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» 2013年08月19日 06時50分 UPDATE

非Gmailユーザーの扱いは:「グーグルのプライバシー無視発言」報道が伝えなかったこと

グーグルが提出した裁判文書に含まれた、「自らの意思でサードパーティに渡した情報について、人は合法的にプライバシーを期待することはできない」という引用がヒステリックな報道につながった。本当に気にすべきこととは何か。

[三木 泉,@IT]

 米国で、「グーグルがGmailユーザーのプライバシー無視発言をした」と複数のWebメディアが報じた。

 対象となったのは、「グーグルがGmailのメール内容から情報を抽出し、ターゲティング広告に利用しているのは、米国および州の通信不正傍受防止関連法に抵触する」として起こされた集団民事訴訟に対する却下申請(motion to dismiss)(全文はここで見られる)中の、下記の文言。

 Just as a sender of a letter to a business colleague cannot be surprised that the recipient’s assistant opens the letter, people who use web-based email today cannot be surprised if their communications are processed by the recipient’s ECS provider in the course of delivery. Indeed, “a person has no legitimate expectation of privacy in information he voluntarily turns over to third parties.” Smith v. Maryland, 442 U.S. 735, 743-44 (1979).〔日本語訳〕職場の同僚に出した手紙が、受取人のアシスタントによって開封されたとしても、送り手が驚くことはあり得ない。これと同様に、Webベースの電子メールを使う人々は、電子メールによるコミュニケーションが、配信の過程で受信者のECS(電子コミュニケーションサービス)事業者に処理されても驚くことはあり得ない。まさに、「自らの意思でサードパーティに渡した情報について、人は合法的にプライバシーを期待することはできない」(判決:Smith v. Maryland、442 U.S. 735、743-44(1979))

 この「自らの意思でサードパーティに渡した情報について、人は合法的にプライバシーを期待することはできない」というフレーズを、消費者保護/圧力団体のConsumer Watchdogは「グーグルが言った」と表現し、これが独り歩きする形で一部のWebメディアに広がった。その後、The Next WebMashableは、「グーグルが言ったわけではなく、あくまでも引用」と指摘。さらに、Mashableはこれが、非GmailユーザーがGmailユーザーに送った電子メールに関してのグーグルの主張を述べた部分の一節であり、「Gmailユーザーがプライバシーを期待すべきではない」と言っているわけではないとも指摘している。

 だが、上記を読めば分かるように、グーグルの弁護士は判決の引用ではあるものの、「indeed」という言葉をつけてまで、これを文章に直接組み込んでいることもたしかだ。また、グーグルの利用規約に同意していない非Gmailユーザーが、Gmailユーザーに対して送信するメールについての議論だからこそ、議論は微妙になるはずだ。

 法律専門家ではない筆者がこれ以上、グーグルの主張の内容に立ち入ることは避けるが、ほかの部分も含めて、この答弁書に述べられている主張は、全般的に荒い印象を受ける。なぜなのか。

 これについて、国際法・商法に詳しい米国ニューヨーク州弁護士、Albert Bloomsbury氏は、あくまでも米国の民事訴訟についての一般論として、被告の却下請求答弁書に、傍目には無理のあると思われるような議論が含まれることは十分あり得ると話している。同氏のコメントは次の通り。

 米国の民事訴訟では当事者主義が徹底しているので、特に高額の訴訟の場合、被告側の弁護士としてまず原告の訴状はそもそも法的要件を満たさないから却下すべきだと返答をするのが常套手段となっている。これがmotion to dismissだ。この手法は、事実を争うよりも法廷経済的に有利な結果に繋がりやすいためによく使われている。

 複雑な裁判の場合、原告側は各種の選択論的な法的議論を詰め込んだ訴状を提出する。そのすべての論点について争うことはコストがかさむため、被告としてはまずそれを全部否認するところから始める。もし事実を争うとすると、米国民事訴訟のdiscovery(事実開示手続き)に従って、何年もの間、相手の弁護士の要求に応じた書類提出やdeposition(法律に基づいた強制的な証言の収集)に引きずり回され、そのための訴訟費用、ビジネスの中断、企業秘密の流出などの無形なコストが膨大になる。

 裁判所で、原告の訴状のうちの少なくともいくつかの論点は却下してくれれば、裁判所が却下を認めた争点に関しては、discoveryの対象から外れる。その結果、コストや被害を軽減できるとともに、論点が整理され、戦いやすくなる。

 また、アメリカのcommon lawの伝統では、判例解釈の手法は特に複雑で、同じ判例でもまったく異なる議論を正当化するために使うことは可能であり、それを整理するのも裁判官の役目だ。一方、訴訟の途中で新しい法律論議を持ち出すことは通常禁止されているので、原告、被告双方の弁護士としては、少しでも成功の可能性のあると思われる法律論は冒頭ですべて出さなければならない。従って、被告の却下請求の答弁書では、かなり無理のあるような議論が展開されるのは通常予想されることだ。

 つまり、却下申請の段階で、一字一句を取り上げて論評するのは意味がないということになる。だが、少なくとも、グーグルの利用規則に同意していない非Gmailユーザーが、Gmailユーザーに送った電子メールを対象としてグーグルが行う処理について、最終的にどのような判決が下るかについては、注目する意味がないとはいえないだろう。

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