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» 2013年10月01日 18時00分 UPDATE

三国大洋の箸休め(14):「NFCキラー」となるか? MLB、注目のiBeacon技術を各球場に導入へ

アップルがiOS 7で新たに対応したマイクロ・ロケーション技術「iBeacon」。米大リーグ(MLB)は早速、この技術を球場に導入し、座席案内や割引クーポンの配布などさまざまなサービスに活用することを表明した。

[三国大洋,オンラインニュース編集者]

 アップルがモバイルOS最新版「iOS 7」で新たに対応したマイクロ・ロケーション技術「iBeacon」を、米大リーグ(MLB)が早速、球場に導入することにした。

 2012年の「iOS 6」発表の時にも、「Passbook」の活用例としてMLBの観戦チケットが基調講演の中で紹介されていたくらいだから、こうした新技術の積極的な導入自体は、とりたてて珍しいことでもない。では、何でわざわざこの話題を取り上げるのかというと、米国でなかなか進まないモバイルペイメントの普及が、このiBeaconで大きく進む可能性が出てきたからだ。

 Mashableの記事によると、MLBは2014年シーズンから各チームの球場でiBeaconの導入・サービス展開を予定しているそうで、米国時間の9月26日にニューヨーク・メッツの本拠地、シティ・フィールドでこのデモが行われた。現時点ではスマートフォンを使った座席案内や球場内の施設ガイド、それに割引クーポンの配布やポイントカードの提供などが想定されており、同ブログ記事には「ホットドッグが2ドル割引」といったクーポンや「10回観戦すると特別オファーあり」といったポイントカードの画面キャプチャなどが掲載されている。

 また説明文の中には、「ユーザー=観戦客が最寄りの駅で下車し、球場に向かっていることを察知すると、開いているアプリの画面に球場内の施設ガイドが表示される」「球場の入り口ゲートに近付くと、アプリの画面上には、あらかじめ購入しPassbookに登録しておいたチケットのバーコードが、座席の位置とともに自動的に表示される」など、興味深い一節もある。

 位置情報を利用したこのような情報提供の一部はGPSを使っても可能だろうが、iBeaconの特徴の1つは、GPS波が届きにくい屋内などでも十分使えることだそうだ。かなり細かくユーザーの居場所を把握できるから、例えば「ホームチーム側とビジターチーム側のスタンドで、異なる情報を端末に配信する」ことくらい朝飯前にも思える。またiBeaconがBluetooth Low Energy(BLE)の技術を使っていることも、バッテリ駆動時間という点でメリットの1つとなるかもしれない。

 そんなiBeaconについての解説記事が、新型iPhone発表当日に、GigaOMに掲載されていた。またThe Vergeには、この仕組みを実現するためのビーコン(小さな受発信装置)を開発するエスティモート(Estimote)というメーカーの話も出ていた。

 前者の方には、iBeaconを導入した店舗での活用例を記したイラストが出ており、これを見ると、実現可能なことがだいたい分かる。スマートフォンユーザーが店舗の前を通りがかると、その日の特売品情報を送りつけたり、入店したユーザーには特売品のクーポンをそれが置いてある棚の位置を知らせる情報と一緒に送ったり、あるいは非接触の支払い(出口から外に出ると自動決済される)などが可能になるという。

 日本のApple Storeでも「EasyPay」というセルフチェックアウトの仕組みが使える(Apple Storeのアプリ内に実装されている)から、場合によってはそれがTouch ID(指紋認証センサー)と組み合わさってiBeaconに置き換わる、といったこともあり得るのかもしれない(店舗内Wi-Fiと、このBLEベースの仕組みの向き・不向きはまだよく分からないが)。

 なお、エスティモートが作っている装置は1個33ドルほどで、電源にはボタン電池を使用。電波の到達距離は最大50メートル(実用範囲は10メートルほど)、ボタン電池1つで約2年間くらい動かせるという。またペイパルでも、すでに同様の決済方法と対応するドングルを開発しているという。

 GigaOMの記事では、このiBeaconとNFCタグを使った仕組みの費用を試算・比較しているが、この比較が、一見したところではちょっと分かりにくい。分かりにくい原因は、書き手がそもそもレジの存在を想定していないからだ。「非接触式の支払い(決済)」というと、どうしても「コンビニのレジで精算し、POS端末にケータイもしくはICカードをかざす」という姿を思い浮かべがちな当方は、何度か説明を読んでようやく、「これは顧客が自分で精算する場合を想定しているのだな」と分かった次第。

 この試算によると、NFCの場合は通信可能距離が実質4センチメートル程度とかなり限られるため、どうしても商品側にも対応するタグを貼付する必要がある。このタグの価格は1つ当たり10セントとこなれてきてはいるが、それでも商品数が多くなればなるほど、このタグのコストは増え続ける。

 それに対して、iBeaconの場合は発信装置の導入に多少まとまったコストが掛かるが、それも一時的なものに過ぎない……などとある(ただし、iBeaconの場合に商品をどう認識させるかについての具体的な説明は見当たらない。おそらくバーコードの利用あたりを念頭に置いているのだろうが、ちょっと雑な説明である)。

 そうした費用面の利点に加え、NFCチップは、まだすべてのスマートフォンに内蔵されているわけではない(未導入の代表例がiPhone)のに比べ、Bluetoothチップならば、ほぼ大半の端末に含まれている、などの違いを挙げている。

 一部ではよく知られている通り、グーグルはかなり前からAndroid関連でNFCの普及に力を入れてきていたし、ほかにも米国では携帯端末事業者の作った合弁会社やら、クレジットカード会社の団体やら、あるいは小売業者の団体などがそれぞれNFC絡みの規格策定に動いていた。そして、そのせいで実際に対応POS端末を用意しなくてはならない小売の現場ではなかなか技術の普及が進まない、といったことがこれまで伝えられてきた。また、グーグルは新型iPhoneの発売直前に、同社のGoogle Walletアプリの新バージョン(Android版に加えて、新たにiOS版も)をリリースしていたが、これが「NFCチップなしでも使えるもの」として、一部で注目を集めていた。

 一方、アップルでは「自社オンラインサービス」の限定付きながら、iPhone 5sに搭載されたTouch IDを使って、ユーザーがパスワードの入力なしにコンテンツを購入できるようにした。同社のティム・クックCEOも、新型iPhone発売当日に公開されたBusinessweekとの独占インタビューの中で、Touch IDについて「セキュリティ用として使うのも1つの手だが、それよりも指先で触れるだけで買い物ができることの方が、ある意味ではより大きな驚きとなる経験」などと述べていた。

 また、以前から「ポケットから端末を取り出さなくても、近くのカフェでコーヒーを買って帰れる」ような仕組みについてビジョンを口にしているスクウェア(Square)のジャック・ドーシーCEOあたりは、いよいよビジョンの実現時期が本格的に近づいてきた、その道具立てがそろってきたとして、内心ニンマリといったところかもしれない。

 iBeaconによるマイクロ・ロケーション技術、そしてTouch IDなどの新たな活用方法を探る実験の場として、来年はMLBのスタジアムが大きな注目を浴びることになるかもしれない。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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