“伝統的な営業スタイル”は、いつでもどこでも必要なのかプログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(8)(2/2 ページ)

» 2014年04月11日 18時00分 公開
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顧客が求めていることは何か

 日本の顧客は、今まで営業マンを「販売前の製品情報の主要情報源」として、また販売後の単一窓口として頼りにしてきた。

 しかし今や、業態によって顧客の要望は変化し始めている。例えばオンラインショッピングだ。

 Webサイトを見れば、営業マンよりもずっと正確で完全な製品や価格の情報を、しかも顧客が望むタイミングで得ることができる。営業マンと話をする時間を顧客がわざわざ作る必要は無い。

 問い合わせや苦情の一括窓口を求める顧客の望みは切実なものだが、実際のところその望みとは、「営業マンと話がしたい」ということではない。「顧客が販売会社のサポート力や顧客満足の実現力を不安視している」ことに端を発している場合が多いのだ。

 これからは製品・サービスに対する顧客ニーズを見極め、その質を正しく高める方法にこそ、きちんと目を向ける必要がある。

 もちろん「営業マンを排除するべきだ」と言っているわけではない。今も日本の顧客の多くはWebインターフェースよりも対面式のやりとりを好み、製品やサービスに上積みされた人件費という形の割り増し料金を払うことを厭わない。だから賢明な会社は、顧客から要望があった場合に限り、喜んで顧客の事務所に立ち寄ったり、顧客に立ち寄ってもらったりする。しかしだからといって、「顧客は常に人間味のある接客を求め、それに喜んで対価を払う」という考え方を断固として取り続けることは間違いだ。そうした考え方を持つ人に対して、私はこの10年間で顧客行動がどんなに変化したかに、きちんと目を向けるよう言いたい。

オンラインショッピングが普及したのは「安い」からではない

 15年前、「日本人の大半は、オンラインショッピングを利用しないだろう」と専門家の多くが断言した。その当時はそう信じるに足るもっともな理由がたくさんあった。

 当時は便利な支払い方法がほとんど無かった。さらに、日本人は購入する物に対するこだわりがとても強かったし、(それは今でもそうだが)簡単な写真だけでは信用しないと思われた。よく耳にした反論は、「日本人は、オンラインで数円を節約するだけのために、パーソナライズされたサービスや気の利いたアドバイスを手放そうとは思わないだろう」というものだった。

 しかし、物事はそうした予測通りに運ばず、今日では楽天やアマゾンが盛況で、百貨店は厳しい状況が続いている。最も重要なのは、「節約が日本のeコマースを動かしているのではない」ということだ。顧客がオンラインショッピングの主な理由として挙げたのは、「コスト」より「便利さ」だった。日本の消費者はひとたび選択肢を与えたら、“伝統的な営業スタイル”というサービスを喜んで諦めたのだ。

 私が遭遇したクラウドサービスやオンラインショッピングの例のように、「対面での伝統的な販売スタイルを経由しなくてもよい」と顧客が考えるシーンが、今後は増えてくるのではないだろうか。

変化は訪れる

 産業革命の時代、何世代にもわたって専門的訓練を経て熟練した職人たちは、経済的にも文化的にも工場労働にその座を奪われた。そしてその数世代後には、工場の熟練機械工たちが工場自動化にその座を奪われた。人々はそのたびに「社会がその変化を受け入れるはずがない」と主張したが、変化は実際に訪れた。

 熟練した職人や機械工たちに今も居場所があるように、優れた営業マンの居場所も必ずあるだろう。訓練された営業マンの知見が生きる業態もあるし、それが必要無い業態もある。つまり、何でもかんでも同じ販売スタイルを採るのは間違いだ、ということだ。

 しかし、これだけは間違いない。顧客の希望を見誤って、いついかなる時もむやみに“伝統的な営業スタイル”を貫いていたら、その企業はいずれ淘汰されることだろう。

筆者プロフィール

Tim Romero(ティム・ロメロ)

Tim Romero(ティム・ロメロ)

プログラマーでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマー社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダーであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。

個人ブログ"Starting Things Up in Japan"


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