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» 2013年08月26日 11時43分 UPDATE

頭脳放談:第159回 日本の半導体会社には無線技術の背骨がない?

残念ながら日本の半導体会社には「無線の背骨」の通った会社がほぼないようだ。富士通セミコンダクターの携帯電話向けRFIC事業がIntelに売却されたことなどが象徴している。

[Massa POP Izumida,著]
頭脳放談
System Insider

 どこの会社にも「背骨」のようなものがあり、それはなかなか変えられない。思うに、それは意外と属人的な要素であったりもする。多くの大手企業は「属人的な仕事のやり方」を嫌うものだが、一人二人の感覚でなく、経営層から従業員層まで多くが染まってしまっていると、もはや「属人的」とは感じられなくなるものだ。はるか昔、シリコンバレーでNational Semiconductor傘下でプロセッサ事業部門の責任者が、「経営層はアナログばかりで、こういうデジタルには理解ないんだよね」とこぼしていたのを聞いたことがある。実際その部門はさっさと「売り飛ばされて」しまったし、一方でNational Semiconductor本体は最近Texas Instruments(TI)に買収されることになってしまった。だが、「アナログが背骨」の会社であるのは変わりがないし、この先も変わることはないだろう。

 なぜこんな話を書いたかというと、日本の半導体会社には「無線の背骨」の通った会社がほぼない、ということの象徴的なニュースが相次いだからだ。まず近い方では、「ひっそり」という感じで、富士通セミコンダクターの携帯電話向けRFIC事業がIntelに売却されていたことだ(富士通セミコンダクターやIntelからは正式な発表はないが、EETIMES JAPAN誌などにより報じられている)。「ひっそりと」というのは、富士通セミコンダクターといいつつ、売却されたRFIC事業の拠点は米国アリゾナであり、つい最近ともいえる2009年9月にFreescale Semiconductorから買収したばかりの小規模な事業だったので、ほとんど注目されていなかったからだ。

 知ってのとおりFreescale Semiconductorは、Motorolaの半導体部門が分離して設立された会社。もともとのMotorolaは、無線の会社である(あった)。そして何十年も前のMotorola時代から、アリゾナに半導体の開発拠点があったのである。一方、Motorolaとはかつて仇敵の間柄であったIntelも何十年も前からアリゾナに開発拠点を置いている。アリゾナの広大な大地ゆえ、軒を接するような近くにはいないが、ライバルといいつつ、アリゾナの地場半導体業界のお仲間でもあったのだ。そういえば古い知り合いの中にはアリゾナのMotorolaからアリゾナのIntelに移ったヤツもいた。実は、それほど遠い仲でもないのかもしれない。

 結局のところ、アリゾナのFreescale Semiconductorの拠点が富士通による買収というワンクッションを経て、アリゾナのIntelに吸収されたというのが実態であろう。4年ばかり富士通はこの部隊を持っていて何をしたかったのかよく分からない。例の富士通とパナソニックのシステムLSI事業の統合には影響なしといっているらしいので、大したことをさせていたとも思われない。

 もう1つは、2010年7月にルネサス エレクトロニクスが買うときは結構鳴り物入りだった、Nokiaの携帯向け半導体部門を引きつぐルネサス モバイルの該当事業が6月あえなく精算された、という一件である。よく見ればこちらの方が期間は短く、払った金額も大きい。その上、富士通の方は、部門まるごとの引き取り手が現れたのでまだしもであるが、ルネサスの方は1430人もいる海外子会社従業員が解雇されたらしい。かなり悲惨な結末である。

 こうしてみると、日本を代表する(していたはずだった)半導体会社が、2社とも似たような時期に似たような手を打ち、似たように失敗していたことが分かる。時期はいまから3〜4年前、いよいよ日本のSoC事業が苦しくなってきた時期だ。やったことは、海外の無線(携帯電話)の老舗だがイマイチなところから携帯電話関連のICの事業を買収(多分、苦しい中から、なけなしのお金をやりくりして投入したことが想像される)し、自社の携帯電話向けSoCなどと組み合わせて「厳しくなりつつある市場で勝つ」シナリオを書いたこと。結果は、買収の効果も出ないまま、ほんの数年で手放すか、精算するかしたことになる。

 両社経営層とも、自社の無線(携帯)技術に欠けているものがある、という認識を持っていたのだろう。そして、その欠けているものは自社単独では一朝一夕には作り出せないものであるという認識もあったはずだ。はっきりいって無線関係は、「無線の背骨」のない経営層にとっては不可思議なもので、自社の実力の値踏みもできなければ、他社の技術の評価もままならない。「外から来た専門家」についつい頼りたくなるものなのだ。それで技術蓄積があるはず、多くの経験者がいるはず、の「老舗」の部門買収によって手っ取り早く補えるのではないか、と考えた上での行動であったように想像される。裏返していえば、自社がその時点で持っていたSoCなどに、「よく分からないが欠けているピース」を単純に組み合わせれば「勝てる」と踏んだということである。

 しかしである、勝手な想像や意見を続けさせてもらえば、「無線の背骨」はついてこなかったのか、あるいは元からあるものと適合せずに取り込めなかったのではないかと思う。パズルのピースのようにはめ込めるつもりがうまくいかない。そのとき、経営層にその分野の背骨が通っていないと、結局、舵取りもままならず、投げ出すしかなくなったのではないか。そして気が付けば、自社が元から持っていたものもズブズブと沈下が止まらない、といったらいい過ぎか?


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサを中心とした開発を行っている。


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