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» 2014年03月17日 18時00分 UPDATE

三国大洋の箸休め(27):スパコン時代に突入する米大リーグ

エドワード・スノーデンの元雇い主であり、米NSAに出入りする大手外注先の1つとして知られる軍需企業、ブーズ・アレン・ハミルトンが、今スポーツビジネスに注目しているそうだ。

[三国大洋,@IT]

 今回は、エドワード・スノーデンの元雇い主であり、米NSAに出入りする大手外注先の1つとして知られる軍需企業、ブーズ・アレン・ハミルトンが、今スポーツビジネスに注目しているというお話を紹介する。

今日の例文

“Moneyball” focused on the A's 2002 season, however, and so did not scrutinise what most people think of today as big data. The number crunchers who looked at player statistics to make decisions back then, for example, worked on regular PCs.

But 95% of all data collected over the 140-year history of major league baseball (MLB) has been generated in the last five years, according to Sean Lahman, a baseball expert and journalist. With new troves of information, teams can make decisions entirely different from those central to “Moneyball”.

Consequently, one MLB team has invested in a Cray supercomputer according to Pete Ungaro, the company’s chief executive officer. The team, which declines to be named, exemplifies an organisation that, five years ago, most people would not have dreamed would need, or even want, a supercomputer, he says.

Supercomputers: Game On - The Economist


ワード&フレーズ

 では、上記の例文に出てきたキーワードとキーフレーズを見ていこう。

原文
“Moneyball” Michael Lewis著の『マネーボール』(後にブラッド・ピット主演で映画化)
scrutinise 細かく調べる、詳しく述べる(scrutinize、The Economistは英国英語の表記を使っている)
number cruncher (会計士など)数字を扱う人(crunch:かみ砕く、計算する)
consequently その結果
exemplify 手本を示す、模範となる

ニュースの背景

 GigaOMというテクノロジ系ニュースサイト主催の「Structure Data」というカンファレンスが、2014年3月19日と20日にわたってニューヨークで開かれる。これにゲスト出演する予定のブーズ・アレン・ハミルトン(Booz Allen Hamilton、以下ブーズ・アレン)の幹部が今、スポーツビジネスの分野に注目しているという話が下記の記事に出ている。

Sports is big business, which means it’s fertile ground for big data - GigaOM

 ブーズ・アレンといえば、2013年以来世界中で大騒動を巻き起こしているエドワード・スノーデン(Edward Snowden)の元雇い主であり、米NSAに出入りする大手外注先の1つとして知られる軍需企業だ。

 だから、同社が「スポーツビジネスの分野に着目」というのはちょっと意外な気もした。しかし、「膨大なデータを解析して有益な情報を引き出す」という点では、NSAの諜報活動もスポーツの試合も変わりはない、ということらしい。

 以前の記事で触れた通り、試合中の選手の動きを全て記録できるような仕掛けは、NBAやNFL、MLB、さらにMLS(米プロサッカーリーグ)などでも既に導入されている。ただ、そうして集めたデータをどう分析し、役立てていくか、という点についてはまだこれから……そんな状況は、ブーズ・アレンのような企業にとってまさに「商機到来」かもしれない。

 ところで、GigaOMの別の記事によると、米大リーグ(MLB)のあるチームが、クレイ(Cray)の子会社ヤークデータ(YarcData)が提供する「Urika Big Data Graph Appliance」という解析ツールの導入を決めたらしい(チーム名は不明)。

 このシステムについては初めて知ったが、下記の動画がある製品紹介ページには「リアルタイムのデータディスカバリのためのビッグデータアプライアンス」("Urika: a big data appliance for real-time data discovery")といううたい文句(釣り書き)がある。

 言及先のEconomist記事には、「チームはスパコンを使ってデータを処理することで試合中の意志決定に影響を及ぼすことができる」といった記述もある。そこから推測すると、試合中に集めたデータを使いながらある種のシミュレーションを行い、その場で作戦や選手起用などを決める、ということだろうか。

 この記事の執筆者であるBabbage(匿名のコラムニスト)は、スパコン関連ビジネスの変遷に触れている。一時は冷戦終結で縮小していたこの市場――1980年代には世界全体で年間20億ドル程度で推移していたのが、1990年代前半には4億ドル程度に縮小した――が、近年のビッグデータブームでまた盛り返しており、2012年から2017年にかけて30%も成長するとするIDCの予想を紹介している。ただし、この成長が長続きするのか、それとも一時的なブームに終わるのかは、しばらく様子をみてみないと分からない、などといささか懐疑的だ。

 科学技術の分野で、もともと軍事利用を目的として開発されたものが、その後民間の商用利用につながる動きは今に始まった話でもない。ただ、民間側の受け皿(用途)の1つが、ビッグビジネスになったスポーツであるというところは、いかにも現代的なものと感じられる。

【関連記事】

NBAに本格到来した「マネーボール」の流れ

http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1307/08/news062.html


文章の分解

 上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。

[1] “Moneyball” focused on the A's 2002 season, however, /

[2] and so did not scrutinise what most people think of today as big data. /

[3] The number crunchers (/

[4] who looked at player statistics to make decisions) back then, for example, worked on regular PCs.

[5] But 95% of all data (/

[6] collected over the 140-year history of major league baseball (MLB) ) has been generated in the last five years, /

[7] according to Sean Lahman, a baseball expert and journalist. /

[8] With new troves of information, teams can make decisions entirely different from those central to “Moneyball”.

