どうなる、SIと業務系アプリ? 最新&未来テクノロジーからの考察 ―第5回 業開中心会議連載:業開中心会議議事録(2/2 ページ)

» 2014年03月26日 17時51分 公開
[かわさきしんじ,]
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パネルディスカッション『業務系アプリにおける先進技術活用の可能性を考える』

 本会議の最後には「業務系アプリにおける先進技術活用の可能性を考える」をテーマにパネルディスカッションが行われた。登壇したパネリスト/モデレーターは以下の通り。


 パネルディスカッションでは「業務アプリの現状とこれから」「既存業務アプリにおけるチャレンジ」「新しい業務アプリ形態へのチャレンジ」などについて議論が行われた。議論の詳細については以下の動画を参考にしてほしい。

パネルディスカッションのUstream中継のアーカイブ(パネルディスカッションは00:13:31(13分31秒)より)


 ディスカッションの中で印象に残った部分を話題ごとにまとめておこう(以下、敬称略)。

技術選択とチャレンジ

 パネルディスカッションでは、業務アプリの将来に絡めて「技術選択」「チャレンジ」、そこから派生する「リスク」「学習」などの点について興味深い議論が行われた。

――(八巻) 「ASP.NET WebフォームからASP.NET MVC(以下、単にMVC)へ移行する記事をSansan社の開発者に書いてもらったけれど、思ったほどのページビュー(PV)が得られていない」と伺いました。

一色 MVCの比率が高まっていることもあり、Sansan社の開発者にはMVCへの移行を最終目的として、WebフォームとMVCを共存させる方法を書いていただきました。良記事だと思いますが、期待したほどPVが上がらずにガッカリしたところはあります。その一方で、Webフォームに関する問い合わせが来たりして、従来の技術もまだまだ新たに使われているのかと驚いています。

藤倉 先進技術を使うべきかどうか、一概にどちらとは言えないと思っています。技術は手段でしかないので。移行に価値があるならやるべきですし、ないならやるべきではない。ただ、WebフォームとMVCには「WebフォームではできないけれどMVCならできる」部分があったので移行の判断はしやすかったですね。OracleからPostgreSQLへの移行では判断は簡単ではありませんでした。ただ、1年ぐらい先を予想したときに、自分たちのスキルセットではOracleをガンガンにスケールさせるのは不可能だろうと思ったのです。でも、PostgreSQLならできる可能性があると思ったので移行する判断をしました。

藤倉 リスクを考えたとき、僕らのようなサービサーと受託系の案件の違いはあまり関係ありません。僕らの場合、リスクを取った結果、プロジェクトや機能のリリースが遅れるとか、何かを実現できないとなったら、会社が終わってしまいます。だから、取っているリスクは、僕らの方が大きいと言えます。でも、「やる」と決めたらやる。リスクにも大小はありますが、そういう覚悟を根底に持っていないといけないのかなと。

一色 難しいなと思うのは、若い人は昔の技術をわざわざ勉強しないところです。最新技術に飛びつくので、若い人とベテランとの間で使う技術に差ができています。そこが業務アプリInsiderやInsider .NETを運営する上で難しいところです。若い人が昔の技術を一から学ぶのは(ベテランが10年かけて学んだことを短期間にしなければならず)大変だと思うので、ベテランが頑張って新技術を学んでもよいと思います。

藤倉 新しいものを学ぶのは大変ですし、若い人はそれだけでいっぱいいっぱいかもしれません。でも、全ての技術は歴史の上に成り立っています。古いものを無視して勉強しても、それは上っ面に触れているだけで、本質は分からない。だから、若い人も先進的なものや面白いものからさかのぼっていき、なぜその技術が必要とされたのかまでたどり着ければ、新しい技術に対する理解もより深まるでしょう。これはぜひやった方がよいと思います。

