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» 2013年06月27日 18時00分 UPDATE

D89クリップ(63):「Makeすることで世界は変わる」〜「Make」編集長が語るMakerムーブメント (1/2)

Makerムーブメントの旗振り役であるマーク・フラウエンフェルダー氏に、「Make誌が目指すもの」「Makerムーブメントが世の中に及ぼす影響」について聞いた。果たして、Makerムーブメントは世界をどのように変えていくのだろうか。

[高須 正和,ウルトラテクノロジスト集団チームラボ]

 マーク・フラウエンフェルダー氏は、米誌「Make」の編集長にして著名ブログ「Boing Boing」を率いるアルファブロガーである。どちらのメディアも、趣味としてテクノロジに親しむ人たちの巨大なコミュニティを形成している。そして、そのコミュニティを中心とした「Makerムーブメント」はいま、米国を動かす潮流の1つとなり、日本でもさまざまなメディアで注目されている。

 2013年6月15日に都内で開催された「Makers Conference Tokyo 2013」の基調講演で来日した同氏に、「Make誌が目指すもの」「Makerムーブメントが世の中に及ぼす影響」について聞いた。

Makerムーブメントは世界を変えていく

――Makerムーブメントで世の中はどのように変化していくのでしょうか?

001.jpg 近著『Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す』を手にするフラウエンフェルダー氏

 Makerムーブメントによって、世界は良い方向に変わっていくと考えている。大きなお金を生み出す、という話をしたいわけではない。大金持ちになるMakerもいるかもしれないが、それはMaker全員のゴールではない。重要なのは、Maker全員がMakeすることによって「ある変化」を体験することだ。

 いまの世の中には、コントロールできないものが多過ぎる。Makeのカルチャーは「コントロールできるものを自分たちの手に取り戻そう」という考え方だ。政治や経済は自分たちでコントロールできない。だが、ものを作ることは自分でコントロールできる。この「自分は何かをコントロールできる」という想いを抱くことを、Makerはとても大事にしている。

 例えば、椅子を自作したとする。もちろん既製品より出来は劣る。しかし、自分で作った椅子には愛着が湧き、さらに「既製品の椅子が、どういう接着剤やネジを使って作られているか?」といった新しい視点が生まれる。それまでの人生では、作りの良い椅子を見ても特に何も感じなかったかもしれないが、実際に手を動かして関わってみることで、かつて無縁だったものに親しみが生まれ、まるで仲間が作ったもののように思えるようになる。こうした経験を積むことで、作り手に対する感謝や尊敬の念を持てるようになるだろう。

 Makerになる喜びの1つは、その視点を手に入れられる所にあると、私は考えている。それにより、自分の行動や人生の質が変わってくる。自らの手で何かを作ろうとした際、最初は失敗することも多いが、成功や失敗を通じて自分と世界とのつながりが増えていく。自分自身の姿勢が変わっていくことで、家族とのやりとり、コミュニティとのやりとり、そして社会全体が変わっていく。

 私も自分でもの作りを始めるまでは、エアコンや電化製品が壊れるなど、なにか予想外の事態が起こるたびにアタフタしていたが、いまでは冷静に対処できるようになった。自分で直すなり、誰か分かる人を探すなりして、再び使えるようにする方法を探せば良い。何をやっていても予想外のことは起るもので、珍しいことではない(笑)。

 自分がそんな風に考えるようになるとは想像もしなかったが、それはMakeのおかげである。他のMakerも同様の体験をしているようだ。Makeによって自分が変わっていくことで、世界が変わっていく。

テクノロジに親しむ人たちのコミュニティ

――フラウエンフェルダー氏の現在の役割や取り組みを教えてください

 WebサイトのBoing BoingやMake誌を通じ、テクノロジ好きたちのコミュニティを活性化させていく、それが私の仕事だ。すごく楽しんでやっている。

002.jpg Make誌の編集は楽しいね!

