必要なのは夢ではない、付加価値だプログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(7)(2/2 ページ)

» 2014年01月20日 00時00分 公開
[Engine Yard Tim Romero(ティム・ロメロ),@IT]
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 提供しようとしているものが、ユーザーが重要と考えるものから、結果的にかなり掛け離れてしまうことなどはよくある間違いだ。

 創設者はとかく奇抜な新しいもの、例えばオンラインフォーラムのリアルタイム・データマイニングやインタラクティブなアニメキャラクターなどに目を向けがちだ。一方ユーザーは、もっとシンプルなものにとてつもない価値を見いだすことがよくある。例えば、迅速に地域ごとの報告書を作成できるもの、奥さんの買い物リストにアイテムを追加できるもの、同じブラウザーのウィンドウから2つのシステムをチェックできるもの、といったように。

価値を高める3つのステップ

 第1のステップは、顧客にじっくりと耳を傾けることだ。

 間違った方法で製品を使用するように売ったり、仕向けたりしてはいけない。ぜひとも、顧客が見落としている部分を指摘してほしい。ただし、忘れないでほしい。面談の目的はあくまでも、どうやったら顧客が望むものを得られるかを手助けし、すぐにも付加価値を与えられるかに耳を澄まし、学ぶことだ。

 第2のステップは、ユーザーのための価値に努力を傾けることだ。顧客が価値を見い出していない部分の優先順位は下げるべきだ。

 言うまでもなく、顧客は全体像を見ていない。その結果、長期ビジョンを妥協せざるを得なくなるかもしれない。しかしそれでも、自分に誠実であり続け、顧客が確信したものに真の付加価値を付けることに、集中して努力する必要がある。

 価値に目を向け続けることは、自分と自分のチームが費やしている時間の中身に目を向けることでもある。顧客が見いだす価値に直結しない、特異な形でのみ関係しているような活動は、アウトソースするか除外すべきだ。例えば自社で行っている会計業務が、自社ビジネスにとって相対的に価値が低いと判断するならアウトソースすべきだし、そのためのサーバー管理はクラウドに移行すればよい。システムアップグレードやデータベース管理に時間がかかっているのなら、PaaSを使うのも手だ。

 必要な活動だが、ユーザーに付加価値をもたらすものではない場合、そうした二次的な活動に自身やスタッフが注いでいる時間の全てが、本来はユーザーの生活に付加価値を与えるためにささげるべき時間であるはずだ。

 第3のステップは最も難しく、最もやりがいがあるもの―― 生み出した付加価値をさらに高める方法を見つけることだ。

 そのための方法は2つある。顧客基盤を拡充して人々が望むものを得られる手助けをするか、新たな機能性導入を図って既存の顧客の手助けをするかだ。

 これが私のリストの最終段階だが、まだ終わりではない。ここでまたステップ1に戻り、プロセスをあらためて始めるのだ。


 鋭い読者なら間違いなく、セールスマンになることについてと思しき記事なのに、実際の販売で役立つアドバイスが明らかに無いことを指摘するだろう。それを学びたいのなら、販売技法に関する書籍やオンライン情報源から教わった方が良い。

 私がここで指摘したいのは、起業家として最も重要なツールは、特殊な技術に精通していることではなく、どのようにして顧客が望むものを得られるよう手助けできるかについて明確に把握し、正確に説明できる能力だということだ。

 いったん、製品が顧客の生活に付加価値を与えるプロセスの一部となり、顧客がそれを認識するようになれば、どんなに内向的な人でも、営業電話を待ち望むようになる。個人、会社の両方で費やした金額は、顧客の生活にもたらした付加価値の量に正比例するだろう。

 今や、私がプログラミングを本職としていないことを、われわれの顧客と製品保証スタッフの両者が喜んでいるに違いない。しかし、初期の数年間、共に働いたチームは、私が潔く販売とマネジメントにシフトしていった訳ではないことをよく分かっているはずだ。私はあまりにも長い間、ソフトウェアアーキテクチャーとその開発に関わり過ぎた。

 新会社を運営していく日々では、販売に手を焼かされる。そんな時私は、ソフトウェア開発の明瞭さに思いをはせる。プログラミングには試練も多いが、利用できるツールや可能なアプローチはかなり明確に定義できるものであり、コンピューターは人間よりはるかに予測可能で一貫性がある。

 しかし結局のところ、私はソフトウェアの設計や開発よりも、新会社の運営により多くの価値を生み出しているように思う。

 今自分がしていることに付加価値を付けることで、自分が幸せになれる。

筆者プロフィール

Tim Romero(ティム・ロメロ)

Tim Romero(ティム・ロメロ)

プログラマでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマ社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。


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