新たな業務領域

 パネルディスカッションの中では、東北スマートアグリカルチャー研究会(T-SAL)の「菊池 務」氏から「新たな業務領域」の一例として同会の活動内容の紹介があった。以下に概要をまとめるが、詳細は業務アプリInsiderで公開されている「業務アプリはもうこれ以上、進化できないのか? ―― スマートアグリカルチャーに学ぼう」や、上記のUstream動画の00:43:30(43分30秒)からを参照いただきたい。

 以前から、農業には年齢をはじめとする問題があった。東日本大震災が起きたことで、この状況に「職住分離」「飛び地」「未経験耕作地」といった問題が追い打ちを掛けている。これらの問題を解決すべく、T-SALは津波塩害地区、原発被害地区に向けて簡易観測機能を提供する、あるいは先に述べた職住分離の環境にある農家向けに遠隔カメラ機能などを提供するなどの支援活動を行っている。また、スマートデバイスやPCに不慣れな人のために、Androidで駆動するセットトップボックスを作成し、これをテレビにつなぐことで導入を容易にする努力も行われている(便利なことが分かると、そこからスマートデバイスへの移行も簡単になるようだ)。

 支援活動では、安価になったセンサーやデバイス、クラウドなど、多くの「既存技術」が組み合わせて使われている。そこで必要なのは、センサーの動作、アナログ信号をデジタルで読み取り処理する方法を理解すること。これを理解すれば「組み込み屋やセンサーデバイス屋とスムーズに話ができる」ようになる。Webを検索すれば、その方法を書いたたくさんの記事がヒットする。センサーやデバイスに限らず、ソフトウェア技術についても、情報を得るためのコストが下がっていることが、東北でのこうした活動を支える一因といえるだろう。とはいえ、身構えるのではなく、Raspberry Piなどに触れながら、楽しんで知識を身に付けてほしいというのが菊池氏の主張だ。

新たな業務領域へのチャレンジ

 「新たな業務領域へのチャレンジ」に関しては以下の藤倉氏の言葉が印象的だった。

藤倉 チャレンジにもいろいろなレイヤーがあるので、それぞれのレイヤーでチャレンジしてほしいなと。自分の会社であれば、「名刺管理で世界一になる」というチャレンジ。これは高いレイヤーのものなので、これに関する意思決定は僕の主な役割ではないといえます。一方、「開発プロセスの中で、よりアジャイル的にやるためにこんなツールを導入しよう」「その上で開発スピードをさらに上げていこう」というのは、開発責任者としての僕のチャレンジです。現場でも細かなレベルでチャレンジがあります。皆さんの場合も、いろいろなチャレンジがあるのではと思います。

 「どこからチャレンジを始めればよいか」に関しては次のような発言があった。

中村 技術に興味を持つことではないでしょうか。興味を持てば、今どんなことが起こっているかが見えてきます。そこで触ってみる。それでよいと思います。そこから、どんどん手を広げていけます。

一色 スマホアプリの開発を始めることだと思います。スマホアプリを開発することで、さまざまな可能性が見えてくると思います。菊池さんの話ですごいのは、アイデアで成り立っているところ。スマートフォンを活用すれば、アイデア次第で個人でもいろいろできます。今はそこが一番面白いので、(何から始めればよいか迷っている方は)スマホアプリをやるのがよいと思います。

―― センサー類がスマートフォンやタブレットに内蔵されて誰でも使えるようになると、いろいろなことがスマートフォンだけでできるようになりますよね。

中村 そういう意味では、今のWindowsタブレットでもよいと思います。そうすると、今の皆さんの普段やっていることの延長線上でできますし。

―― センサーやデバイスが簡単に入手できるようになってはいますが、取り組んでいる人は少ないような気がします。大変そうなイメージがありますが?

