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» 2013年10月25日 18時10分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(39):親子丼とギョウザとカルボナーラの定食を設計する〜マルチなメディアとデバイスとパーソナライズ

“私は”親子丼とギョウザとカルボナーラを一緒に食べたい。を、あなたに代わって設計することこそが、これからのマルチなメディアに求められること、らしい。

[中村伊知哉,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

 先日、マルチスクリーンとソーシャルメディアに関するイベントに出演したところ、普段考えたことのない質問を受け、刺激になった。

 まず、「あなたのマルチスクリーン暮らしは?」という質問。

 ふむ。マルチスクリーンといっても、イメージが共有されていないよね。私はノマドワーカーで、自宅と3カ所のオフィスの間をぐるぐるしていて、それぞれテレビとPCが置いてある。つまり、スクリーンはマルチに存在する。でも、実際に使うときは1スクリーンのみだ。仕事場や自宅のほかの、移動中は手ぶらで構わんと考える方だ。

 一方、自分の息子たちは、居間でTVをネットに接続し、そのスクリーンの前でノートPCを開きつつ、スマホもいじり、計3スクリーン同時利用だ。同僚には、PCとタブレットとスマホとガラケーをカバンに持ち歩き、電車の中でもマルチスクリーンってのもいる。

 イベントでは、いろんなデバイスを使ってコンテンツを展開するビジネスが紹介された。家のテレビで見ていたドラマの続きを、電車のスマホで見る。テレビのCMを、街角のデジタルサイネージやオフィスのPCにも届ける。つまり、1コンテンツ・マルチスクリーン。

 この場合の“マルチスクリーン”が示すのは、「あちこちにデバイスがあるけど、使うときは1スクリーン」のタイプだ。

 でも私は、別の方向――息子たちがやっている「3スクリーン同時利用」に可能性を見いだす。つまり、TVのコンテンツと、PCの情報と、スマホのソーシャルサービスが渾然一体となって1ユーザーを取り囲む構図である。マルチスクリーンに対して、通信・放送の“マルチチャネル”で、“マルチなコンテンツ”を届けるサービスだ。

 これまで、テレビ局は地上デジタル波放送で番組を届け、ネット企業はブロードバンドのネットワーク環境を活用してWebサイトを開設し、通信会社はモバイルネットワークでケータイコンテンツを送ってきたのだが、それじゃダメだ。マルチなデバイス+チャンネル+コンテンツを、トータルに設計しなければ、1人のユーザーを捕まえきれない。

 つまり、ユーザーに頼りすぎなのだ。親子丼とギョウザとカルボナーラをコンビニで買ってきて食卓に並べて同時に喰っている私。楽しい。でもそれは、私に「コレが喰いたい」という欲求がハッキリしていて、それを編集する力があり、コンビニがそれを可能にしてくれるから、というだけに過ぎない。

 ホントはその渾然一体メニューを――私が同時に喰いたいメニューを、セットでパックにしつらえてハイって定食にしてほしいわけ。私が3スクリーンのばらばらなサービスを自分で編集して楽しまなくても、1パッケージで誰かが構成してくれるといいのに、と思うわけです。

「ビジネスとしてどう見るか?」

 広告市場の景気が少し上向いてきたとはいえ、6兆円市場を奪い合うのは消耗する戦いだ。課金で成功しているのは、“ニコ動”や“ソーシャルゲーム”くらいだろう。広告と課金によるビジネスのポートフォリオを組み立てざるを得ない。

 日本はガラケーで大きなコンテンツ市場を作ったものの、スマホへの移行で広告市場がガラポンになっているので、再設計だ。

 それより大事になってるのがeコマース業界だろう。国内ネット小売り企業主要40社の売り上げ規模が合計約1兆円、全小売の売上に占める比率が5%になった、という報道があった(「 小売り、ネット通販1兆円 アマゾンに対抗 13年度主要40社売上高」(日経電子版、2013年2月16日)。

 2007年の日本のネット小売りと小売り全体の売上比はおよそ1.5%とされているので、急拡大したことになる。今後、この領域をどう広げるべきだろうか。

 今後は、(課金や流通パッケージを含む)プラットフォームそのものの競争が本質的に行方を左右するだろう。

 これも先ごろの報道によるが、海外へのテレビ配信サービスに関して争われていた問題について、最高裁が原告であるテレビ局の訴えを認め、勝訴を確定させた。一見、著作権などのコンテンツの権利が守られたかに見えるが、一方でそれは日本国内で、コンテンツのクラウドサービスを行うのは難しいということを明確にしたものでもある。

 こうなると、コンテンツを流通させる「プラットフォーム」としては、GoogleやAppleなど、主要な海外のプレイヤーに取られるということになりかねない。結局、テレビ局は生殺与奪の決定権を海外企業に握られることになる可能性がある。勝ったように見えて実は、国ごと負けるのかもしれぬ。

 肝心なのは、コンテンツよりもソーシャルサービスだということだろう。

 マルチスクリーンをソーシャルメディアがどう絡み取って行くか。マルチスクリーンの在り方は、筆者的なノマドだったり、我が息子的な3スクリーンだったり、同僚的なモバイルだったりするが、その人たちは皆ソーシャルメディアでつながる。

 ただし、そのソーシャルプラットフォームは、twitterだったりmixiだったりFacebookだったりLINEだったり……、と毎年変化しているわけで、まだまだ落ち着かない状況だ。

 そのメディア環境がどう発展するかはユーザーの力量に左右される。この点において、日本のユーザー力は高いと言えるだろう。

 ドワンゴの川上会長が言うには、日本のニートはネットができる程度に豊かで、かつ24時間つながっている“ヒマ人”であって、その人たちのクリエイティビティがやたら高い。その100万人を超えるユーザーが日本のネット社会を構築している、と。

 うむ。だからこそ「バルス祭り」*ではTwitterの同時Tweet世界記録を打ち立てるわけだし、初音ミクも育つわけだし、炎上大国と称されるほどのトラブルも巻き起こすわけだ。

*バルス祭り アニメ『天空の城ラピュタ』に出現する「滅びの言葉」。映画が地上波で放映される際に、このせりふが出現するタイミングにあわせてTwitter上で「バルス」とTweetする同時書き込みイベントで、2013年8月2日の放映時に、1秒あたり14万超のTweetがあった。



「次のイノベーション・デバイスは?」

 次のイノベーションは、スクリーンじゃないのではないか、と考える。

 TVが60年、そしてPCとケータイが20年。その後をスマホやタブレット、そしてデジタルサイネージが襲い、マルチスクリーンと呼ばれるようになったわけだが、そこにまたスマートTV(関連記事)が現れて、一巡した。この次のイノベーションは別のところから来るような気がしてならないのだ。

 例えば、ロボットやウェアラブルコンピュータ。ロボットやおもちゃが電波を受けてダンスをするなど、「モノ」が表現して、コンテンツになる。あるいは、服や家電やクルマがネットでつながって交信する。技術的には難しくはない。あるいは、Fab Laboのムーブメントも注目したい。

 人と人のコミュニケーションだけでなく、モノとモノ、マシン・トゥ・マシンになるので、情報そのものが爆発的に増える。そうしたビッグデータの世界と、いま議論しているマルチスクリーンの世界は、恐らく、地続きなのだろうと感じる。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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