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» 2014年06月13日 18時00分 UPDATE

LinuxConに見る「ネットワーク」の変化:OpenDaylightがネットワークにもたらすイノベーション

Linux開発者が集う年次カンファレンス「LinuxCon Japan 2014」だが、そのカバー範囲は徐々に広がっている。オープンソースがもたらす破壊的なイノベーションの力は、OS、カーネルの範囲だけでなく、ネットワークにも及ぼうとしている。

[高橋睦美,@IT]

Linuxで起こった波がネットワークの分野にも

 Linuxをはじめとするオープンソースソフトウェアは、かつては専用ハードウェアの上で動作するものだったサーバーの世界に大きな変化をもたらした。2014年5月20日から22日にかけてThe Linux Foundationの主催で開催された「LinuxCon Japan 2014」では、それと同様のパラダイムシフトが、ネットワークの分野にも及ぶのではないかという予感を得た。

linuxcon_ph01.jpg The Linux FoundationのJim Zemlin氏

 LinuxCon Japan 2014のオープニングセッションでは、The Linux FoundationのJim Zemlin氏が、オープンソースのSoftware Defined Network(SDN)プロジェクト「OpenDaylight」やIoT(Internet of Things)に取り組む「AllSeen Alliance」などの名前を挙げ、同ファウンデーションが取り組むプロジェクトの範囲が広がっていることに触れた。

 ここで起こってきたのは、ソフトウェアを用いた抽象化による、ハードウェアのコモディティ化の進展だ。そして、そのソフトウェアの中でもオープンソースソフトウェアが支配的になっているとZemlin氏は指摘する。

 そして、長らくハードウェアと一体化したコンポーネントによって支えられてきたネットワークの世界にも、抽象化の波が及ぼうとしている。2013年に発足したOpenDaylight ProjectのNeela Jacques氏は「ITのほぼ全ての領域において、抽象化が進んできた。コンピューティングやストレージの領域では、仮想化への移行が進んでいる。しかしネットワークはそれほど進んでいない。真に自動化されたITの実現に向けて、ネットワークは変わらなければいけない」と述べた。

 そこで大きな役割を果たすのが、SDNであり、それをオープンソースソフトウェアで実現するOpenDaylightだ。OpenDaylightは「ベンダーからのロックインを減らして、ベストオブブリードによってより大きな価値を生み出せる」(Jacques氏)。

 OpenDaylightのポイントは、既存のさまざまなプロトコルやテクノロジをサポートするために、「Service Abstraction Layer(SAL)」と呼ばれるレイヤーを組み入れ、相互接続性を実現しようとしていること。OpenFlowやBGP、PCEPなどさまざまなプロトコル、あるいは多様なプラグインやサービスとの接続を実現しながら、ネットワークのインテリジェンスを一元化し、「抽象化」していくという。ちょうどLinuxカーネルと同じような役割を果たすというわけだ。

 SDNの世界では、さまざまなプロトコルや実装が入り交じっており、今の時点では明確な「勝者」は見えていない。誰もが「勝ち馬」はどれかを見極めようとしている段階だ。「インテリジェンスを完全に集中させるのか、それとも一定程度分散させるのか」「ハードウェアでいくかソフトウェアでいくか」……論点はさまざまだが、コミュニティでの議論を通じてそれを克服し、開発を進めていく取り組みがOpenDaylightだという。

ネットワークの抽象化は「野球でいうなら2〜3回」程度

 Jacques氏はその後のインタビューの中で、OpenDaylightの目的の1つは、「ネットワークを真に抽象化し、プログラマブルなものにすることによって、完全に自動化されたITインフラを実現することだ」と述べている。

 「OpenDaylightは、ネットワークにパラダイムシフトをもたらしている。中でも特に、ネットワーク管理の在り方を大きく変えるものだといえる。われわれは完全に自動化されたITを求めている。それには、ストレージ、コンピューター、ネットワークといったあらゆるリソースの抽象化が必要だ」(Jacques氏)。

linuxcon_ph02.jpg OpenDaylight ProjectのNeela Jacques氏

 抽象化に向けた取り組みの中で、ネットワークはまだ「出遅れている」とJacques氏はいう。しかもネットワークは、ストレージやコンピューティングといった他のリソースとは異なり、相互に接続されてマトリクスを形成しているため、「共通のプラットフォーム」が欠かせないと同氏は述べた。その共通プラットフォームがOpenDaylightだ。競合するさまざまなベンダーが協力する、ニュートラルな共通プラットフォームによってインテリジェンスを集中化し、インターフェースを通じてネットワークをプログラマブルなものにしていくという。

