ニュース
» 2013年11月13日 09時33分 UPDATE

「エンタープライズ」と「コンシューマー」の向こうに:AWSとPivotalは同じものを見ている

「AWSはIaaSのサービスで、どちらかといえばネットサービス向け、PivotalはPaaSの製品でエンタープライズ向け」、だから比較にならないと考えるのは間違いだ。両社の目指しているものには大きな重なりがある。

[三木 泉,@IT]

 PivotalとAmazon Web Services(AWS)は同じものを見ている。2社の間には数々の大きな違いがあるが、目指している方向は重なっており、近い将来には実質的なライバルになる。

「AWSはIaaSのサービス、PivotalはPaaSの製品」という誤解

 AWSは単なる仮想サーバホスティング事業者でないところに、最大の特徴がある。米アマゾンCTOのヴァーナー・ヴォーゲルズ(Werner Vogels)氏は2012年11月、同社のイベント「re:Invent 2012」で、クラウドコンピューティング(ヴォーゲルズ氏にとってはAWSを意味する)では、ITリソースに関する制約が取り払われるとともに、これらのリソースすべてがプログラマブルになる、このため、あらゆる局面でITリソースを意識しなければならなかった従来のアプリケーション設計手法は本質的に変化し、開発者は、ビジネスに対して価値を与えることに集中できるようになる、と語っている

 AWSは、上記のようなクラウドネイティブなアプリケーションの開発と運用をどう助けられるかを考え、これに必要なツールを提供している。アマゾン上席副社長でAWSの総責任者であるアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏が、以前筆者のインタビューで答えていたように、AWSにとってIaaS、PaaS、SaaSの分類はどうでもいい。格好の例はRedshftだ。Redshiftのようなサービスを提供しているだけでもIaaSの枠を超えているが、このサービスは最近大幅に機能強化され、高機能ミドルウェアサービス的な色彩が強くなってきている。

im_ait_pivotalaws01.jpg 米Pivotal CEO、ポール・マリッツ氏

 10月中旬に米Pivotalが実施した「Asia Pacific Pivotal Summit 2013」における同社CEO、ポール・マリッツ(Paul Maritz)氏の説明は、このヴォーゲルズ氏の発言と非常に似ている。同氏は、大規模な並列CPU処理とストレージ容量が(比ゆ的に)無料になってきており、これがアプリケーションのつくり方を大きく変えつつあると指摘する。

 Pivotalは例えばデータ処理について、大規模な並列CPU処理とストレージ容量が無料化するなら、HDFSをあらゆるデータの一括保管場所(「data lake」)として用い、トランザクション・プロセシングから一般的なSQLクエリ、アナリティクスまであらゆるデータ活用ニーズに対応するアーキテクチャにするべきだとしている。

 一方で、企業ではこれまでのIT技術では解決できない、あるいは解決が困難な問題を抱える組織が増えてきている。また、今後さまざまな組織が自らの付加価値を維持し、あるいは高めていくためにも、これまでのIT技術とは違った「新しい、革新的な技術」が必要だとマリッツ氏は話している。

 「CPUマルチプロセシングとストレージが無料」な世界で「新しい、革新的な技術」を提供するための新たなOSが、現在のLinuxに相当するCloud FoundryだとPivotalはいう。そしてこの新たなOS上で動くにふさわしいアプリケーション・プラットフォームと、アプリケーション開発環境を提供することが同社のビジネスだ。狭義の「PaaS」提供企業ではないし、「ミドルウェア」提供企業でもない。同社が目指しているのは、新しいアプリケーションをつくる人たちのための、開発および運用のプラットフォームだ。

im_ait_pivotalaws02.jpg OLTPも、従来とは異なるレベルのスケーラビリティと柔軟性を実現するため、新たなアーキテクチャが求められるとPivotalはいう

 PivotalはIaaSレイヤからの独立を前提としている。「真にスケールする、柔軟でアジャイルなアプリケーションをつくるためには、特定のインフラに縛られてはならない」というのが同社の主張だ、AWSを含むIaaSや企業内のクラウドを臨機応変に活用した、多様なデプロイメントモデルを実現しようとしている。一方で、Cloud Foundry上で各種ミドルウェアをサービスとして容易に使えるようにしていく。

 つまり、AWSの基本はIaaS、Pivotalの基本はPaaS/ミドルウェアだが、どちらもこれからの新しいアプリケーションをつくっていく人たちに役立つ存在を目指している。

