マルチデバイス&クラウドの時代、開発者が進む道を「理と情」で語る──そしてアーキテクトは新しい課題に直面するde:code 2014まとめリポート(1/2 ページ)

日本マイクロソフトが開催した開発者向けイベント「de:code」の基調講演とアーキテクト向けの3つのセッションの模様を凝縮してお伝えする

» 2014年07月08日 18時00分 公開
[星暁雄,ITジャーナリスト]

 日本マイクロソフトが主催する開発者向けイベント「de:code 2014」の開幕を飾るキーノート(基調講演)の壇上、同社代表執行役社長の樋口泰行氏は次のように語った。

日本マイクロソフト 代表執行役社長 樋口泰行氏

 「最近の進化は、今までと構造的に違う。非常に大きなパラダイムシフトが起きているんじゃないか」

 同社の問題意識が集約されたような言葉だった。

開発者向けイベントを「de:code」の名で再起動

 今回は、「de:code」の名称で開かれる最初のイベントとなる。米国で開催された開発者向けイベント「Tech Ed」と「Build」の内容を凝縮し、日本固有のコンテンツも加えた」(樋口氏)内容だ。2011年3月11日の東日本大震災以来、日本国内での開催が途絶えていた「Tech Ed」の再起動としての意味もある。そして、イベントの内容はまさに「パラダイムシフト」と呼ぶべき大きな変化を語るものだった。

 ユーザーがコンピューターを利用する方法は激変している。Windowsだけではなく、iPhoneやiPad、Androidと複数種類のOSを搭載したモバイルデバイスを操って、目に見えないクラウド上のサービスやシステムにアクセスする使い方が当たり前となり、システム開発、サービス開発の考え方に大きな変化が求められるようになった。

 このような時代に、マイクロソフトと開発者はどのような道を進むのか。開発者の側も、大きな変革が必要なのではないか。今回のイベント全体が、そう問い掛けるような内容だったのだ。

スピーディかつエモーショナルに訴える

 今回、日本マイクロソフトは、自社製品の説明がたんたんと続く──といったキーノートにはしたくなかった模様だ。時代の変化のスピード感を高密度で伝え、なおかつ「技術者が未来を作る」との感情に訴え掛けるメッセージを織り込んだ。

 おそらく同社は、開発者たちが今起こっている大きな変化を乗り越えるには、“スピード”が必要であり、そして“感情”的な側面も含めた動機付けが必要だと考えたのではないか。

 「われわれはWindowsで動く資産を担保しながら、オンプレミスとシームレスに連携可能なクラウドを提供していく。これまでの資産を担保した上でのクラウドです」。このように樋口氏は説明する。激変の時代だが、マイクロソフトのテクノロジ上の既存資産、それに開発者たちを、マルチデバイスとクラウドの世界に移行していきたいという気持ちが伝わってくる。

 樋口氏は、米マイクロソフトの新CEO、Satya Nadella氏についても触れた。「インドからの移民でエンジニア出身。技術の話も理解が速く、深い」。Satya氏就任からわずか3カ月で、【1】モバイルファースト、【2】クラウドファースト、【3】クロスプラットフォーム、【4】オープンソースと、大胆な方針が次々と打ち出された。しかも、これらは掛け声にとどまらず、画面サイズ9インチ未満のデバイスやIoT(Internet of Things)向けWindowsの無償化、Office for iPadの登場など、具体的な施策として実現しつつある。

マイクロソフトの変革

 同社のクラウドサービスの名称も、「Windows Azure」から「Microsoft Azure」に変更している。「Windowsにこだわらず、Linuxも手掛ける。この名称変更では日本から要望を上げた」と樋口氏は語る。

 続いて、同社テクニカルソリューションエバンジェリストの西脇資哲氏が、Windows8.1 Updateの説明を行った。マウス操作の利便性が上がったこと、Internet Explorer(以下、IE)11のEnterprise Modeを使えば古いバージョンのIEに対応したWebアプリケーションも安全、高速に利用できること、などをアピールした。

「開発者が未来を作る」

 キーノート後半では、日本マイクロソフト執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長 伊藤かつら氏が登壇。まずは感情に訴え掛ける言葉から始まった。

 「“Developers build the Future.”これが6カ月前、このイベントをやろうと決心したとき、私たちの頭に最初に浮かんだセンテンスです。私たちはこの言葉を信じています」

 続いて、一般消費者向けITの進化の方がエンタープライズ向けITを上回っている傾向を示す「コンシューマライゼーション」について言及。「これからのITは、デジタルライフ=コンシューマのシナリオ、デジタルワーク=エンタープライズのシナリオ、両方にまたがったものでなければならない。これが私たちの信念です」(伊藤氏)

日本マイクロソフト執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長 伊藤かつら氏

 さらに、コンピューターの数が爆発的に増大している状況について語り掛ける。「2008年には、世界の総人口と同じだけのデバイスが存在していました。これから、デバイスの数は指数関数的に増えていきます。2020年には10兆個のデバイスが世の中に存在するといわれています」(伊藤氏)。こうした膨大な数のデバイスがデータを収集し、データ量もまた爆発的に増大する。