 Boing BoingとMake誌は、個人でテクノロジを楽しむ人のためのメディアだ。Boing Boingはテクノロジを取り扱うWebサイトで、他にもカルチャーやサイエンス・フィクション(SF)、マンガといったテクノロジ好きが興味を示しそうなさまざまなトピックも取り上げる。プログラマと法律みたいな話もある。

 Make誌も同様で、DIYプロジェクトの作品紹介だけではなく、そのプロジェクトの背景や経緯など全体的なストーリーを載せ、技術を取り巻くさまざまな知識やカルチャーなども取り扱うようにしている。

 カルチャーは非常に重要だ。Boing BoingやMake誌が立ち上がる前、テクノロジが好きな人たちはずっと、社会の中で居心地の悪さを感じていた。共通の好みやカルチャーを持っていても、互いに語り合い、まとまる場所が無かった。テクノロジ好きの人々は、自分たちのコミュニティを求めていたのだ。

 Boing Boingではテクノロジに関する知識を求める人たちのコミュニティを形成し、Make誌ではテクノロジを実践する作り手たちのコミュニティを形成している。これに、SF作家のコリイ・ドクトロウやその他のさまざまなテクノロジ好きが集まって、全体として大きなカルチャーを作り出している。コミュニティは成長を続けており、コミュニティの輪はますます広がっている。

人間はコミュニティを作る生物

――Makerはどこでも素晴らしいコミュニティを作り出しているように思います。テクノロジに親しむ人たちの間に、なぜコミュニティができてくるのでしょう?

 良い質問だ。それはMakerムーブメントそのものかもしれない。

 Make誌では、さまざまなDIYプロジェクトを取り扱っている。人工衛星を作ったり、DIYで遺伝子をハックしたり、車をいじったり、ハロウィンのおもちゃを作ったり……。これら全てに興味を示し、かつ1人で全部を作れる人は、この世に存在しないのではないか(笑)。どのようなDIYプロジェクトにおいても、発起人や参加者によって、各人の強さや弱み、興味の湧く所/湧かない所がある。例えば、電気関係には強いがメカには弱い人、デザインは得意だが他が苦手な人といったように、1人1人に特徴がある。そういった個々の特徴を持った人たちが出会い、プロジェクトを共有することで、1人では実現できなかったものを作り出せるようになる。

 コラボレーションはとても大切であり、かつ楽しいことだ。自分たちのプロジェクトがきっかけで、それまで出会ったことのない人たちと、あっという間に仲良しになれるのだから。同様の思想や考えを持ち、かつ違うスキルを持った人と一緒に作業すると、より豊かで楽しい経験となる。そういったチームでのもの作りは、「DIY(Do It Yourself)」ではなく、「DIT(Do It Together)」と呼びたい。2人からぜいぜい12〜3人位の少人数のチームでプロジェクトを遂行すると、達成の喜びが何倍にも膨らみ、各人でバラバラに取り組むより良いものが作れる。また、この程度の人数であれば、互いを十分に把握し、全体が強力なチームになる。

 人類は、まだ狩猟民族だったころから、集団を形成し生活していた。人類には、「互いを助けたい」というマインドが本能的に組み込まれているため、種としてここまで進化し、生き延びられたのではないか。もし人類が互いを邪魔し合う生き物だったなら、ずっと昔に絶滅していただろう。

 人間には「自分のやったことを共有したい」という本能がある。インターネットとMakerムーブメントは、この本能をすごく強くしてくれた。インターネットでは、ビジネスとは関係なく、「それが楽しいから」という感覚で作品を作り、互いに見せ合っている人々が大勢いる。「面白いだろ?」「すごい!」でコミュニケーションが成立し、喜びを共有し合う人たちが大勢いる。これはインターネットのもたらした革命の1つといえる。

少人数でも世界は変えられる

――素晴らしい話ですね! 例えば、どのような所で世の中が変わってきていますか?

 大きな組織が長年かけてもたどり着けないような発想やアイデアを、Makerたちが生み出すケースが増えてきている。大企業や政府など大組織を上回る成果を、個人や小さいチームが達成している。

 例えば、『Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す』に出ている例で、家庭用コーヒーメーカーに付いている温度管理用のサーモスタットを、より精密な温度管理を可能にするPIDコントローラに交換するアイデアは、どの企業も思い付かなかった。家庭用コーヒーメーカーでは一般的に、安価だが温度管理能力の低いサーモスタットが使われてきた。それに満足できなかったコーヒー好きのMakerたちが、サーモスタットをPIDコントローラに交換する方法をインターネットで情報交換し始めたのだ。それに企業が気付き、PIDコントローラを備えた家庭用製品が市場に出回るようになったのである。

 もう1つの事例として、Tokyo Hackerspaceで活動するSAFECASTの開発した弁当箱サイズのガイガーカウンタ「bGeigie」がある。これと同様の装置を政府が作ろうとしたら、どれほどの費用と時間を要するか見当も付かない。SAFECASTではわずか数名で、費用もほとんど掛けずに数週間で開発した。

 少人数のグループが集まり、すぐに始める。そして、大組織を超える成果を生み出す。そういう事例が、他にもどんどん出てきている。

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