[9] Consequently, one MLB team has invested in a Cray supercomputer /

[10] according to Pete Ungaro, the company’s chief executive officer. /

[11] The team, which declines to be named, exemplifies an organisation that, five years ago, (/

[12] most people would not have dreamed) would need, or even want, a supercomputer, he says.


 それぞれ、以下のように読み解ける。

[1] しかし(Michael Lewisの)『マネーボール』はオークランド・アスレティクスの2002年シーズンに焦点を当てた話だった

[2] そのため、今日大半の人々が「ビッグデータ」の言葉から連想するような事柄を詳しく記してはいなかった

[3] 例えば当時数字を分析していた人間たちは、普通のPCで仕事をしていた

[4] 選手の統計データを調べて意志決定を行っていた

[5] しかし、全てのデータの95%がここ5年間に生成されたものだという

[6] MLBの140年の歴史の中で集められた

[7] Sean Lahman(野球の専門家でジャーナリスト)によると

[8] 新たに手にした貴重な情報を使って、各チームは「マネーボール」の中心として描かれていたものとは全く異なる意志決定を行うことが可能になっている

[9] その結果、MLBのあるチームはクレイのスーパーコンピューターに資金を投じた

[10] Pete Ungaro(クレイのCEO)によると

[11] そのチームは(名前を書かれるのを断っている)、5年前ならスーパーコンピューターなど必要もなく、また欲しがりもしないような組織の典型的な例だと、彼は言う。


もう一度英文を

 では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。

“Moneyball” focused on the A's 2002 season, however, and so did not scrutinise what most people think of today as big data. The number crunchers who looked at player statistics to make decisions back then, for example, worked on regular PCs.

But 95% of all data collected over the 140-year history of major league baseball (MLB) has been generated in the last five years, according to Sean Lahman, a baseball expert and journalist. With new troves of information, teams can make decisions entirely different from those central to “Moneyball”.

Consequently, one MLB team has invested in a Cray supercomputer according to Pete Ungaro, the company’s chief executive officer. The team, which declines to be named, exemplifies an organisation that, five years ago, most people would not have dreamed would need, or even want, a supercomputer, he says.


追記:SXSWに進出したスポーツビジネス

 2014年のSXSW(SXSW 2014)が先週末にオースチン(テキサス州)で始まった。2007年のTwitterや2009年のFoursquareなど、このイベントでのブレークをきっかけにその後メジャーな存在になったサービスが存在するおかげで、(少なくとも米国では)すっかりお馴染みの催しになっているようだ。

 そんなSXSWに今年、スポーツビジネスをテーマとする「SXSports」というイベントが新たに加わったという。

Revenge of the jocks: sports invades tech's Texas utopia - The Verge

 SXSWはもともとエンターテインメントビジネス関連の集まりだ。ニューヨークとロサンゼルスというショービズの2大中心地のどちらにも近いとはいえないテキサスで、確か音楽業界関係者が集うトレードショーとしてスタートしたものと聞いた覚えがある。

 今では「音楽」「映画」「インタラクティブ」の3つが柱となっているが、そういう発展の経緯からすると、スポーツビジネスの追加という流れはごく自然なものと感じられる。なお「SXSports」はインタラクティブおよび映画の一部として実施されているようだ。

 SXsportsのページを見ると(他のカテゴリと同様)さまざまなセッションが予定されていることが分かる。中でも目玉といえそうな3つのセッションのうち1つが、ビル・シモンズ(ESPN系サイト「Grantland」編集長)と『シグナル&ノイズ』著者のネイト・シルバー(「FiveThirtyEight」サイトなどで知られるデータサイエンティスト)の対談となっているのは目を引く。

 シルバーのESPN移籍(NYTimesからの引き抜き)が米メディア業界で大きな話題になったことは以前に触れた通りだが、この対談の中では新しいESPN版「FiveThirtyEight」が3月17日に立ち上がることなどを明らかにしていたらしい(サイトの名前は従来通りだが、新しいサイトでは、スポーツ、政治、経済、科学、ライフスタイルに至るまで、扱うテーマを広げる予定だという)。

SXSW: Nate Silver and Bill Simmons Reveal How ESPN Won FiveThirtyEight - Hollywood Reporter

Nate Silver's FiveThirtyEight.Com Re-Launching This Month - The Wrap

Nate Silver Gives the Lowdown on New ESPN Site at SXSW - Mashable

 なお、SXSportsのオープニングセッションは、ピーター・グベル(元Sony Pictures EntertainmentのCEO、NBAゴールデンステート・ウォリアーズとMLBロサンゼルス・ドジャースの少数オーナー)が務める。また、もう1つの目玉セッションの方はサッカー米国代表チームの監督を務めるユルゲン・クリンスマンとESPN.comコラムニスト/Grantland常連寄稿者との対談となっている。

 シリコンバレー(テクノロジ業界)とハリウッド(メディア&エンターテインメント業界)との接近・融合も今に始まったことではないが、この「SXSports」とネイト・シルバーに関するニュースを取り上げているのが、The VergeやMashable(いずれももともとはテクノロジ系媒体)、そしてHollywood ReporterやThe Wrap(いずれもエンタメ系業界媒体)というあたりに今の状況がよく現れているようで興味深い。

 なお、ネイト・シルバーがSXSWのステージに登場するのは今回が3度目。下記のビデオは2013年のもので、その前年にあった米大統領選の際の予想などについてかなり詳しい話をしている。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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