「Pivotalはエンタープライズ、AWSはネットサービス」は関係なくなる

 Pivotalは「エンタープライジー」な企業ではない。EMC、ヴイエムウェアというエンタープライズITの大企業からの出資を受け、親会社の営業リソースなどを活用しているが、Pivotalの製品やサービスはEMCやヴイエムウェアの製品を売ることを目的としていない。それどころか、上記の「CPUマルチプロセシングとストレージが無料の世界」という表現は、EMC、ヴイエムウェアのどちらからも独立した世界でやっていこうとしているということの宣言でもある。

 Cloud Foundryをはじめとするミドルウェア群はオープンソースベースだ。同社はまた、Javaに加え、Ruby、Node.jsなど多様な新しい開発言語/フレームワークを使えることが重要と考えている。Cloud Foundryへの支持はIBMのほか、Piston Cloud Computing、Canonicalなどの「OpenStackな」企業に広がっている。また、Tomcatはいうまでもないが、RabbitMQはReddit、Instagram、Huffington Postなどに、RedisはTwitterやPinterestなどのネットサービス企業に使われている。

im_ait_pivotalaws03.jpg Pivotalはオープンソース・ソフトウェアをベースに製品を構築している

 とはいえ、Pivotalが現在最も力を入れている顧客対象は「エンタープライズ」だ。だから、マリッツ氏も「エンタープライズが、グーグルやフェイスブックのようなアプリケーションを作れるようにしていく」と繰り返し語っている。それには、新技術を活用してもらうだけでなく、企業のIT部門に従来の習慣や文化を変えてもらう必要がある。「変わってもらうための最善の方法は、われわれが一緒にやることだ。実際のプロジェクトでペアになってプログラミングをすることで、問題への取り組み方を伝え、早期に結果を出せることを目指している」。これがPivotalのもう1つの重要な取り組みである、ペア・プログラミングによるノウハウ移転だ。

 一方、AWSはネットサービス企業の間で絶大な人気を獲得してきたが、過去1〜2年はエンタープライズ分野での取り組みも急速に強化してきている。従来のIT技術に基づくシステムも、AWS上で安定的かつ効率的に動かせることをさまざまな形でアピールしてきた。だが、AWSにとっておそらく今後さらに重要になってくるのは、Pivotalのいう意味に近い、「新しい、革新的なアプリケーション」だ。

 それは、これまでのエンタープライズ/コンシューマーの分類を超えたアプリケーションだ。携帯電話事業者は、ユーザーや端末の情報を活用して、高度にカスタマイズ/差別化されたサービスを提供することで「土管化」を防ぎ、逆に事業を拡大していくチャンスとすることができる。ゼネラル・エレクトリックでなくとも、自動車産業などでは、機器からの稼働情報を分析することで、自社の製品の改善と効率化を図り、一方で付加価値サービスを増やしていける余地がある。医療の世界では、電子カルテの情報を集めて分析することができれば、疫学的知見などの点で莫大なメリットが得られるだろう。他の分野でも、業界クラウドがつくられ始めている。都市では自動車の位置情報などからリアルタイムで信号制御や道路の料金設定を変えることにより、交通システムの最適化を進めることができる。もちろん、政府や地方自治体がクラウドをつくるのなら、あらゆる省庁の持つ住民に関しての情報を分析し、年金の不正受給を防ぐなどができなければならない。

 こうした目的のための新たなアプリケーションをまとめて一言で表わすのは難しい。だが、従来のエンタープライズアプリとも、コンシューマーアプリとも異なるという点で、「エンターシューマー(enter-sumer)アプリ」、あるいは社会的な意味合いが強まる点では「ニュー・ソーシャル(new social)アプリ」とでも呼べるのかもしれない(どちらも筆者の造語)。

 どう呼ぶかはどうでもいいが、PivotalとAWS、どちらにとっても、上記のアプリケーションの広がりが、今後の最大のビジネスチャンスであるはずだ。もちろんこれは2社に限らず、IT業界全体にとって最大のビジネスチャンスだ。だが、2社はこの最大のビジネスチャンスをつかむ最短距離の位置にいる。AWSには現在主にネットサービスで「新しい、革新的な」アプリケーションを作っている人たちの集合知がある。一方、Pivotalは上記のような新しいアプリケーションのためにつくられた企業だからだ。この分野において、PivotalとAWSは今後ライバル的な存在になる。AWSがこの目的で、今後ミドルウェア的なサービスを強化することは、十分考えられる。

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

@IT Special

- PR -

TechTargetジャパン

この記事に関連するホワイトペーパー

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。