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» 2013年09月10日 15時00分 UPDATE

三国大洋の箸休め(12):「海のF1」アメリカズ・カップとラリー・エリソンの野望

「世界最高峰のヨットレース」と称されるアメリカズ・カップ。近年では、ヨットレースの「海のF1」化が進められているという。

[三国大洋,オンラインニュース編集者]

 「世界最高峰のヨットレース」と称されるアメリカズ・カップが先週末にサンフランシスコ湾で始まった。今回はこの「海のF1レース」について伝えた幾つかの記事と映像を紹介する。

 今回のレースについては、ディフェンディング・チャンピオンのOracle Team USAにヤンマーが協力している関係で、下掲の映像などを既にテレビで目にされた方もいるかもしれない。

 第34回となる今回の大会は、開催場所がシリコンバレー=ベイエリアのお膝元ということもあり、また何よりも「オラクル総帥のラリー・エリソンが取り仕切るレース」ということもあって、一部のIT系ニュースサイトなどでもこれまで何度か濃い内容の特集記事が掲載されていた。最近では、The Vergeが9月3日付で「億万長者の、死を賭したレース」という見出しの記事を掲載した。また、WIREDも2013年5月に「アメリカズ・カップを失敗させかねない船艇」という見出しの記事を掲載した。いずれも、スウェーデンのアルテミス・レーシング(Artemis Racing)の船艇が練習中に転覆し、アンドリュー・シンプソンという英国人乗組員(五輪金メダリスト)が死亡したことを受けて、AC72という規格の船艇の安全性に焦点を当てたものである。

 この死亡事故に結びついた一連の流れを簡単に記すと、次のような感じになる。

 まず、前回のアメリカズ・カップでBMW Oracleチームを率い、見事勝利をもぎ取ったラリー・エリソンが、次なるゴールとして定めたのがヨットレースの「海のF1」化。アメリカズ・カップでは勝者が次の大会のルールを定めるしきたりになっており、レギュレーション策定の権利を握ったエリソンは、この目標実現のためにスピードの出る船艇も考案すれば、またスリリングなレース中継を実現するため、技術開発に資金を投じたりもしたという。

 ところが、巨大で、しかも軽く、スピードの出るAC72規格の船体には、簡単にひっくり返ってしまうという難点があり、2012年秋にはOracle Team USAの船艇が練習中に転覆・大破するという出来事があった。アルテミス・レーシングの事故はそれに続くもので、「ついに死者が出てしまった(だからいわんこっちゃない)」といった伝え方のニュースが多かったような覚えもある。

 この映像から分かる通り、双胴の船艇は水面の上を滑走しているという感じで、特に高速時は「フォイル」(foil)という4つの足のようなものだけで水面に接している。この仕組みのおかげで、平均速度40ノット(時速46マイルというから時速70km以上になる計算)の高速走行が実現したが、「それだけ取り回しも難しくなり、危険性も高まった……」ということらしい。The Vergeの記事によれば、船艇の平均航行速度は前々回(2007年)の時に比べ、約4倍も速くなっているという。2012年秋の転覆事故と、その挫折からの「復活」についてまとめた映像も公開されている。

 こうした転覆の危険を低減するため、各船艇には多数のセンサが搭載され、1秒間に3万件ものデータを分析し、危険の兆候があれば直ちに乗組員にアラートを出すなどの対策も講じられているとThe Vergeは記している。ただし、「これだけのスピードが出るとなれば、どんな設計の船艇であれ、かなりの危険が伴う」ことに加え、「このクラスのセイラー(ヨット乗り)はいずれもアドレナリン・ジャンキー(=怖いもの知らず)で、どうしても安全は二の次となってしまう」いった説明もある。

 一方、「海のF1」実現に向けた取り組み自体も、しばらく苦戦が続いていたらしい。最大の誤算は、参加チームの少なさ――主催者側では当初、アメリカズ・カップの前哨戦となるワールドシリーズ(世界各地を転戦し、AC45というひとまわり小型の船で競う、というもの)に最低でも15チームの参加を見込んでいた。しかし、1チーム当たり1億ドル、船艇の建造だけで一隻800万〜1000万ドルも掛かるとされるその莫大な費用に二の足を踏んだところが多く、ワールドシリーズに参加したのは結局、4チームだけ。約1年前に出ていたWIRED記事には、そのせいで米国のテレビ局の食い付きが悪く、「エリソンが放映の時間枠を買い取った」という話も出ていた(今回NBCが放映しているのは、恐らくその時間枠なのかもしれない)。

 この記事には、エリソンがヨットレースを「(テレビで観て)スリリングなスポーツ」に仕立て上げるために開発させた技術にも言及している。文字ではなかなか分かりずらかったが、下記の映像などを見ると、その具体的な姿がよく分かる。

 各艇の速度表示や軌跡を示す点線、それにコースの様子を示す赤や黄色の線などが随所に登場しているが、このAR(拡張現実)技術を開発したのは、もともとアメリカン・フットボールのゲームでファスト・ダウンの位置を示す黄色い線(の表示の仕組み)を作った人物ら(そのうちの1人は自らもヨット乗り)で、エリソンから直々に依頼の声が掛かったという。IEEE.orgが運営するオンラインマガジン「Spectrum」には、スタン・ハニーとケン・ミルネスという開発者2人が寄稿した、かなり詳細な記事が掲載されている。

 なお、レースの戦績についてはいまのところ、挑戦者のEmirates Team New Zealandが3勝0敗――8月にOracle Team USAによる船艇の不正改造がばれて、ベナルティを課されたためらしい(Oralce Teamは8日にあった第4レースで勝利していたが、3レース勝つまでは得点が加算されない、というルールらしい。門外漢にはなかなか分かりづらいところである)。

 余談だが、ラリー・エリソンは前回大会の勝利に至る過程を記録したドキュメンタリーを息子のデビッドに製作させていた(息子のデビッド・エリソンは現在日本で劇場公開中の『スター・トレック イントゥ・ダークネス』などでも製作に参加した新進気鋭の映画プロデューサーらしい)。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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