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» 2013年10月24日 18時00分 UPDATE

「Windowsタブレット向けアプリ開発」先駆けインタビュー(1):初のアジャイル/リモート開発体制でも成功できた秘訣とは

日本料理のレシピを海外に紹介するアプリ「Ippin」。初物づくしのアプリ開発を成功させた秘訣をディレクターに聞いた。コミュニケーションツールやドキュメントに盛り込んだ数々の工夫とは、どんなものだったのだろうか。

[吉村哲樹,@IT]

日本料理のレシピを海外に紹介するWindowsストアアプリ「Ippin」

 ネットイヤーゼロは、ネットイヤーグループの一員としてインターネット技術を活用した新規事業の企画・開発を手掛ける企業。主にBtoC分野において、先進技術を使ったサービスやビジネスモデルの研究開発とクライアント企業への提案に取り組んでいる。

 近年、BtoC分野において最も注目を集める技術といえば、やはりスマートフォンやタブレット端末といった「スマートデバイス」だ。ネットイヤーゼロでも、これまでさまざまなスマートデバイス向けアプリの開発に取り組んできたが、Windows 8/Windows RT向けの「Windowsストアアプリ」の開発も早くから手掛けてきた。

 同社 ディレクター 今井正明氏によれば、初めてWindowsストアアプリの開発を思い立ったのは、Windows 8がリリースされる数カ月前のことだったという。

win_ippin01.jpg ネットイヤーゼロ ディレクター 今井正明氏

 「リリースのかなり前から、Windows 8とWindowsストアアプリが世間で話題になっていたので、リリース後すぐにアプリをWindowsストアで公開できれば面白いのではないかと考えた。その時点では、Windowsストアアプリの開発知識はまったくなかったが、思い切ってチャレンジしてみることにした」

 今井氏は、早速アプリの構想を練り始めた。「Windowsストアは、全世界の人々がアクセスできるグローバルなアプリマーケットだ。しかも、恐らくオープン当初は、日本より欧米からのアクセスが多いに違いない」。そう考えた今井氏は、アプリの対象ユーザーを海外に住む外国人に設定した。「では、外国人にウケるアプリとは一体どんなものか……」

 そこで今井氏がひらめいたのが、日本料理を海外に紹介するアプリだった。

 「海外の方から見ると、日本食は極めて独特な文化で、かつヘルシーだという評判もあって、欧米の一部の国では日本食ブームも起こっている。また欧米の日常的な食卓の風景というと、大皿に料理が大量に盛られているイメージがあるが、それに比べ日本料理は見た目の美しさもある。

 そこで、海外の食卓に日本料理を『一品』添えて、彩を加えてもらえればという意味を込めて、『Ippin(いっぴん)』という日本料理レシピ紹介アプリを思い付いた」(今井氏)

win_ippin03.jpgwin_ippin04.jpg Ippin

初のWindowsストアアプリ開発を初のアジャイル開発、初のクラウドソーシング/リモート開発体制で

 実は、このIppinというアプリの企画を後押しする要因が、もう1つあった。ネットイヤーゼロでは、NHKエデュケーショナルのデジタル事業を長年支援しており、その一環として、NHKの料理番組「きょうの料理」のレシピ紹介サイト「みんなのきょうの料理」のプロデュースも手掛けていたのだ。「レシピのコンテンツは、NHKエデュケーショナルさんから提供してもらえるかもしれない」。そう考えた今井氏は、早速Ippinの画面イメージを盛り込んだ企画書を作成し、NHKエデュケーショナルに持ち込んだ。

win_ippin05.jpg 今井氏が作成したプレゼンテーション資料から一部抜粋

 「Windowsストアアプリ独特のフラットデザインを用いたIppinの画面イメージをモックアップとして作成し、先方にお見せしたところ、『とてもおしゃれに見えるね』と大好評でした。実際のところ、タイルのレイアウトやカラーと、キャプションの配置にさえ気を配れば、そこそこおしゃれに見える。

