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» 2014年04月22日 18時00分 UPDATE

情シスの本棚(6):グーグルに見る、リーダーの本当の役割

リーダーシップとは一方的に管理することではない。スタッフの共感を獲得し、創造力を引き出すことだ。

[内野宏信,@IT]
本連載「情シスの本棚」のインデックス

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リーダーとメンバーは、常に真剣勝負

ALT ●著者:上阪徹●日本経済新聞出版社●ISBN-10:4532319293●ISBN-13:978-4532319298●発売日:2014/2/26

 「例えば、1、2パーセント売り上げを上げることばかりを毎日考えていたら、やっぱり1、2パーセントしか売り上げは上がらないだろう。そうではなくて、人類を月に送り込むような技術を開発しよう、今の10倍の価値を目指そう、ということを会社がビジョンにしていれば、社内はもっと創造的にならざるを得なくなる。そして、それを会社全体で期待しているのだ。しかも、求められる発想のベースは極めてシンプルである。『どんなに大きなプロジェクトも、基本的にユーザーに価値をどう作っていくか、ということに変わりはありません。一見、奇抜に見えても、最終的にはテクノロジーを使ってユーザーに何を提供できるか、ということが何より重視されているんです』(徳生氏)」――。

 本書、「僕がグーグルで成長できた理由」は、「グーグルで最も活躍している日本人」といわれるグーグルジャパン 製品開発本部長 徳生健太郎氏の半生をまとめた作品である。東京で生まれた同氏は、筑波大学付属高校に進学後、3年生で中退し、ボストンの寮生高校に編入。コーネル大学、スタンフォード大学大学院を経て、シリコンバレーのベンチャー企業に就職する。その後、別のベンチャーへの転職を経て、2003年、グーグルに入社。検索キーワード連動型広告サービス「グーグルアドワーズ」や「グーグルマップ」の拡充など、世に広く浸透しているさまざまなサービス開発を手掛け、現在は同社最高幹部の一人となっている。

 冒頭の言葉は、「新宿の高層ビル街から、太陽がどのように見えるか」シミュレーションできたり、「海中や海底の様子も」見られたりする「グーグルアース」の開発談話の一部だ。「常識を疑問視し、まったく違う考え方で取り組む。そういうことこそ、グーグルがやるべきことだというメッセージを(CEOのラリー・ペイジ氏が)常に社内に発信」しており、理念として全社に浸透しているのだという。

 本書の読みどころも、グーグルの先進性ではなく、徳生氏によって語られるグーグルの企業文化にある。確かに、「頭のいいヤツら」ばかりのスタンフォード大学大学院を卒業後、スタートアップ企業で「トッププログラマー、トップエンジニアとして」活躍した徳生氏をもってしても、「スタンフォードの時は1年くらいでお尻の火は消えたんですが、ここでは今なお消えていないんです(笑)」と言わしめるほど、優秀な人材が集まっていることは事実だ。だが、さまざまなエピソードを読んでいくと、各人材の能力を引き出すマネジメントの在り方こそが、同社の真の推進力となっていることがうかがえる。

 例えば、エンジニアだけではなくプロダクトマネージャーもビジネスデベロップメントも「最適化が驚くほど早い」。「何が最も効果的なのかを、瞬時に見極め」「素早く判断し、決断」して分かりやすく発信する。「例えばエグゼクティブが考えていることを、2ページのEメールではなく3行のEメールで」伝える。だが重要なのはその先だ。リーダー層に優れた「論理性や事務処理能力」が求められるのはもちろんだが、徳生氏はそうした点にこそ「陥りがちな落とし穴がある」と説く。

 「仕事が分かる人ほど、人に委ねるという発想が浮かびにくく」なり、「知らないうちにマイクロマネジメントを始めて」しまう。だから「時間がかかる。メールも長くなる。だが、指示が長すぎると、メンバーはクリエイティビティーを発揮できない。やる気も高まらない。出てきたものも想像以上のものにはならない」――すなわち、「リーダーの『押し』というよりは『引き』で、チームや関係者をモチベート」し、能力を最大限に引き出すことの重要性を強く訴えているのである。

 とはいえ、リーダーにとっては、「判断を間違わないだけの情報が、いつもあるわけではない」。逆に、判断に十分な情報を「求めようとしたら、いつまで経っても何も判断できない」。そこで重要となるのが、「少ない情報でも決断を下し、周囲に自信を持って説得していくことができるか」なのだという。徳生氏はそれを象徴する言葉として、入社当時にキャリアコーチに言われたという「正しいかどうかは分からなくても、がむしゃらに努力して正しくすることはできる」という言葉を紹介する。

 つまり、判断の裏付けとなるデータを集めたり、正しさを裏打ちする実績を上げたりすることに「がむしゃらに努力する」。「だから、ものすごい自信を持って発信するし、完全な説明責任を果たせる」。「頑固になるだけではなくて、状況が変化して必要とあれば、柔軟に対応することができる。このリーダーが言っていることだから間違いなく正しいんだ、と信じられるし、頑張れる」――この「努力」とは、一つのゴールを見据えて、そこに皆を巻き込んで突き進む力、責任をまっとうする力と言い換えてもいいのかもしれない。

 さて、いかがだろう。コスト的にも余裕が無い中で、結果を出すサイクルが短縮化している今、開発プロジェクトはどうしても人を数字で管理してしまいがちだ。それ故に、日々の業務も自社のゴールではない、その時々のゴールに視線が閉じてしまい、一方的に管理するようなマネジメントに陥りがちな例が多い。だが、真に自社を差別化や発展に導くものとは、経営トップの正しいビジョンと、それを正しく理解した各マネジメント層のリーダーシップにある。そして特に重要なのは、「リーダーシップとは、共感を獲得するとともに、自身の判断に責任を持つ、まっとうするということに、真の意義がある」という点だろう。一方的にビジョンを示したり指示を出したりするようなことでは、決してないのだ。

 徳生氏は「上がこうやれ、ではなくて、そこにいるチームのメンバーが、自分の経験や考え方を持って、リーダー以上の考え方を出してくれるし、そういう環境を作らなければいけないのが、グーグルなんです」と述懐している。こうしたことが重要なのは、グーグルに限ったことではないだろう。無論、言葉にしてしまえば決して目新しいメッセージではないが、徳生氏の半生を楽しみながら追っていく中で、リーダーシップというものについて、あらためて何らかの発見があるはずだ。管理層の方は、そのマネジメントの在り方を参考にしてみてはいかがだろう。

引用箇所の仮名遣いは、紹介書籍の仮名遣いを踏襲しています。

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