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» 2013年07月12日 18時00分 UPDATE

ものになるモノ、ならないモノ(52):MVNOは死滅するのか? 大臣裁定申請を機に考えるその意義 (1/2)

日本通信が総務省に対し、NTTドコモの接続料に関する総務大臣の裁定を求める申請を提出した。いったい何が問題なのか。そしてそもそも、MVNOがサービスを展開する意義とはどこにあるのか。

[山崎潤一郎,@IT]

 980円SIMで格安データ通信を提供する日本通信が総務省に対し大臣裁定を申請した

 大臣裁定というのは、事業者間で意見や主張が対立し協議が不調に終わった場合など、総務大臣に調停やお裁きを依頼する仕組みのこと。通信・放送行政における大岡越前のような役割を担っている。

 日本通信は、2007年に合意した接続料の算定式をNTTドコモが一方的に変更したため、接続料が従来の1.7倍に値上がりすることを問題視し、「この事業モデル(MVNO)を完全につぶす」(同社リリースより)と訴えている。

 ちょうどよい機会なので、今回は、日本におけるMVNOの存在意義と今回の大臣裁定においてどのような判断が望まれるのか、という2点について考えてみたい。

MVNOって必要なの?

 「Mobile Virtual Network Operator=仮想移動体通信事業者」――口にしただけで眉間にしわが寄りそうな難しい名称の業態だが、最も成功したMVNOは、英国のヴァージン・モバイルだといわれている。ヴァージン・モバイルの場合は、大手の携帯電話事業者(MNO)と提携することで、プリペイドカード方式の携帯電話を自社ブランドで再販するビジネスだった。つまり、音声通話がサービスの中心というわけ。

 だが、日本通信の場合は、データ通信を専門とするMVNOだ。一部、音声通話サービスも扱っているが、あくまでもオプション。このデータ通信MVNOという業態は世界でも珍しく、「世界初であり、世界で最も進化したMVNO」と、ある総務省の幹部が胸を張ったもの。実際、総務省は、この日本型MVNOをモバイル分野の競争政策の重要な柱と位置付け「MVNO事業化ガイドライン」を定め、強力に推進してきた。

 日本通信は2007年にも大臣裁定を申請し、同年11月に日本通信の主張がほぼ認められた形で裁定が下っている。

 ある関係者にいわせると、この2007年の大臣裁定も「総務省が描いた競争政策シナリオの一部」だったという。この裁定があったからこそ日本のMVNOは、MNO(大手携帯電話事業者、二種指定事業者)との間でレイヤ2による「接続」が可能となった。しかも、MNOには、接続約款を公開し「原価+適正利潤」により導き出された「接続料」での提供が義務付けられたわけだ。この「公開された接続料」と「レイヤ2」というのがとても重要な意味を持っており、このあたりも「最も進化した」と言わしめる理由でもある。

 仮に接続料が非公開で、各MVNOが携帯電話事業者と相対(個別)で交渉を行わなければならないとなると「参入」に対するハードルが高くなる。いうなれば、持てる者の強みでMNOのペースで交渉を進めることができ、自分たちにとって都合の悪いMVNOには「高く請求してやれ」といったイジワルもできなくはない、ということになる。MVNOの側も接続料が最初から分かっていれば事業計画を立てやすくなる。

 また、レイヤ2接続によりMVNOは、自由度の高い通信サービスを提供できる。例えば、日本通信、IIJ、NTTコミュニケーションが提供している安価なSIMサービスは、通信速度や量をきめ細かく設定してあったり、ユーザーの希望に応じて速度を切り替えることができるが、MVNOがこのようなサービスを提供できるのは、レイヤ2接続のたまものといってもよい。

345社のMVNOが色とりどりのサービスを提供する

 そもそも、このようなサービスは、自社で設備を保有し、自由なサービス設計が可能なMNOが真っ先に提供すべきものだが、新規・MNPユーザー獲得のための奨励金を計画的に回収しなければならない手前、安価でフレキシブル(事業者から見たら不確実)な料金体系を伴ったサービスを提供するインセンティブは働きにくくなる。その意味で、安価で多様なサービスは、MVNOの存在なくしては登場し得ないといえよう。

 総務省が公開している「移動系通信市場における 新規参入事業者の事業環境」によると、2012年12月末の時点で345のMVNOが存在するそうだ。そんなにたくさん存在するのか! と驚きを禁じ得ないが、それは、MtoMなどの企業向けのソリューションを提供している事業者が多く含まれているからだ。

 データ通信によるMtoMは、音声サービスとは異なり、企業の数だけユニークなニーズがある。システム構築の分野で世の中に「システムインテグレータ(SIer)」と呼ばれる企業がたくさん存在するのは、多種多様なニーズに応え、企業ごとに最適化されたサービスを作り込むためだ。企業向けのMVNOは、モバイル通信版SIerといった存在なのだ。

 今後、MNO大手3社の法人営業部隊だけで多様化するニーズに応えるのは非現実的な話だろう。MNOから通信サービスを「卸して」もらった代理店企業が提供するという考え方もあるが、そこには競争原理は働かない。レイヤ2接続を手に入れたMVNOが、そのメリットを生かし、自由度の高いサービス設計を行い、切磋琢磨してこその健全な市場であり、業界の健全な成長なのだ。だから、MVNOは必要なのだと筆者は思う。

 一部には、MVNOをクリームスキミングな「いいとこ取り」をする存在と見る意見もある。しかし少なくとも現状では、日本のMVNOはMNOが行っていない、あるいはできないようなサービスを提供しているわけだから、「いいとこ取り」とはいえない、というのが筆者の見方だ。

 そもそも、MNOのネットワークは、「周波数」という国民の共有財産の上に構築したインフラだ。それを独占することは許されない。公共の利益に対し積極的に貢献する義務があるのではないか。もちろん、MNOにはそのインフラを優先的に利用する権利はある。だが、自社で利用していない空いている部分は、MVNOに解放してしかるべきではないだろうか。

黒船再び? Apple、Amazon、GoogleがMVNOとして乗り込む?

 ただ、インフラを貸す側のMNOからすると、競争相手に自社の設備を貸すわけだから、心情として拒否反応を示すのは理解できなくもない。NTTドコモなどは、2011年の情報通信審議会「ブロードバンド普及促進のための環境整備の在り方」へのパブリックコメントで、「現在の接続ルールだと、MVNOからの接続に応じる義務があるので、このままでは、Apple、Amazon、GoogleがグローバルMVNOと組んで上陸して来た場合、ダムパイプ化が進行し、NTTドコモは約6500億円の売り上げ減になるので、ルールを見直してほしい(筆者による意訳)」と主張している。

 Appleなどの黒船勢がMVNOとして自ら通信サービスを提供するかどうかは分からないが、この3社は、iPhone、Kindle、Androidの端末レイヤとiTunes Store、Kindleストア、GooglePlayというコンテンツレイヤをグローバルに牛耳っているだけに、NTTドコモからすると、脅威に映るのだろう。

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