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» 2013年07月16日 16時30分 UPDATE

三国大洋の箸休め(5):映像データがもたらすプロスポーツの変化

映像データはプロスポーツの世界にどのような変化をもたらしているのだろうか。MLBとNBAを例に考察する。

[三国大洋,オンラインニュース編集者]

 MLB(米メジャーリーグベースボール)の傘下にMLB Advanced Media(以下、MLBAM)という組織がある。The New York Timesによると、このMLBAMが収集している映像データの量が、年間合計で1.5Pbytes(ペタバイト)以上にもなるという。

 これは、ライブとオンデマンドの動画に限ったもので、その他のコンテンツも合わせると1シーズンに蓄積されるデータ量は実に6Pbytesに達する。MLBAMでは、これらのデータを保管するために専用のデータセンターを新設したのだという。

 1.5Pbytesにも及ぶデータの出所(生成元)は、MLBAMが導入しているスポーツビジョンという会社のシステムである。そのうち「PITCHf/x」というシステムは、その名前が示す通り、ピッチャーの全ての投球を記録・解析するものだ。1試合当たりの投球数が大体290球で、1シーズン当たりのデータポイント数は2500万にもなるという。

 その他、打者のデータを記録する「HITf/x」や守備側の動き全体を記録する「FIELDf/x」というシステムもあるそうだが、「FIELDf/x」については球場に設置された4台の高解像度カメラで1試合に数千〜数万枚の画像を撮影する、などとも記されている。

 The New York Timesでは、「FIELDf/x」から生み出されるデータの効用について、例えば、「あるフライの捕球について、どれほど効率的にできるか(上手に捕れるか、ということか)を選手ごとに推定できる」などと記している。また、「150年に及ぶ野球の歴史をひっくり返すもの」といったスポーツビジョンCEOのコメントも引用されている。これまで、投手と打者についてはたくさんのデータが記録・活用されてきたが、守備についてはほとんど活用が行われてこなかった、ということらしい。

 MLBAMでは、このデータをユーザー(ファン)にも提供することを視野に入れているようだ。同社のボブ・ボーマンCEOは「(試合の)ライブ映像とリアルタイム・データを組み合わせることで、チーム監督が体得しているのと同じ情報をファンに提供する」と発言している。

 なお、MLBAMは、MLBの30チームが共同出資して立ち上げたメディア企業。今年で設立から13年目になる。日本ではGyao(ヤフー)がライセンスしているMLB.comの運営や、「MLB.com At Bat」アプリ(を通じた有料サービス)の提供などを手掛ける一方で、例えば、Webby Awardsのライブ動画配信にも力を貸すなど、手広く事業を展開しているという。従業員数650人(その約半数が技術陣)、2012年の売上が推定6億2000万ドルというから、ちょっとしたものである。

 さて。MLBと同様の取り組みはNBA(米プロバスケットボールリーグ)でも行われている。こちらはスタッツという会社の「SportVU」というシステムを導入している。アリーナの天井にある梁(はり)にぶら下げた6台のカメラを使ってコート全体を捉え、各選手の動きを毎秒25フレームずつ記録する、などというものだ。年間使用料が10万ドルというこのシステムを使うと、例えば、「どの選手がリバウンドを取ったか」、「その時、近くに何人の選手がいたか」などを把握・分析できるほか、ボールに触れた回数やドリブルの数などから、選手ごとの攻撃面での効率が分かったりするという。

 SportVUについては、2年ほど前にWIREDで取り上げられていた。同記事には「SportVUのベースになったのは、イスラエルで開発されたミサイル弾道追跡用の技術で、開発元ではこれを最初サッカーの試合に応用していた。SportsVUの開発元を買収したスタッツ(通信社のAPと、ニューズコープが共同で保有)がこのシステムを米国市場に持ち込もうとして、まず白羽の矢を立てたのがバスケットボールだった」などと言及されている。野球の分野については、「スポーツビジョンが先行していたことに加え、基本的に投手ー打者間のやりとりが多い野球では、SportVUの特徴が発揮できない」といった理由もあったようだ。

 The New York Timesの記事では、SportVUを使ったシステムが現在、NBA全体の半分にあたる15チーム(のアリーナ)で導入されているとしているが、2年前のWIRED記事ではアーリーアダプタとして、5チームーーヒューストン・ロケッツ、ダラス・マーベリクス、サンアントニオ・スパーズ、オクラホマシティ・サンダー、そしてゴールデンステート・ウォリアーズ――の名前が挙げられていた(このうち、WIREDは地元ベイエリアにあるウォリアーズの様子を取材している)。

 この5チームの中で、「再建モード」に入ったダラスを除くと、いずれもここ2シーズンはプレイオフに勝ち残っている強豪チームであり、特にウォリアーズについては、今年のプレイオフでの大躍進が大きな話題になっていた。そうした各チームの勝利に、SportVUのこの画像データ収集・解析システムがどう貢献しているのか。そのことをさらに詳しく記した情報を目にしたい所である。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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