 ほかのモバイルプラットフォーム向けアプリでは、やはりデザインにある程度手間を掛けないと貧相に見えるが、Windowsストアアプリなら私のように本職がデザイナーではなくても、高品質なUIをデザインできた」(今井氏)

 早速NHKエデュケーショナルからのレシピコンテンツの提供が決まり、Ippinの開発プロジェクトがスタートした。しかしこの時点で、Windows 8のリリースまで残された期間は、わずか2カ月ほど。一般的なウォーターフォール型の開発スタイルでは、とても間に合いそうになかった。しかも手掛けるのは、当時国内ではまったくといっていいほど事例がなかったWindowsストアアプリの開発だ。

 そこで今井氏は、思い切って新たなチャレンジに乗り出すことにした。

 「プロジェクトの進め方は、要件定義から徐々に設計を詳細化していく通常のやり方ではなく、設計内容を小分けにして、少しずつ機能や画面を実装してはリリースを何度も繰り返すアジャイル開発の手法をとることにした。

 また当時は、Windowsストアアプリの開発ノウハウを持つ人材が社内にも周囲にもいなかったので、クラウドソーシングを使って開発者を募ることにした」(今井氏)

 マイクロソフトの技術者や、UI/UXに詳しいセカンドファクトリーのコンサルタントのアドバイスを仰いだ結果、Windowsストアアプリの開発にはC#とXAMLのスキルが重要であることが分かった。そこで、大手クラウドソーシング事業者クラウドワークスを通じて、こうしたスキルセットを持つ技術者を探した結果、静岡県浜松市にオフィスを構える開発会社CFlatが浮上した。

 「たまたまCFlatの方がそのとき上京していて、直接顔を合わせることができた。直接お会いして話した結果、XAMLを使った開発経験があることが分かり、かつアジャイルスタイルの開発も一緒にやっていけそうだと直感したので、即決した」(今井氏)

コミュニケーションツールやドキュメントに数々の工夫を盛り込む

 こうしてIppinの開発プロジェクトは「初のWindowsストアアプリ」「初のアジャイル」、そして「初のクラウドソーシングとリモート開発体制」と、まさに「初物づくし」の試みとなった。この大胆なチャレンジをスムーズに進めるために、今井氏はいくつかのツールをプロジェクトに導入した。

 その1つが、クラウド型のプロジェクト管理ツール「Basecamp」だ。その機能はディスカッションボード、ToDo管理、ファイル共有、テキスト共有と極めてシンプルだが、使い勝手の良さから海外ではスタートアップ企業やフリーランス技術者の間で広く普及しているツールだ。

 このBasecampを介して、都内のオフィスにいる今井氏と、浜松オフィスで開発を進めるCFlatのメンバーの間で情報を密接にやりとりしながら開発を進めていった。その際、今井氏が最も心掛けたのが「文章だけではなく、ビジュアルイメージも使ったコミュニケーション」だったという。

win_ippin06.jpg 今井氏がBasecampを使って開発メンバとやりとりしていた様子

 「メールを使った文章のやりとりだけだと、食い違いが生じる恐れがあるので、Basecampのディスカッションボードのスレッドにアプリ画面のスクリーンショットをアップロードし、双方間での認識のずれが極力起こらないよう工夫した」(今井氏)

 また、仕様書にも工夫を凝らした。A3用紙にすべての画面遷移が収まるように仕様を記述し、かつビジュアル面でも見やすさを重視した。

 「私はこの仕様書を“地図”と呼んでいたが、例えば電話会議で開発者と話す際にも、『今地図のC-1の画面のことを話している』といった具合に、認識の相違が生じないようにした。また、殺風景で汚い仕様書だと見る気も起きなくなるだろうから、見た目のきれいさにもこだわった」(今井氏)

win_ippin02.jpg 今井氏が作成した仕様書“地図”

