無心に仕様書と戦う生活は終わりにしたい文化の違う者同士が言葉を交わすために

開発現場では、しばしば無心に仕様書と戦わなければならないことがある。そんな生活はもう、終わりにしたい。平鍋氏はIMPACT MAPPINGという手法を提案する。

» 2014年02月27日 11時37分 公開
[太田智美,@IT]

 ヌーラボは2014年2月4日、これからのコラボレーションサービスの在り方を考えるイベント「nucon」を開催した。その中から、チェンジビジョンの平鍋健児氏によるスピーチ「IMPACT MAPPING 〜 インパクトのあるソフトウェアを作る」をリポートする。

「何のために作るのか」という疑問との戦い

 開発現場では、しばしば指示された機能を作る際に「この機能は何のために作るのか」「どのように使うのか」という闇に覆われ、ただただ無心に仕様書と戦わなければならないことがある。このような状況に陥ると、制作物に魂を込めることが難しくなる他、精神衛生上も良くない。一方、指示する側の人間からすれば「なぜ、やってほしいことが伝わらないのだろう」となる。こうして、両者の間に距離が生じ始めるのだ。

 平鍋氏は、このようなすれ違いを軽減するために、「IMPACT MAPPING(インパクトマッピング)」という手法を提案する。IMPACT MAPPINGとは、マインドマップを使ってビジネス視点、技術者視点、デザイナー視点など、異なる視点を持つ人同士の対話を手助けし、「ビジネスの目的」を共有できるようにするものだ。イベントでは、平鍋氏自らが運営するツール「astah*」の有償ユーザー数増加施策を用いてIMPACT MAPPINGの使用例を紹介。以下ではその概要をリポートする。

「astah*」の有償ユーザー数増加施策から見るIMPACT MAPPING

 チェンジビジョンが提供するUMLツール「astah*」は、これまでに全世界で47万ユーザーが登録している。うち、2万が有償ユーザーだ。また、アクティブユーザー数(過去1カ月利用したユーザー)を見ると、4万人中7000人が有償ユーザーとなっている。しかし、さらにビジネスを成功させるためには、有償ユーザー数の拡大が必須になるという。

 以下は、そうしたビジネスの目的を反映したImpact Mappingだ。

astah*で用いられたImpact Mapping astah*で用いられたImpact Mapping

 平鍋氏は、まずマインドマップの中心部に、ビジネスの目標となる「astah*の海外有償ユーザーの増加」と記入。続いて、「その目標を達成するために、誰に働き掛けるか」を決めた。これは、目標に貢献してくれそうな人をカテゴリごとに洗い出していく作業だ。今回の目的を達成するためには、ユーザー、TDM(テクニカルディ シジョンメーカー)、Rock Star、マスメディア、販社、大学の先生、ソリューソンパートナー、広告代理店などが挙げられた。ちなみに、TDMとは「企業において技術面での意思決定権を持っている人」、Rock Starは「人前で話をする人」を指す。

 次に、「各カテゴリの人たちに行ってもらいたいこと」をマインドマップに書き出していく。astah*の例では、「ユーザー」に対しては「プラグインや評価レポートを書いてもらう」「SNSでシェアしてもらう」、「TDM」に対しては「成功事例を公表してもらう」、「Rock Star」には「アテンションを高めるためにプレゼンで製品を紹介してもらう」といったことを書き込んだ。

 こうして「誰に」「何をしてほしいのか」を明確化した後で初めて、「どのような機能が必要か」を考える。このようなプロセスを踏むことで、「ビジネスとして実現したいこと」と「開発すべきもの」をはっきりと結び付けられるのだと平鍋氏は言う。

 Whyの部分を伝えずに、やりたいことだけを羅列しても開発者には伝わらない。どのような目標があり、その目標を達成するためにはどのような人が必要で、その人たちにどう行動してほしいのかを共有しなければ、目標到達への道は見えてこない。文化の違う者同士が言葉を交わすためには共通言語が必要であり、その手助けをしてくれる1つの方法が、Impact Mappingなのだ。

 平鍋氏は、「Impact Mappingの一番の目的は、チーム全体で共通の認識を持てるようにすること。企画者と開発者のビジネスの意図をマッチングできるか、さらには、運用管理者、デザイナーとも共有できるかということが、ビジネスを成功させる上で最も重要だと考える」と述べた。

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