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» 2014年02月06日 18時00分 UPDATE

お茶でも飲みながら会計入門(89):なぜ防げなかったのか〜 IT業界の不正事例

同僚や上司が不正取り引きに関わっているかもしれない…… そんな疑念が生まれたときに気を付けるべき事柄を解説します。

[仰星監査法人 吉田延史, イラスト:Ayumi,@IT]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


 今回はIT企業で起きた不正について、取り上げます。

 ネットワーク構築などを手掛けるネットワンシステムズが平成25年2月に、不正行為が判明したことを公表しました。同3月には同社特別委員会より、不正の全容について調査報告書が出されましたので、詳しく見ていきましょう。

 なお、ネットワンシステムズでの不正は組織ぐるみのものではなく、従業員が自分の利益のために行ったものです。会社が不正を長期間見抜けなかった点に問題がなかったとはいえませんが、調査報告書には「多くの社員が積極的に調査に協力する一方で、(中略)事案の徹底究明とその開示を強く求めていた」とあり、ほとんどの同社社員は真面目な営業マンやITエンジニアだと思われます。

【1】会社資金横領の手口

登場人物


A  主犯その1 元X銀行社員、不正が行われた時はネットワンシステムズの社員

B  主犯その2 X銀行の社員(不正実行時)

C  主犯その3


不正の舞台となった会社


X銀行  ネットワンシステムズの得意先

ネットワンシステムズ

Z社  Cが不正行為を行うために利用した会社


 取引の流れは以下の通りです。

X銀行(発注)→ネットワンシステムズ(発注)→Z社


 このうち、X銀行からネットワンシステムズへの発注は、実在する取り引き(ネットワーク基盤の更改など)でした。しかし、案件の一部としてネットワンシステムズがZ社に発注していた「コンサルティング費」は、架空取り引きでした。

 A、B、Cの3人は共謀して、Z社がX銀行案件の協力業者であるかのように偽装して、ネットワンシステムズからZ社へ外注費の支払いを行わせ、その資金を山分けしていたのです。

 具体的にどうやったのかというと、まずAとCが各社の代表・窓口として外注契約を締結します。契約に基づいた請求書を、C(Z社)がネットワンシステムズに発行し、ネットワンシステムズではAが請求書を受け取り、外注作業終了の検印を押し、経理に提出します。そうすると支払日には、Z社にネットワンシステムズから(存在しない仕事の)代金が振り込まれます。

 上記の手口を複数回利用して、3人がネットワンシステムズ社からだまし取った総額は、約7億5000万円にも上りました。

【2】発覚の経緯

 不正が発覚した直接の契機は国税局による税務調査でした。「Z社への外注費は実体が無いのではないか」との質問がネットワンシステムズになされたのです。通常、税務調査対応は経理部が行いますが、Z社との契約については分かる人がAしかいなかったので、Aも税務調査の対応に参加しました。

 不正がばれるとまずいので、Aは必死です。経理部が自分の意にそぐわない回答をしたと、どう喝する場面もあったようです。しかしシラを切り通せず、結局、Aの不正行為が発覚することとなりました。

【3】本事案から学ぶべきこと

 このような事案は、他のIT企業でも起こる可能性があります。もし不幸にも自分の周りで不正が行われてしまったら、それに気が付き阻止する、それはできなくても最低、事件に巻き込まれないようにしたいものです。そこで、気を付けるべき事項を以下に挙げます。

関係者は違和感を覚えていた

 ネットワンシステムズ内の関係者は、「Z社への発注手続を繰り返すうちに、変だなと思ったし、Z社のWebサイトを確認してもよく分からない会社だったので、何かありそうだな、不自然だなと思うようになった」と話しています。一緒に仕事をしていれば、何かしら疑念があることに自然と気付くでしょう。大切なのは、違和感をそのままにしないことです。

Aの上司はどうすればよかったのか

 もし自分がAの上司だったら、不正行為が発覚すると管理不行届の責任を負わされることとなります。身を守るためにも、強い姿勢でAと真剣に話し合うしかありません。

もし、Aの部下だったら

 部下だった場合は、上司と違って管理責任はありません。しかし上司に歯向かうと、評価が下がったり、干されてしまったりするかもしれません。内部通報制度、内部監査室、社長への投書など、SOSを拾う窓口を設けている企業もありますので、それを利用するのもよいでしょう。どのように対応すればよいのか、サラリーマンとしての嗅覚を働かせて慎重に行動する必要があります。

 最低限、不正で得た資金は絶対にもらわないようにしましょう。

 IT企業の不正事例について見てきました。業界全体からすればごくごくまれな事例だとは思いますが、実は毎月2〜3件くらい不正についての調査報告書が公表されています。万一、身の回りで何かが起きた場合にはどうすればよいのか、日常的に少しだけ意識すると良いと思います。それではまた。

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筆者プロフィール

吉田延史(よしだのぶふみ)

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。



イラスト:Ayumi


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