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» 2013年11月21日 18時00分 UPDATE

情シスの本棚(3):ビッグデータを使いこなす“現実的な”5つの条件

ビッグデータ活用の課題は分析ノウハウだけではない。分析に使うデータの精度が低ければ、導き出される分析結果の精度も低くなる。この問題を解決する方法とは何か?

[編集部,@IT]

いつやるか? マスターデータ管理

ALT ●著者:アビームコンサルティング 國本修司●日経BP社●ISBN-10:4822262804●ISBN-13:978-4822262808●発売日:2013/11/20

 「増え続けるデータを、その渦に溺れることなくうまく使いこなすための5つの条件を提示したい」。「一見するとこれらの条件を満たすことなく、データ活用の取り組みを進めることは可能に見えるかもしれない」。「しかし、5年後・10年後には後悔する可能性は高い」。「『あのデータとこのデータを組み合わせて分析したい』『グループ全体で、ある事業の収支を分析したい』などと、データを柔軟に組み合わせて横串を刺して分析したいニーズが利用部門から出てくるたびに、情報システム部門はその対応に頭を痛め、あるいは、多くの費用と工数を投じてシステムを改修しなければならなくなるからだ」――

 本書「『データ経営』を実現するIT戦略」は、日々増え続けるデータをどう扱えば、収益やビジネスメリットに結び付けられるのか、マスターデータ管理の観点から説いた作品だ。「多くの情報から本質を見いだすためには、それらをつなぎ合わせて横串を通しながら、集計・分析できるようにする仕組みが必要となる」。本書では、マスターデータはそうした個々のデータ同士をひも付ける「かすがい」となるべきであると指摘。マーケティング関連データやソーシャルデータ、センサデータなど、データの量と種類が増えていくほど、「データをひも付けて分析する活動が生み出す価値はさらに輝かしいものになる」として、花王、アシックス、味の素の事例を交えながら、マスターデータ管理のノウハウやプロジェクトの進め方などを具体的に説いている。

 冒頭の「5つの条件」とは、「個別に増え続けるデータを統合管理せよ」「本当に統合するべきものを見極めよ」「自分自身で自社のことを“自分ごと”として考えよ」「現物に向き合って得られる情報量を軽んじるなかれ」「“マスター仙人”を確保せよ」というものだ。各条件に対する個別の説明は控えるが、これらを一貫するのは「“自分ごと”として考えよ」というメッセージだ。

 というのも、著者は「マスターデータとは自社の歴史・文化といったものから、経営思想・ビジネス習慣・情報システムの骨格までを表現した会社全体の縮図」であると指摘。また、「マスターデータが表現する商品の現物に触れることが、プロジェクトに関わるスタッフの洞察を深める」と説いている。つまり、システムに入力・管理するための情報整理だけに視野を狭めることなく、自社ビジネスを見据えて、より主体的に取り組むことが重要だとして、“自分ごと”として取り組むためのさまざまな生きた知見を紹介しているのである。

 例えば、マスターデータ管理に取り組む上では、「五感をフル活用して」データと向き合うことが大切だという。仮に「パリパリ冷凍餃子 12個入」という商品があるとすれば、「餃子1つ」という言葉も部門によって解釈が異なる。製造部門なら「パリパリ冷凍餃子 12個入」1パックを想起するかもしれないし、物流部門なら「餃子パック24個を詰めた段ボール箱1つ」を思い浮かべるかもしれない。販売部門の視点に立てば「特別割引の12個入り2つセット」のことを考えるかもしれない。このように、企業の「各部門、あるいは消費者の目線で考えていくと、さまざまに単位が変わる可能性」がある。マスターデータ管理は忍耐が必要な作業ではあるが、こうしたスタンスが作業を実のあるものにし、真にビジネスに寄与するデータ基盤を整備する助けになると訴えている。

 「データの統合管理」も同様だ。統合管理といえば「散在しているマスターデータを1カ所に集め、いつでも誰でもそこを見れば良い状態にする」といった「耳触りの良い言葉」を想起する向きも多い。だが、例えば「得意先マスター」が散在している場合、「営業部門の得意先マスターは営業担当者がアプローチしている部門や顧客ごとに」情報を管理しており、「物流部門では配送先の住所や郵便番号といった場所に関わる区分単位で」管理している場合が多い。つまり、「散在しているマスターデータは、必要性があって散在している」ため、データに対する各部門の視点、ニーズに配慮しながらデータ整備を進めることが大切だと説いている。

 では、こうした全社が絡むマスターデータ管理をどう進めれば効率的なのだろうか? 著者はその1つの解として、まずマスターデータ管理の目的を「経営の見える化」「業務標準化」「情報システム構築」の3つに分け、それぞれに応じたプロジェクトを個別に実施することが現実的だと勧める。例えば「経営の見える化」なら、営業部門や物流部門が「月次の販売実績」「倉庫別の商品在庫数」などを管理可能とすることに注力し、「業務標準化」なら「工場における作業区画やタンク・生産ラインの呼び方」「生産で扱う原材料の定義」などの標準化に取り組む。「情報システム構築」なら、種類の異なるマスターデータに対して、「登録・変更・削除・照会といったシステムの基本的な機能を流用する」ことに集中するといった具合だ。

 ただ、プロジェクトの推進には、「ビジネスサイドの理解の獲得」という一大ハードルを乗り越える必要もある。そこで、まずは「現場を巻き込む必要性が低い」情報システムの整備を目的としたプロジェクトから着手し、これと並行して「経営の見える化」に取り組む。こうしてマスターデータ管理に対する経営層の理解が得られたところで、最終的に業務部門も巻き込んだ「業務標準化」プロジェクトへと移行する、といったステップが効率的だと勧めている。

 さて、いかがだろう。マスターデータ管理は、多くの企業に「いつかは取り組まなくてはいけない課題」と認識されていながら、なかなか着手されない「永遠の課題」の1つだ。実際、全社の理解・協力の獲得が鍵となるだけに、プロジェクト開始に向けてステークホルダーを調整しようとすればするほど、「開始時期を決められなくなってしまう」。M&Aや事業再編など、マスターデータ管理の計画を立てやすいタイミングもあるが、そうした話は「経営層だけで極秘裏に進み、情報システム部門まで指示がくるのは実行直前」となるケースが多い。

 ではどうすればよいのか? 著者は、「少し乱暴な言い方であるが、いつやってもよいと前向きに理解」してはどうか、「自分が必要と感じ絶対にやるべきだと強く誓ったら、それがプロジェクトを開始するべきタイミングになる」と力説している。こうした著者の骨太なメッセージは、マスターデータ管理に対する意識を刷新し、その実施に向けて強く背中を押してくれるのではないだろうか。

 マスターデータ管理のプロフェッショナル「マスター仙人」というべき花王、アシックス、味の素の実務担当者のインタビュー記事もリアルであり、著者のメッセージの意味を、より具体的に確認できる。文章や構成にやや未整理な部分もあるが、データ活用の在り方を見直したい方は一読してみてはいかがだろう。

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