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» 2014年05月27日 11時03分 UPDATE

頭脳放談:第168回 AMDが考えるx86とARMの未来はピン互換?

AMDが2014年から2016年にかけてのロードマップを発表した。その中で、x86とARMとのピン互換を実現し、両方を差し替えて使えるようにするという。AMDが「ambidextrous」と呼ぶこの戦略が持つ意味は?

[Massa POP Izumida,著]
頭脳放談
System Insider

 米国や英国の企業でなくても、企業のタグライン(Intelの「Intel Inside」やソニーの「It's a SONY」といった企業のコンセプトなどを示したキャッチフレーズ)とか新しいコンセプトなどに短い英語のフレーズが使われることが多い。日本の国内消費者向け企業の場合は、日本語のケースもあるが、輸出企業の多い電機電子系などではやっぱり英語が多い。皆さんでもすぐに2、3思い出すことができるだろう。しかし、「かっこよさそうな英語なら何でもよい」というわけにはいかない。短い言葉で、直観的に理解でき、記憶に残る言葉が良いに決まっている。半導体メーカーの中では、Intelの打ち出す言葉は、まぁまぁ洗練されている方ではないだろうか。昨今の「Internet of Things」というやつも、簡単な言葉で記憶に残る。そして何か分かった気にもなる。まぁ、実際にはそう簡単に全貌を理解できる概念でもないと思うのだが……。だいたいの人は、言葉にうまく丸め込まれるものである。

 それに比べると、どうもAMDの打ち出す言葉には難があるように感じる。英語圏の人々にはよく分かる言葉を選んでいるのかもしれないが、英語力に問題のある筆者のようなものにはちょっとピンとこないものが多い。かなり前、AMDとIntelが熾烈な速度競争をやっていた時代には、一時期しきりと「affordable」とか言っていたのを思い出す。日本人で「affordable」が心に響いた人がどのくらいいたのだろうか。「アメリカのどこかのショッピングセンターで聞いたかなぁ〜」といった感じ。日本人的には、「cheap」とか「inexpensive」とか口走ってしまいそうだ。「チープ」では安かろう悪かろうな感じになってしまう。日本人がよく使いそうな言葉にするなら「reasonableなお値段」くらいな感じなんだろうか。AMDの場合、ニュアンスの理解に時間(もしかすると英語の辞書が)が必要なのである。AMDは勉強させてくれているのかもしれない。

 そして今回打ち出してきたのが「ambidextrous」である。英語圏の住人ならば、問題なく理解できる日常語であろうが、英語力がない日本人である筆者は辞書を引いてフーンと考え込んでしまった。「このAMDのプレゼンテーション資料、何が言いたいの?」という感じ(プレゼンテーション資料は、「AMD Unveils Ambidextrous Computing Roadmap」のニュースリリース下部の「Supporting Resources」のリンクからダウンロードできる)。

 実際はプレゼンテーション資料をほんの数ページ読み進めれば、その疑問は氷解する。いや、書いてある説明を読み進めるというより、コンセプトを示す「ポンチ絵」というやつを見れば一目瞭然で言いたいことがよく分かるのだ。ARMと書かれたチップとx86と書かれたチップが同じところに「差さる」絵である。「x86コアとARMコアのプロセッサーのピン配置を同じにして、同じソケットに差さるようにしますよ〜」というのが「ambidextrous」なのであった。「両手利き」ってそういう比喩かい、そうならそうと早く言えよ……。

AMDとx86のピン互換を実現 AMDとx86のピン互換を実現
2015年には、64bit版のx86とARMのピン互換を実現し、同じソケットに差せるようにするという。(AMDのプレゼテーションより)

 すでにAMDが64bit化されたARMの「アーキテクチャライセンス」を取得し、開発進めているという話は数回前に書かせていただいている(「第165回 AMDのARMコアプロセッサーが新しいサーバー市場を創造する?」参照のこと)。今回は、その先のロードマップの説明で、2014年にはx86とはピン互換性のないARMコア製品で始めるけれど、2015年にもx86とピン互換性を持った製品を出していきます、という話なのであった。うまく発音できない難しい言葉は、少なくとも筆者の記憶に残らないがコンセプトは明解である。x86でもARMでも同じことができるようにする、ということだ。

 「同じこと」という意味には、いくつもの側面がある。一番は、ハードウェアに近い階層だ。x86の場合、PCというデファクトスタンダードがあり、周辺回路はそれに沿っている。いろいろと進化し続けてはいるが、過去との互換性もほぼ保たれている。いまだに多くの「レガシー」なハードウェアも回路に残っているくらいだ。

 それに対してARMの場合、ARMはコアを定義し、IP(設計)を売るけれども、実際に製造されて現物として動作しているのは、いろいろな会社が独自に設計したSoC内に埋め込まれたARMである。システムの根幹部分こそARM社が整合性をとって仕切っているとはいえ、その先は各社次第、というよりSoCチップの設計次第である。バラエティ豊かだけれども、何がどう入っているのかはSoCの分厚いデータシート(大抵数千ページはある)を眺めないと分からない。これが、ピン互換ということになるとどうなるか。過激に言えばx86のいわば「レジェンド」な世界をARMが乗っ取る、ということかもしれない。あるいは、各社バラバラ群雄割拠だったARMのハードウェア世界が、別な世界のx86とのまさに「TPP的」な接触によって、統一が進む、ということかもしれない。

 (ハードウェアに近い)低レベルのソフトウェアを作る場合は、x86版でもARM版でも同じもので済みそうだから便利かもしれない。すでにx86でもARMでもどっちだって同じようなソフトウェアは走るし、いいじゃんという感じなのだけれど、ソケットまで互換になって、x86のチップセットをARMの頭で制御できるのであれば、ますますプロセッサーの違いなどどうでもよくなるだろう。

 そんな中、「同じもの」に入れてもらえないその他のプロセッサーは、両方からの圧力で「消えてなくなる」というのが他方でAMDの言いたいことのようだ(そうはっきり文章には書いていないが、「絵」ではPPC(PowerPC)やMIPSといったプロセッサーが消えてなくなっている)。その分、AMDのパイが増えますというのが、アナリストに対するAMDの主張だろう。ARMコアでSoCをやっている主要各社はx86をやっていないし、x86の盟主であるIntelはかつて持っていたARMの権利を売り払ってx86に集中した。今、両方やれるのは「両手利き」のAMDだけ、という「強み」を最大に生かしたアピールである。

AMDが考えるピン互換実現後の市場 AMDが考えるピン互換実現後の市場
「NETWORKING CUSTOMER B」の「TODAY(今日)」にはあるPPCとMIPSが「AMBIDEXTROUS(x86とARMのピン互換)」にはなくなり、x86とARMでカバーされるようになると考えているようだ(AMDのプレゼテーションより)。

 そうそううまく行くか? x86の「差さる」ボードにARMコアを差したがる人がどれだけいるか、というのが筆者からの質問だ。「同じ」性能、「同じ」値段では当然ダメだ。消費電力はぐっと低く、とか利点を打ち出した上で、それこそ「affordable」な価格設定が重要だと思う。そのときユーザーはどちらを選ぶのだろうか。それをまたIntelは黙って見ているのだろうか。疑問は尽きない。


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。


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