 しばしばネットワークの仮想化は、コンピューターやストレージの仮想化に比べると進んでいないといわれる。この点をJacques氏に尋ねると、「野球にたとえるならば、コンピューターが7〜8回まで、ストレージが4〜5回まで進んでいるとして、ネットワークはまだ序盤、2〜3回といったところだろう」という。

 例えばコンピューターの分野では、論理的にフレキシブルなクラスターを構成でき、ライブマイグレーションやデータセンターをまたいだ負荷分散などが始まった段階だ。ストレージの場合は、例えばEMCの「ViPR」のように基本的な抽象化を行ったSoftware Defined Storageが生まれつつあるが、広くデプロイされているとはいえない状況だ。そしてネットワークとなるとまだまだ後れを取っており、まずはコントロールプレーンとデータプレーンの分離が必要だという。

 この取り組みにおいてOpenDaylightでは、仮想化ではなく「抽象化」という表現を用いている。「抽象化とは、より正確に言えば『論理抽象化』で、仮想化よりも広範な意味を持つ。単にエミュレーションするだけではなく、論理的な構造と物理的な構造とを切り分け、ソフトウェアで定義したオブジェクトによって、リソースをずっとフレキシブルに利用できるようにする」(Jacques氏)。

 たとえて言うなら、「このお店のこのお弁当で、おかずはあれとこれを入れるように」と事細かに指示を出さなくても、「お弁当を用意してね」というだけでお腹を満たせる食事が届けられるようなものだという。

オープンソースがもたらす「革新と統合」のメリット

 SDNとOpenDaylightの今後の課題は、「エンタープライズクラスのソリューションにどう到達するか」という点だとJacques氏は述べた。より多くの人に使ってもらうことで、市場における理解を広げ、OpenDaylightプラットフォーム全体の成熟を進めていきたいという。

 例えばコンピューターの世界では、VMware vSphereなどの仮想化技術を中心に、バックアップやディザスタリカバリ、管理などを実現するソリューションが広がってエコシステムを形成し、導入の障壁を下げてきた。OpenDaylightやSDNにおいても同様に、「オーケストレーションやプラグインなど、ベンダーがサポートするものも含め多様なソリューションが広がってほしい」とJacques氏。それによって、「あらゆる形で、SDNはネットワークの管理の在り方を根本的に大きく変えていく」(Jacques氏)という。

 ベンダーのサポートを得ながら、オープンソースプロジェクトとしてOpenDaylightを進めることのメリットの1つは、「ベストオブブリードが可能なこと」だとJacques氏は述べた。市場には何から何まで自社までまかなえる大手の“フルスタックベンダー”がある。一方で、イノベーションというものが、しばしば小規模な会社から生まれてくるのも事実。オープンソースでは、「革新と統合、その両方の利点を得られることがメリットだ」とJacques氏はいう。また、複数の選択肢が用意されており、乗り換えのコストが小さいこともオープンソースの強みだとした。

 標準化も重要だ。スイッチ、ロードバランサー、セキュリティアプライアンスなどのハードウェアを用意し、それぞれの組み合わせでテストするのは大きな負担である。「OpenDaylightが役に立つのはまさにこの部分。この共通のプラットフォームに対してテストを行えばいい。新しい機能の追加も容易になる」(Jacques氏)

 現在OpenDaylightではコミュニティラボを設置し、テストに取り組んでいる。ラボにはエリクソンやファーウェイ、ブロケードなどさまざまな企業が協力しており、そのテストでは「全てをオープンにしている」(Jacques氏)。そしてOpenDaylightでは、テストだけでなく、全ての意思決定プロセスをオープンにしているとした。

 Jacques氏は最後に、「日本人は何か新しいことに取り組む際に慎重になりがちだけれど、今起こっている革新のペースは今までにないほど速く、しかもそのインパクトは大きい。ぜひ速やかにSDN戦略を立てて、一種の“賭”に出て投資すべき」と述べた。さらに、NECや富士通、日立製作所といった企業が既にこの取り組みに参加していることに触れ、「ぜひOpenDalyightのコミュニティに積極的に参加してほしい」と呼び掛けた。

