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» 2014年04月25日 10時31分 UPDATE

頭脳放談:第167回 ウェアラブルデバイスとビッグデータのすてきな関係?

ウェアラブルなデバイスが流行中。もう1つのはやりの「ビッグデータ」とは無関係そうだが実は……。

[Massa POP Izumida,著]
頭脳放談
System Insider

 このごろ、ウェアラブルなデバイスがもてはやされているようだ。外の世界に対する「ウェアラブル」な取り組みもあるのだが、今回取り上げたいと思っているのは、何らかの身体に関わる計測を行う方向、言ってみれば「内向き」な方のウェアラブルである。先日、そのためのSDKを発表したGoogleを筆頭に、この手のデバイスに関する発表や展示など枚挙に暇がない。この手のデバイスの「取りあえず」の用途としては、健康管理を狙ったヘルスケア方面とアスリートの成績向上を狙ったスポーツ方面に大きく二分されるが、技術的にはオーバーラップする部分も多い。例えばフィットネスなどは、スポーツとヘルスケアの境界領域に違いない。

 ちょっと見には、ITの主流派とか、いわゆる「ビッグデータ」とかからは相当な距離があるようにも見えるのだが、「どっこい」でかくなりそうだ、という見立てで皆さん資金を突っ込んでいることだと思う。最初に断っておくと、懐疑的な人も居ないではないが、筆者は肯定的な意見だ。しかし、手放しに肯定的でもなく、その活用にはインフラとか法律とか、いろいろな整備が必要不可欠だが、まずは技術的にもブレークスルーが必要だという立場である。まぁそれも、センサーから垂れ流される膨大な情報が集積されてくると、「自然に」解決されてしまう可能性もあるのだが……。

 身体に関する計測というと小学校(幼稚園)以来の定番である身長、体重などに始まるが、ウェアラブルなデバイスで測りそうな定番といえば、体温、脈拍、血圧、血中酸素濃度、血糖値、あるいは体の各部の速度、加速度、向き、あるいは脳波、脈波、筋電といったものである。今のところ「血を見ない」と正確な測定がやりづらい血糖値や、微弱なために通常環境で測りにくい脳波などを除けば、どれもそれほど工学的に測定系を設計するのが困難なものにも見えない(「血を見ない」血糖値の測定はお金になるのが確実な分野なので、Google含め、やっているところが多い。そのうち一般化するかもしれない)。その上、今のところデータ的には全然「ビッグ」ではない。

 「血圧のグラフを付けなさい」とお医者に言われてグラフ用紙の付いた小冊子を渡されて毎日血圧測っている患者のいかに多いことか(筆者もグラフは書いていないがその仲間だ)。せいぜい1日に1回、3桁か2桁の数字を書いておしまいである。毎食血糖値を測ったとしても1日に3回である。まぁ確かに、日本人1億人のデータを集めればビッグデータではあるが、そんなビッグデータで平均値やら標準偏差やらを出しても、喜ぶのは「国民の健康」を考えている皆さんでしかなく市場規模はたかが知れている。個々人についての興味(と商売の源泉)はあくまで自分にユニークな自分のデータから何が読み取れるかだが、オヤジが手でグラフを書いてできることをITで実現しても市場は知れている。

 ところがである。いったん身体に関する計測を真剣に考え始めると、実はそこには従来見過ごしていたいろいろな問題点があることに気付くのだ。どうもそこを乗り越えたところに別な世界があるのではないかということも、ちらついてくるのだ。

 例えば、1年に1回の健康診断の時に測った値にどのくらいの情報量があるのか考えてみよう。工学的に考えれば、サンプリング定理により2年以上の周期変動は正確に再現できるはずだが、月単位のような変動があっても把握はできないに決まっている。一カ月ごと医者に行って検査を受けていても、日単位、時間単位などの変動は無理である。そういう周期変動を見ているのではない、あくまで「絶対値」が問題であると言うかもしれない。

 しかし、身長などを除けば、身体に関する各種の指標は、常に不規則に変動している。絶えず変動しているものの一点を測定して(一応、条件は一定にするべく努力はするのだがそうはいかないことが多い。ヤバいなぁ、検査なのに昨晩も深酒しちまったぜ……)分かることはかなりぼやけていると言わざるを得ない。だから何回か測って平均を取ってと、「統計的」処理を主張するかもしれない。平均を取ったり、標準偏差を計算したりするのは、いつものことなので誰も疑問を抱かないが、それは各測定が1回1回独立で測定対象がころころと変わらない前提である。どうも人間というのは、一種の状態機械であって、状態が変わるとどんどん出力が変わっていくのだ。もちろん、今の状態は前の状態に依存する。通常の物理測定と同様な統計処理がそのまま適用できるというような単純なものでもない。一分間というような期間で定義される脈拍数などというものは、計算過程で「揺らぎ」の成分はバッサリ落ちてしまうから、かなり情報量を落とした「シンボル」である。「こちらの人の脈拍60」と「あちらの人の脈拍60」の状態は異なるに違いないし、「こちらの人の今晩の脈拍60」は「現在の脈拍60」とも多分違うのだ。絶対値での比較というのもかなり怪しい。

 物理的な計測でも、誤差はつきものであるし、測定に影響を及ぼす外乱というものもある。もちろん、身体計測にも誤差や外乱はあるが、それ以上に身体そのものに「変動」が宿っているのだ。それを取り除かなければ、正確な測定ができない、と言いたいのではない。どうもその「身体の自律的に見える変化、変動」こそが、病気の前兆であったり、アスリートのスランプの原因なのか結果であったりするのだ。すなわちその人にとって、至極有益な情報(つまりは付加価値の ある情報)そのものである。

 それを把握するためには24時間365日測定し続けることが必要だ。単に脈拍とか歩行とかを捉えるのであれば、せいぜい4〜5Hzくらいであるから、その倍の10Hzくらいのサンプリングでよいだろう。しかし、波形の変化を捉えるとなるとそれでは済まないだろう。多分数十Hzくらいの速度は必要だ。複数のセンサーを100Hzのサンプリングで24時間365日測定し、得た時系列データを解析(一番簡単に思えるのは、過去の多数の波形と自己相関を取ることだが、相関を調べる範囲によっては膨大な計算量になるのは間違いない)し続けるわけである。これならビッグデータの端くれに入れてもよさそうだ。そしてその中から「もうかる」サービスを考案できればIT業界万歳と。

 ううむ、しかし、なんだかな〜、息が詰まりそうじゃのう。では、エアフローセンサーで呼吸モニターも追加しておきますか?


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。
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