日本上陸、「バックプレーンがないコアルータ」のインパクトCompass-EOSがネットワンと代理店契約

ネットワンシステムズが9月末、シリコンフォトニクス技術を活用したCompass-EOSのコアルータを、国内で本格提供開始すると発表した。この製品は、既存のコアルータの限界を打破することを目的に設計されている

» 2013年10月04日 15時15分 公開
[三木 泉,@IT]

 シスコ、ジュニパーネットワークス、アルカテル・ルーセントといった企業の牙城となっているコアルータ市場を、シリコンフォトニクスという新技術で切り崩そうとするスタートアップ企業、Compass Electro-Optical Systems(以下、Compass-EOS)がネットワンシステムズと代理店契約、国内における事業展開を本格的に開始した。同社は省エネ、省スペース、低コストのメリットを前面に押し出すとともに、現在のコアルータの設計は限界に達しようとしていると問題提起している。

パッシブな光ファイバケーブルで複雑な回路を代替

 Compass-EOSのコアルータ「r10004」のアーキテクチャの新しさは、ミッドプレーン/バックプレーン(スイッチングファブリック)がない、という点にある。ラインカード上の通信チップ間をパッシブな光ファイバケーブルでメッシュ状に結ぶ、シンプルな構造だ。複雑なミッドプレーンやバックプレーンが不要だから、大幅な省電力、省スペース、低コストを実現できるというのが、同社の第1のメッセージ。

 CEOのガディ・バハト(Gadi Bahat)氏は、r10004について、データ量が急速に増大する一方で、単位データ量当たりの通信事業者の売り上げが減少する時代に対応する製品だと表現する。

左よりCompass-EOSのマーケティング担当バイスプレジデントであるアサフ・ソメク氏、CEOのガディ・バハト氏、日本のカントリーマネージャである川上佳樹氏。バハト氏が抱えているラインカード上に2つの黒いヒートシンクが見える。その下にシリコンフォトニクス・チップが配置されていいる

 「他社のコアルータでは、複雑なミッドプレーン/バックプレーンおよびそのための冷却などが、ルータ装置全体の50%程度を占めている。シスコが開発中の新コアルータでは、70%に達する。われわれは、3ラック分のシスコ CRS-1と同等のスループットを、6Uで提供できる。空いたラックは、利益を生み出すサーバを動かすのに使える」。

 同氏はまた、既存のコアルータではラインカードをアップグレードすると、ミッドプレーン/バックプレーンの回路を同時に替えなければならないといったことが起こるが、Compass-EOSのルータでは不要なため、調達後のコストも低減すると話す。

 バックプレーンのないルータを実現するためのキーテクノロジとしてCompass-EOSが開発したのが、電子回路である半導体に光回路を組み込むシリコンフォトニクス技術。シリコンフォトニクスの研究開発は他でも行われているが、チップを商用化したのは同社が世界で初めてという。このシリコンフォトニクス・チップが、同一ラインカード上のI/Oポートからのトラフィック(電気信号)をルーティング処理後に光信号へ変換、同チップに一体化されている光送受信器から送り出す。このため、あとは光ファイバケーブルの結線さえあればいいということになる。

「従来型のコアルータ設計はもう限界」

 上記と関連するが、Compass-EOSが市場に対して送ろうとしている、より根本的なメッセージは、電気回路に頼ったこれまでのコアルータの設計が限界に達しつつあるということだ。マーケティング担当バイスプレジデントのアサフ・ソメク(Asaf Somekh)氏は、コアルータの高速化を阻む最大の要因は、ミッドプレーン/スイッチファブリックにあると話す。

 「スイッチファブリックは、プロセッサ間でパケットを転送する役割しか持たない。だが、こうしたファブリックを高速通信に対応させようとすると、信号品位の維持が非常に大きな課題になる。100Gbpsクラスになると、プリント基板上の銅線トレースは数cmしか延ばせなくなる。これを補うためにプロセッサの数を増やすなど、インターコネクトを複雑な構成にするしかなくなる。すると電力消費が大幅に増え、大がかりな冷却が必要になり、装置も大型化する。機器コストもさらに上がる。これまでの設計は、もはや効率的なものではなくなってきている」。

 ミッドプレーン/バックプレーンの電気回路を単なる光ケーブルの結線に変えてしまえば、コアルータの高速化が高いコスト効率でできるようになる。CompassーEOSは約7年前の設立当初から、これを目的としてきたのだという。そして6年にわたる研究開発を経て、約1年前から一部で提供を開始したのが、「r10004」なのだという。

 この話にはさらに次がある。複数のr10004を光ファイバケーブルで相互接続すれば、コンピュータ同士を内部バスでつなぐのと同じことになり、スケールアウト型の広帯域ネットワークインフラがつくれる。「容量を増やしたくなったら、レゴのブロックのようにルータを追加すればいい」(ソメク氏)。

 一方でCompass-EOSは、より高い密度のシリコンフォトニクスBGA(Ball Grid Array)を開発中であり、これによってルータボックス単体のパフォーマンス向上も進めていくという。さらに同社は、ハードウェアとソフトウェアを切り離し、ソフトウェアはモジュールすると同時に最小限の機能を提供するようにして、肥大化を防いでいるという。これをベースに、NFV(Network Function Virtualization)対応を進めていくとしている。

現段階でも6Uで全二重800Gbpsを出せる

 Compass-EOSがr10004の本格提供を開始したのは2013年2月。だがすでに、大規模なサービスプロバイダ3社で、本番運用に至っている。

 では、例えば3年後に、コアルータ市場でシスコシステムズを凌駕(りょうが)するような存在になりたいのか。バハト氏は次のように答えた。

「シスコは強大な企業だ。当社の最初の戦いは、シスコに勝つことではない。シスコの横で導入してもらうことだ。アグリゲーションなど、当社の製品に適している用途で使ってもらう。3、4年後にはより多くの製品を提供しているだろうが、そのころになったら、改めて同じ質問をしてほしい」。

 Compass-EOSの国内販売代理店になったネットワンシステムズも、考え方は同様だ。同社のビジネス推進グループ担当執行役員、篠浦文彦氏は、シスコやジュニパーのコアルータが、すぐにこの製品にリプレースされるとは考えていないという。だが、通信事業者が1社の製品のみを使うことは徐々に減りつつある。近い将来に向けて、新たな選択肢を提供し、顧客とともに使い方を考えていきたい、と話している。

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