 こうした数々の仕掛けを介して、今井氏が画面デザインと仕様をCFlatに伝え、CFlat側でそれを実装、それを今井氏側にフィードバックし、さらに次の仕様を今井氏がCFlatに伝え……。こうしたイテレーションを何度も繰り返す典型的なアジャイル開発スタイルで、Ippinのプロジェクトは進行した。

 また当時は、Windowsストアアプリの開発に関する技術情報は、まだ日本国内では乏しい状態だった。しかし意外にも、「そのことで苦労することはなかった」と今井氏は話す。

 「海外の技術情報サイトや、マイクロソフトの開発者向けサイトには、英語ではあるものの情報が山ほどあったので、技術情報の不足で苦労することはなかった。開発ツールも使い慣れたVisual Studio上で、特に難しいことにチャレンジしない限りは、従来のWindowsアプリの延長線上のような感覚で開発できる。CFlatの開発者の感想も、『開発作業で特に苦労したことはなかった』とのことだった」(今井氏)

Ippinの開発ノウハウを生かしWindowsストアアプリのビジネスへ進出

 なおIppinのUIデザインの設計は、マイクロソフトから公開されているUXガイドラインを基に、今井氏がすべて行った。このガイドラインには、Windowsストアアプリが従うべきUXデザインのルールが定義されているが、今井氏はIppinのUIデザインに当たり、このガイドラインにどこまで準拠すべきか悩んだという。

 「ガイドラインにそのまま従えば、確かにいかにもWindowsストアアプリっぽいUIが作れるが、逆にいえば通り一遍にもなってしまう。Ippinでは、画面の右側に複数のドロワーを設けるなど、ガイドラインに沿っていないUXにもいくつかチャレンジしたため、Windowsストアの登録審査に通るかどうか、少し不安だった」(今井氏)

win_ippin07.jpgwin_ippin08.jpg Ippinの右側にある「Recipe」「Column」「Review」のドロワー(左)と「Column」「Review」のドロワーを開いた様子(右)

 Ippinが初めてWindowsストアに登録されたのが、2012年12月20日。当時はまだ、アプリのUXに対する登録審査が厳しかったという。しかし意外にも、登録を申請してからわずか6時間後には、登録の認可が下りた。こうして、実質的にはわずか1カ月という短い開発期間で、Ippinは無事Windowsストアでの公開までこぎ着けることができた。

 まさに「チャレンジ尽くし」だった今回のIppin開発プロジェクトを、今井氏は「実に良い勉強になった」と振り返る。

 「今回のプロジェクトは、Windowsストアアプリの開発ノウハウを習得する意味でも、またアジャイル開発・リモート開発という開発スタイルの経験を積む意味でも、非常に有意義だった。

 また個人的には、Windowsストアアプリのフラットデザインを経験できたのは大きな収穫だった。現在、ほかのアプリ開発プロジェクトでもフラットデザインを採用しているが、デザイナーではなくても、UIを直接デザインできる楽しさは、Windowsストアアプリならでは」(今井氏)

 今井氏は今後、Ippinの開発で得たWindowsストアアプリの開発ノウハウを生かして、Windows 8向けアプリを活用したビジネスにより積極的に取り組んでいきたいと抱負を語る。

 「今回のプロジェクトで得たノウハウを生かして、ぜひ別のWindowsストアアプリの開発にもチャレンジしてみたい。

 また個人的には、Windowsストアアプリの市場をこれからもっと伸ばすためにも、アプリレビューサイトがあってもいいと思っている。WindowsストアアプリはWindows 8デバイスを持っていないとストアにアクセスできないこともあり、一般の方々が手軽に探すことができない。この限界を突破するためにも、アプリレビューサイトの登場には期待したい」(今井氏)

関連リンク

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本コンテストでは、2013年9月1日〜12月1日に新たにWindowsストアに新規公開されたアプリを募集します。入賞したアプリの製作者には、総額130万円の賞金が授与されますので、ふるってご応募ください。

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