SDNやOpenDaylightをIXに適用する取り組み「PIX」

 LinuxCon Japan 2014では、「OpenDaylight Mini-Summit」という枠が設けられ、SDNおよびOpenDaylightに関するさまざまなセッションが行われた。「Evaluating OpenDaylight and Implementing SDN」では、東京大学情報基盤センター准教授/WIDEプロジェクトの関谷勇司氏が、SDNやOpenDaylightをIX(Internet eXchange)に適用する「Programmable IX」(PIX)の取り組みについて紹介した。

linuxcon_ph03.jpg 東京大学情報基盤センター准教授/WIDEプロジェクトの関谷勇司氏

 「現在、IXはいくつかの課題を抱えている。経路制御をもっときめ細かく行いたいし、セキュリティ面ではDDoSへの対策が課題だ。また、VLAN単位だけでなく、プロトコルやアプリケーションなどに基づいてもっと柔軟に、きめ細かくダイレクトパスを設定したいというニーズも高まっている」(関谷氏)。

 PIXはこうした諸問題を、SDNを使って解決しようと試みている。例えば、これまでDoS攻撃が発生すると、時には人が介在して、ISPに対して個々にパケットフィルタリングを依頼していた。SDNを活用し、APIを公開することで、その作業を自動的に行い、DoS攻撃の迅速な緩和を実現するという。

 また、SDNを活用した、ASをまたいだ柔軟なパス交換の実現にも取り組んでいる。これにより、異なるロケーションのデータセンターにあるプライベートクラウド間のパス設定を、柔軟に行えるようにしていく。

 PIXでは国内外のベンダーが提供するOpenFlowスイッチに加え、OpenDalyightはもちろん、オープンソースのOpenFlowコントローラーである「Ryu」や「Trema」、それにスイッチ用のLinux OS「Cumulus Linux」といったオープンソーステクノロジーを活用しているという。「SDN、OpenDaylightは、現在よりも柔軟でセキュアなインターネットを実現するのに有用なテクノロジだ」(関谷氏)。

エンジニアに求められるスキルも変わる?

 「この10年もそうだし、昔からもそうだけれど、技術のシフトに伴ってエンジニアの仕事は変わる」とJacques氏は述べている。「今回のカンファレンスでも、インテルでストレージ関連に携わっている技術者が『ネットワークのことも勉強しなきゃ』と言っていたのを耳にした」。もはや、「Linuxだけ」「Windowsだけ」という時代ではなく、ネットワークやストレージも含む広範な知識が求められるようになったわけだ。

 その点、オープンソースのOpenDaylightは、これまでの「閉じた」ネットワーク技術とは異なり、エンジニアがその気になればWebサイトやgithubなどでテクノロジに直接アクセスできる。「会社の判断を待ったり、技術が成熟するのを待ったりせずに自分で学ぶことができる」(Jacques氏)。

linuxcon_ph04.jpg

 Jacques氏が紹介した、あるネットワーク管理者のエピソードは興味深いものだった。

 今ではOpenDaylightのコントリビューターとなっているBrent Salisbury氏は、もともとはケンタッキー大学でネットワーク管理者の役割を果たしていたそうだ。「あるとき彼が『OVSDBのプラグインが欲しい』と要望を出してきた。そのとき彼は、『僕はアドミニストレーターで、プログラマーじゃないからコードは書けない』と言っていたけれど、開発側はOVSDBに興味はない。そこで『あなたが自分で書くなら手助けするよ』と反応したんだ。彼は数カ月、寸暇を惜しんで勉強してスキルを伸ばし、自分でコードを書いた。今ではRedHadに所属しそれを仕事にするまでになって、OpenDaylightの開発に関わっているという。こんな風に、ネットワークエンジニアの仕事も変わっていくかもしれない。

 この話に関連して、Zemlin氏のオープニングセッションで印象的だったポイントがある。Zemlin氏は、これまでもっぱら企業の内部で行われてきた技術開発が、ソフトウェアやオープンソースが支配的な力を持つにつれて変わってきて、企業の「外側」で研究開発が進み、付加価値が生み出されるようになってきたと述べた。

 その結果、「ソフトウェアのうち80%はオープンソースが使われるようになり、企業は残る20%で差別化しなければならない」(Zemlin氏)。付加価値を生み出すには、企業の外部で行われるオープンソースプロジェクトにどのようにコミットしていくかが重要になるという。

 Zemlin氏は、その部分を担うエンジニアには、従来とは異なるスキルが求められると説明した。「自社の技術をどこまで出して、どこは出さないか」というオープンソースに対する戦略眼やかじ取りはもちろん、技術、ビジネスの両面でオープンソースコミュニティと協調するスキル、ライセンスや知的財産に対する理解などが必要だ。

 これは非常に難しいスキルではあるが、「業界においてソフトウェアが重要な役割を果たし、しかもオープンソースがソフトウェアの中で支配的な役割を果たす中、企業はそれに備えなければならない。外部の研究開発を手助けし、管理できる人材やプロセスを整備することが必要だ」とZemlin氏は述べている。

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