デバイスの急速な増大

 このような変化をどう捉えるか。

 「これからのITを考える時、無限に広がるデバイス、素晴らしいエクスペリエンス(体験)を与えるアプリケーション、そしてデータの増大、それを支えるクラウド、こういう観点で見ていくといいと思います。そして、人が中心です。この世界を差別化する素晴らしいエクスペリエンス(体験)を提供するのは、ここにいる技術者の皆さまです」(伊藤氏)

 こうした、モバイルデバイスとクラウドが世界を覆い尽くす時代では、エンジニアは次々と登場する新技術を習得して変化を乗り越える必要に迫られる。その一方で、開発者がかつてない巨大な可能性を手にしている時代でもある。

 変化を乗り越えるには、事実や論理だけではなく、エモーション(感情)を高めることが必要だ──そのような意図を強く感じるキーノートだった。

モバイルファースト、クラウドファースト時代のデモを披露

 続いて、4種類のデモンストレーションが行われた。いずれも、モバイルファースト、クラウドファーストの時代のマイクロソフトテクノロジの活用法の一端を見せる内容である。

【1】エンタープライズモバイル、企業のタブレット利用

 タブレット上でタブレットアプリを作れるツール「Project Siena」の利用例などを挙げ、企業システムでのタブレット利用にはまだまだ開拓の余地があることを説明した。

「Project Siena」のデモ

【2】クラウド

 クラウドサービスMicrosoft Azureでは、日本国内の2カ所のデータセンター、東日本リージョンと西日本リージョンが立ち上がった。さらに「5秒に1回、Azure上にコアが立ち上がっている」(伊藤氏)。このような規模感で投資していることを説明した。デモでは、開発ツール「Microsoft Visual Studio 2013」が「サーバーエクスプローラー」を備え、Azure上のWebアプリケーション構築がより迅速に行えることを示した。

「Microsoft Azure」と「Microsoft Visual Studio 2013」を使って開発されたタッチ式注文システムのデモを行う日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリスト 井上章氏

【3】IoT

 従来「組み込み」開発と呼ばれてきた分野が、インターネット接続が当たり前となり、新たな開発環境に対応することで、より活用範囲が広がっている。デモでは、マイコンボードを組み込んだラジコンカーとクラウドが連携する様子や、組み込み機器向けの「.NET Micro Framework」が多様なCPU、OSに移植可能であることを説明した。教育向けキット「LEGO Mindstorm EV3」でも.NET Micro Frameworkが動いている。また、米インテルが発売した小型マイコンボード「Galileo」ではWindowsカーネルが動いている。

IoT of Windows

【4】セキュリティ

 クラウドの時代、認証基盤の重要性がより向上することを説明。クラウド対応の「Microsoft Azure Active Directory」を活用して、シングルサインインを実現できることを説明した。iPadをクライアントとし、オンプレミス(自社内)のシステムでサインインした結果がクラウドサービスと連携し、サインイン画面抜きにSalesforceのサービスを利用できるというデモを披露した。

iPadをクライアントとした「Microsoft Azure Active Directory」のデモ

Windowsタブレット、Windows Phoneへの力の入れ方が目を引く

 キーノートで力を入れた話題の一つが、Windows8搭載タブレットの活用方法である。

 さらに、参加者全員にWindows 8タブレット「Dynabook Tab」を配布するとの発表では、客席が沸いた。こうした演出に、米国の開発者カンファレンスに根強い「開発者を鼓舞する」雰囲気や文化を持ち込もうとしている意図が感じられた。

 もう一つ目に付いたことは、多くの時間をWindows Phone 8のデモンストレーションに割いたことだ。日本国内ではまだ搭載端末が発売されていないWindows Phone 8だが、日本マイクロソフトでは手を緩めていないとの姿勢を見せた。

 前出の西脇氏は、Windows Phoneの音声認識エージェント「Cortana(コルタナ)」や、新しい文字入力方法のデモンストレーションを見せた。さらに、前出の伊藤氏は、Windows Phone 8搭載端末をde:code参加者全員にプレゼントすることを発表した。

「Cortana」のデモをする日本マイクロソフト テクニカルソリューションエバンジェリスト 西脇資哲氏(右)と樋口氏(左)

 樋口氏は「今日は(日本国内でのWindows Phone 8に関する)発表はありませんが、なるべく早く日本に持ってきたいという気持ちだけ、お伝えしたい」と述べた。日本でのWindows Phone 8の今後については具体的な情報が乏しいが、少なくとも日本マイクロソフトは普及への努力をたゆまずに続けている。

 続いて、本リポートの後半では、「de:code 2014」のいくつかのセッションから、日本マイクロソフトが考える「アーキテクトの仕事」について見ていく。

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