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» 2013年11月15日 18時00分 UPDATE

「リーン」と「アジャイル」の関係とは?:書籍でたどる「リーン」の本質 (3/4)

[平鍋健児,チェンジビジョン]

「アジャイル開発」と「リーン」の関係

 以上のように、TPSの考え方が複数の分野に応用されていく流れを俯瞰すると、アジャイル開発はビジネスやマネジメントの世界における大きなリーンムーブメントの中に置かれていることが分かるのではないだろうか。

 ただ、ソフトウェア開発の中でアジャイル開発手法を知った人にとって、アジャイル開発が「リーンムーブメントの中に置かれたもの」であることには多少違和感があるかもしれない(私もそうだ)。特に日本では、TPSが先にあるが故に、アジャイル開発とリーン開発の関係を理解するのがさらに難しくなっている。以上で紹介した流れを基に、リーン開発とアジャイル開発の関係をひも解くと以下のように示すことができる。

ALT 図1 「アジャイル開発」と「リーン」の関係

 アジャイル開発は1990年代に起こった複数の開発手法(XP、スクラムなど)の総称だが、経営やマネジメント分野の言葉では、長い間その利点をうまく説明することができずにいた。そうした中、前述のメアリー・ポッペンディークとトム・ポッペンディークは、その著書において、リーンの言葉を使ってアジャイル開発を説明し、リーンとアジャイル開発の間に明示的な線を引いたといえる。この辺りは、2003年の「リーンソフトウエア開発 〜アジャイル開発を実践する22の方法〜」、2006年の「リーン開発の本質」、そして2009年の「リーンソフトウェア開発と組織改革」の三部作に詳しい。

 これによって、経営やマネジメントの視点から見た場合、製品開発の一部であるソフトウェア開発のことを「リーン開発」といえば、それはすなわちアジャイル開発を指すようになったわけだ。

アジャイル開発手法に強い影響を与えたリーンの哲学

 誤解を避けるために補足すると、XPを作ったケント・ベックは、その著書「XPエクストリーム・プログラミング入門」の第二版で、その名も「TPS」という章を1つ割いているし、アジャイルスクラムを作ったジェフ・サザーランドも「リーンはスクラムの起源の1つだ」と明言している。だから正確には、ポッペンディーク夫妻の登場前にも、リーンはアジャイル開発の2大手法に影響を与えていたといえる。

 さらに2010年には、デイビッド・アンダーソンによって「Kanban: Successful Evolutionary Change for Your Technology Business」が出版され、より明示的にリーン原則を下敷きにした方法論がソフトウェア開発向けに提案された。

 デイビッドらは、前述したリーン製品開発のドン・ライナートセンらのグループとも交流をしながら、このコンセプトを育てた。そして最近では、2011年にエリック・リースによって「Lean Startup」が書かれ、ベンチャー企業が小さな投資を続けながら製品開発と顧客開発を並行して1つのループの中で行う経営手法の名前にまで、リーンが使われるに至っている。

 そして、ここまでに挙げた全書籍において、大野耐一の「トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして」が参照・引用されていることは、いかにTPSのコンセプトが世界に大きな影響を与えたかを物語っており、日本の誇りであることを再確認できる(本書は読むたびに発見がある。ぜひ読んでほしい)。図1には明示していないが、リーン製品開発はTOC(制約理論)からも影響を受けている。書籍「The Goal: A Process of Ongoing Improvement」で有名なエリアフ・ゴールドラッドも、大野耐一を「最も尊敬する巨人の1人である」と公言している。

 冒頭で、リーンの原則は「非中央集権的体制」「学習と改善」「協調と連携」を前提とすると述べたが、そうした“現場の人”のモチベーションと参画を促すリーンのマネジメントコンセプトは、「産業革命以降の産業パラダイムの変遷」というより大きな視点から見ると、私たちが生きる21世紀の大きな変化だということができる。

 19世紀に銃の組み立てから始まった、モノを標準化して同じ完成物を作り出す「部品」というコンセプトが、産業革命を経て「大量生産」に拡張され、工場の工員をも交換可能とする組み立てラインが作られた。しかし、戦後の日本で多品種少量生産を強いられた自動車産業からリーンのコンセプトが生まれ、現場の1人1人の工夫と参画を重視するパラダイムが、今や21世紀マネジメントの主流になろうとしているわけだ。

ALT 図2 「4つの産業パラダイムの変遷」。工芸→交換可能なパーツ(銃の生産)→交換可能な人(大量生産)→現場で考える人々(リーン)という一連の変遷(出展:Alan Shalloway/アジャイルジャパン 2011 基調講演)

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