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» 2014年03月26日 18時00分 UPDATE

情シスの本棚(5):ビジネス、起業でよくある失敗パターン

リーンスタートアップというと「スピード」や「効率」といった点が目を引く。だがその本質は、全てのビジネスにおいて重要な鍵となるものだ。

[内野宏信,@IT]

「顧客にとって価値ある行動」を、本当に考えていますか?

ALT ●著者:ブラント・クーパー/パトリック・ヴラスコヴィッツ●翔泳社●ISBN-10:4798133590●ISBN-13:978-4798133591●発売日:2014/3/11

 「アントレプレナーがリーンスタートアップを倦厭(けんえん)する本当の理由は、面倒だからだ。顧客と話をしたくない。面倒だから。顧客をデザインに参加させたくない。面倒だから。行動につながる評価基準なんて分析したくない。ビジネスインテリジェンスチームを雇う方がラクだから。実験したくない。エンジニアリングの人材や予算が持っていかれるから」。しかし「真のビジョナリー(先見性のある人)とは、大きな変革や破壊を厭わず、変化のためならアイデアを捨てることも辞さない者だ。間違いも犯すし、失敗もするが、絶えず夢を追求しつづける」 ――。

 本書「リーン・アントレプレナー」は、「次世代のビッグビジネスを追求するアントレプレナー」「企業内起業家」「個人事業主」などに向けて、リーンスタートアップの方法論を説いた作品だ。2008年、エリック・リース氏が提唱し、米国で反響を呼んだこの概念は日本国内でも注目を集めている。だが、「小さくサービス提供を始めて、市場からのフィードバックを受けて改善を施すサイクルを高速で回し、効率的にビジネスを発展させていく」といった取り組みを実践する上では、具体的に何を考え、何に留意すれば良いのか? 本書はそうした疑問に応え、実践事例を豊富に交えつつ、その鉄則や教訓を説いている。

 とはいっても、冒頭の一文のように、リーンスタートアップとはある意味、地を這うような、非常に手間の掛かる泥臭い取り組みだ。確かに成功者を見れば「いとも簡単に勢いに乗ったかのように見える」。だが「試行錯誤を繰り返し、教訓を学んで」いくことでしか成功はつかめないわけで、そうした道のりにマニュアルなどは存在し得ない。従って、本書でも「あえて細部はぼやかし」、教訓やインスピレーションを得られる構成としており、「成功則は自分で作り出していく」ことを推奨している。

 そうした本質論にフォーカスしている故だろう。起業家に限らず多くの企業人が思い当たるであろう、普遍的な気付きが豊富に含まれていることが本書の特徴だ。

 例えば「リーンの目的は、顧客に届ける価値を失うことなく、付加価値のないプロセスをなるべく少なくし、付加価値のある活動の効率を最大化すること」。従って「改善活動のせいで」「本質的な価値を破壊してしまったら、時間、お金、原材料の非効率な使い方をなくしても、かえって無駄は大きくなる」―― こうしたことが、今まさに周囲で起こっているという人も多いのではないだろうか。本書では、「効率化そのものが目的になっている組織もあるが、そういう組織は『リーン』(無駄が無い)ではない」と断じている。

 「データは諸刃の剣のようなもの」という下りも興味深い。例えば企業人や起業家は、自身に都合の良いデータを好んで用いる傾向が強い。しかし「誰もあなたのレストランに来店していないなら、レストランのFacebookページにどれだけ『いいね!』が集まっていても、まるで意味がない」し、「誰もあなたの製品を買っていないなら、あなたのWebページの閲覧数はほとんど参考にならない」――。本書では、エリック・リース氏が「虚栄の評価基準」と呼ぶこうしたデータを経営に用いることの危険性を指摘。顧客にとって価値ある行動の指針になるデータではなく、「無意味な測定基準」を使っていると、いずれ「自分自身の足を切り落とすはめになる」と警告している。

 企業やアントレプレナーは「(製品の)牽引力不足を口コミで補おうとする」という問題も実にありがちだ。本書では「好意的な口コミを広めるのはマーケティングの仕事ではなく、製品の仕事。製品自体がお粗末なら、口コミもそれなりになるだろう」と指摘。「マーケティングはすでに存在する口コミを利用する手段なのだ」として、多くの企業が陥っている“マーケティングと製品開発の本末転倒”の愚かさを訴えている。

 こうした数々の指摘を眺めていると、ビジネスの基本に忠実であることが、結局は“スピーディかつ効率的”であることをあらためて思い知らされる。中でも印象的なのは、冒頭で紹介した「自分で成功則を作り出していく」ということが全ての教訓を一貫している点だろう。事例として収められている、Webのネイティブ動画広告プラットフォーム提供企業、米Sharethrough設立者の一人、ロブ・ファン氏の言葉も示唆的だ。同氏はリーンスタートアップの一手段となるアジャイル開発について次のように語っている。

 「色々なアジャイルがあっていい、というのがアジャイルの本質だと思います。〜中略〜アジャイルのどの側面を取り入れるべきか? アジャイルのどの部分が本当に役立つのか? リーンスタートアップに関する議論から抜け落ちているのは、そういう会話です」

参考リンク:書籍でたどる「リーン」の本質(@IT)

 自社の「顧客にとっての価値」を見極め、価値ある改善を施し、ビジネスを発展させていく道のり、方法は当事者たちにしか開拓できない。ビジネスやシステムにスピード、効率が強く求められている今、リーンスタートアップという言葉もスピード、効率といった文脈の中で注目されがちだ。だが、持続的かつ継続的に価値を提供し続ける上で、本当に重要なものとは何なのか? 多忙な毎日の中で忘れられがちなビジネスの本質を、あらためて本書に探ってみてはいかがだろうか。

引用箇所の仮名遣いは、紹介書籍の仮名遣いを踏襲しています。

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