中村 実はそれほど大変ではありません。結局、デバイスからデータを取ってきて、それをどう処理するかという話です。取ってきたデータを既存の技術に持ってくる。藤倉さんの話にもありましたが、今まである技術の上に、センサーから取得したデータを組み合わせることで新しいことが実現できるということです。

―― 菊池さんのところでは、Web系のエンジニアも取り組んでいるとのことですが、どんな言語を使っているのでしょうか。C++とか?

菊池 それもありますし、JavaやWindows系を扱っている人たちもいます。ハンダ付けのプロになる必要はないですし、組み込みのエンジニアになる必要もありません。デバイス側からどんなデータが渡されるかを理解できればいい。そうすると、アプリを作る幅が広がってきます。電子ブロックの延長線的な趣味として、上(クラウド)から下(センサー)までを含むおもちゃを作ってみるのが、説明するよりも分かりやすいと思います。

―― 農業はご自身のやってきたことと全く異なるフィールドですよね。農業とITを組み合わせてビジネスにつなげるのに、菊池さんには何らかの基盤があったのでしょうか。

菊池 震災で農家さんの姿勢が変わり、相談を受けるようになったことが一番大きいですね。「農地が津波を被ったのだが、自治体は塩分濃度を1カ月に一度しか見てくれない。いつから植えられるようになるだろう?」 そんな相談を受けるようになりました。それを早期に解決しなければならない。その結果として、「スマートフォンを使えば可能」といった方法論が出来上がってきました。そうした試みが広く知られるようになると、他業界においても「自分たちでもできないかな? 」という話になります。

まとめ

―― 最後に、会場の皆さんへのメッセージをお願いします。

藤倉 チャレンジせずに生きていけるのであれば、それでもよいかもしれません。しかし、そういう人には面白い仕事は回ってこないでしょう。チャレンジをして、ピンチを乗り切って結果を出した人には、その後の話が必ずついてきます。それを繰り返していくことで、面白い仕事に出会えます。規模の大小はあるでしょうし、取れるリスクも状況で変わるでしょうが、常に自分の中で何かのチャレンジをして達成する。これを繰り返せれば楽しいと思いますし、日本のエンジニアもそうなればいいなと思います。

中村 楽しんでソフトウェア開発をするところが大事かなと。SIには3K(=「きつい」「帰れない」「給料が安い」)、5K(=左記に加え「暗い」「結婚できない」)などのイメージがありますが、中の人が興味を持って楽しむことで、業界が変わると考えています。ソフトウェア業界は働き方も自由です。会社に集まってチームで仕事をすることも大事ですが、遠隔でも仕事ができます。楽しいこともできるし、自由な働き方もできる業界になればいいなと。その一つとして、楽しんで開発をしましょう。

菊池 ぜひ何かを楽しみで作っていただけたらと思います。今日はArduinoの話も出ましたが、これはソフトウェア開発者のためのものになっています。コンサートでも照明がピカピカ光っていますが、Arduinoでこれをやっていることがよくあります。しかも、非ソフトウェアエンジニアがプログラミングしていることもあります。皆さんが思っているより敷居はずっと低くなっているのです。高度な話題については、窓口機能を持った大学が増えているので、Webで検索をして窓口に聞いてみるなど、難しい方向にもステップがあるので、活用していただけたらと思います。

一色 「まず始めるならスマホアプリ開発」という話をしましたが、その場合、C#開発者には「Xamarin」をお勧めします。それからWindows Azure Webサイト。今のWindows Azure Webサイトはすごく便利なので、ぜひ使ってみてほしいと思います。もう1つがセンサーデバイス(Leap MotionKinectなど)。やってみると面白いですよ。

―― 最初の話(本稿では割愛したが「2015年問題」の話)に戻るとSIでも変化は起きていて、今後も変化していく。SIが無くなるわけではありませんが、やり方や形態は変わっていくので、そこは引き続きやっていくと。それ以外にも面白いことは起きているので、今回のような機会があり、安価なデバイスが出てきていることもあるので、趣味的にでも始めてみるのが楽しいのではないでしょうか。ありがとうございました。

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