要件やシステム化の範囲はどうやって決めるのか?美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿(12)(1/2 ページ)

システム化の範囲を定義するときに、業務の目的を実現するための「方針」に着目すると、合目的性の高いシステム作りができます。

» 2014年04月18日 18時00分 公開
[東京高等裁判所 IT専門委員 細川義洋,@IT]

※この連載は「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」(細川義洋著)のCHAPTER1を、著者と出版社の許可の下、一部加筆・修正して転載するものです。

 大手ITベンダー社員の一郎が担当する「要件定義が存在しないシステム開発プロジェクト」は、IT訴訟に詳しい弁護士 塔子のアドバイスのおかげで、何とか軌道に乗り始めました。今日は何の用事でしょうか? 大きな紙袋を携えて塔子のオフィスにやってきました。

本連載「美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿

連載目次 ≫登場人物紹介

ICHIRO

と、と、塔子。


TOKO

ねえ。人の名前を呼ぶときに、いちいちドモるのやめてくれない? チカラが抜けるのよね。


ICHIRO

こ、この間はゴメンね、夜遅くまで付き合ってもらっちゃって……。


TOKO

マッタクよ! 何でアタシがアンタのためにタダ働きしなくちゃならないのよ!


ICHIRO

ごめん、ごめん、ごめん。そ、それでね。今日は、お礼を持ってきたんだ。


TOKO

えっ、お礼? あらそうなのー? お礼が欲しくて手伝ったわけではないんだけど……。な、何かしら。あんまり高いものだと、ほら、いろいろと……。


ICHIRO

えっと(ガサゴソ)……はい、これ。ウチの会社のノベルティグッズ。「タマモン」のイラスト入りのメモ帳とボールペン、付せんにペンケース。人気があるから、会社からもらうの苦労したんだよ。


TOKO

タ、タマモン……!?


ICHIRO

た、足りなかった? バスタオルとかもあるから、今度持ってくるよ。


TOKO

あ、ありがとう。でも、もう十分よ。はあ、タマモンね……。で、プロジェクトの方は、その後どうなの?


ICHIRO

おかげさまで、何とか軌道に乗ってきたよ。要件の調整も大体済んだし。


TOKO

そう、良かったわね。


ICHIRO

でも、この間の旅行会社の紛争みたいに、「当然持っているべき業務知識」で判断するなんて、裁判所って結構、現実を見るんだね。僕は契約とか見積もりとか、書類だけで判断するのかと思っていたよ。


TOKO

もちろん契約書や見積書は大切だけど、作業の実態をちゃんと表すのは、要件定義書に設計書、計画書や議事録でしょ。裁判所はそういうものを基に、ちゃーんと判断するのよ。


ICHIRO

確かに契約書だけでは、ITの仕事の実態は見えないものね。


TOKO

特に重要なのは要件定義書ね。「約束した仕事」を明確に表している要件定義書は、重要な判断材料になるわ。


ICHIRO

要件って難しいよね。今回の話みたいに、業務プロセスを聞いてシステム化範囲を決めても、人の振る舞いによって違う要件が出てくるかもしれないとなると、どこまで行っても本当に要件が足りているのか不安だよ。


TOKO

そうね。昔みたいにコンピューターの仕事がある程度「お決まり」だった時代なら、要件として決めるべきことも定型化されていたけれど、最近は使う人も多様だし、コンピューターの姿形や機能もさまざまだしね。


ICHIRO

業務の目的をかなえるために、正しく開発範囲を定義して、モレなく要件定義をするのって、どうやればいいんだろう。


TOKO

多分、正解なんてないだろうけど。そうだ、思い出した。ちょっとした工夫で要件の十分性を検討しやすくして、正しく開発範囲を定義できた要件定義書を見たことがあるわ。


ICHIRO

そ、それ、興味あるなあ。どんな物だったの?


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