発、先進事例の推進・構築支援などを通じて、SDN普及の加速を図る。プロフェッショナルサービス、テクニカルサポートについても、SDNに対応していくという。

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