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» 2014年03月26日 11時03分 UPDATE

頭脳放談:第166回 AppleかGoogleか? クルマのIT化が次なる戦場

AppleとGoogleの戦いが自動車市場を舞台に始まった。両社のアプローチは違うものの、クルマのIT化をターゲットにしているのは同じ。さて、スマートフォン市場に続き、自動車市場でも両社の戦いは続くのか?

[Massa POP Izumida,著]
頭脳放談
System Insider

 またもやと言うべきか、当然至極と言うべきか、自動車市場を舞台に、またまたAppleとGoogleの戦いが始まったようだ。

 華々しく登場し、マスコミをにぎわせていたのは「Googleカー」である。自動車メーカー各社が大いに研究しつつも、何か躊躇して「ふん詰まっていた」感があった「自動運転」が、Googleカー登場のおかげで一気に商品化レースへとヒートアップした感がある。Googleカーの取り上げられ方を見ていて、すぐに自動運転ができてしまいそうな報道に危惧を抱いた。それで、それこそ「手放し」でどんな状況下でも自動運転できる(それも普通の価格帯のクルマで)段階とは言い難い、といったようなことを以前書いた(「第162回 クルマの自動運転に求められること」)。

 Googleの場合、クルマをただ自動運転するというより、クルマを含めた現実世界を仮想世界の中に取り込みたいといった得体の知れぬ願望があるように感じられる。その奥底にどういう展開が広がっていくのか予想もつかないところがある。同じ自動運転の未来でも、クルマ屋さんの視界と、Googleの視界は違うようだ。

 しかし、Googleといってもビジネス抜きでは成り立たないから、何らかの形で自動車市場でも金もうけをしなければ、なかなか続かないだろう。その点、派手にGoogleカーを打ち上げてしまったのは、はたから見るとちょっと「しまった感」があるようにも感じるのだがどうだろうか。Googleという「異業種の巨人」が運転というまさに自動車の価値の中心にまでそのソフトウェアの力を広げてきたことで、自動車メーカー各社に「自分らのテリトリーである自動車の付加価値の根幹を、Googleが奪い取ろうとしているのではないか?」という疑心暗鬼を呼び起こしてしまったように感じられることだ。

 Googleカーによって、自動車メーカー各社がGoogleに対する「警戒態勢」を発動させてしまったかのようにも見える。Googleにしたら、各社の防衛体制など吹き飛ばしてしまうような高度なソフトウェア技術を打ち出せれば別だが、迎え撃つ各社もレベルは低くない。市場参入のルート工作が難しそうだし、先も長そうな感じだ。

 一方、Appleはというと、Googleほどにはセンセーショナルではない。会社のイメージからしたら地道な感じである。カー用品店などに行けば納得いくが、もともとAppleのiPod/iPhoneなどを「音楽ソース」として接続できるカーステレオ(カーナビの一機能というべきか)は多い。端的に言えば、一部の人にとって、クルマがiPodのヘッドフォン代わりになって久しかったわけだ。あるいは、ちょっと画面サイズは小さいけれどもカーナビ代わりに使っているという人もいるだろう。そこから進めて、もう少し便利にしようと考えるのはそれほど大きな一歩ではない。「それなら」と言ったのかどうか、Appleが出してきたのが「CarPlay」というそのものずばりの提案である。

 そもそもカーナビ、カーステレオへのiPod接続機能は普及している。音楽再生、カーナビ、ハンズフリー通話など、今でも多くの人がやっていることである。ただ、後付けのまさに「取って付けた」感じから、もともと接続を前提にしている形に「クルマのUI」を少々改善するまでのことである。既にやられている話だから、iPhoneがクルマとリンクしたからといって、技術的には革命的な一歩とはいえない。しかし、Appleの優れた音声認識やら何やらが今後の「クルマのUI」を変革していく可能性は十分にある。スマートフォン同様、AppleがOSをアップデートしたら、翌朝、クルマのUIががらりと一新していてびっくりした、といった事態もまんざら冗談で済まないかもしれない。

 クルマもまた「情報機器」となってネットにつながっていく。このままでは「ダッシュボード」ルートを掌握しそうなAppleが、「クルマからクラウド」への権益を掌握してしまうことにはなりはしないか。当然、ここでも自動車メーカー、車載装置メーカー側は自分らの権益を奪われやしないかと警戒しているはずである。けれども残念ながら自動車メーカー側は、クルマに据え付ける装置ならともかく、「クラウド」を自分らがやって、うまくビジネスをできるのかという点についてはそれほど自信を持っていないように見える。何せクルマ屋とはだいぶメンタリティからして違う世界である。

 結局、自前というより、誰かのサービスに乗っかる方を選択するしかなくなるかもしれない。それだから、AppleにしたらGoogleのように、クルマの根幹にかかわる部分までは出しゃばらない方がよいだろう。それどころか、クルマ屋の警戒心を解き、市場を手早く制覇するためには、クルマの情報化という点から上がってくるであろう利益を自動車メーカー側と「山分け」できる構図を描ければ、結果はおのずから付いてくるように思える。

 当然ながら、Appleと自動車メーカーの間に挟まれるカーナビ、カーステレオ系の機器メーカーは大変だろう。しかし、すでに彼らの付加価値は、かなりスマートフォンなどに吸い取られつつある。独自の道を行く選択肢はあまり残っていないようにも見える。

 そんなAppleの動きを見れば、Googleにしたらせっかく、Androidを持っているのだから、Apple同様のアプローチを取れそうなものである。けれども、Googleには警戒心が働くのであろう。Appleのようには素直に入れてもらえそうにない感じだ。全然ダメということもないだろうが、一歩遅れか。自動車メーカーもApple一社では値段が叩けないから、当て馬的な扱いになりそうだ。

 そうはいっても、自動車メーカー側にも足元が崩れかねない要素がある。よくいわれるように、EV(電気自動車)の時代になってしまえば、モーターと電池を買ってきたら「誰でも」クルマが作れるというあれだ。巨大な電気系EMSメーカーがスマートフォンと一緒にクルマも作り出す、というような話だ。そんなに簡単な話でもないと思う。けれど、そうなったときには「クルマのOS」はGoogleが作っているという可能性もあり得ない話でもない。それどころか世界中の交通網のインフラが、Googleのサーバーの中にあるといった時代になるかも?


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサーを中心とした開発を行っている。


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