ベンダーはどこまでプロジェクト管理義務を負うべきか「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(3)(1/2 ページ)

プロジェクトを円滑に推進し完遂するために、ベンダーはどのような活動を行う義務があるのか。ある裁判の判決を例に取り、IT専門調停委員が解説する。

» 2014年07月15日 18時00分 公開

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「ジェイコム株誤発注事件」

連載目次

 今回は、平成16年3月10日の東京地方裁判所の判決を解説する。IT法務について述べている数多くの論文や記事の他、筆者の著書でも何度も取り上げている判決だが、システム開発におけるユーザーとベンダーの役割分担についての考え方を裁判所が明確に示し、特に「ベンダーのプロジェクト管理義務とは、どのようなものであるか」を定義付けた重要な判決であることから取り上げることとした。

事件の概要

 システム開発において、プロジェクトを円滑に推進し完遂するために、ベンダーはどのような活動を行う義務があるのか、について考えてみたい。まずは、事件の概要と裁判所の判断の要旨を紹介する。

原告:某健康保険組合(以下 原告健保)
被告:某ソフトウェア開発ベンダー(以下 被告ベンダー)


 平成9年5月、原告健保と被告ベンダーは原告健保の基幹業務システムの開発委託契約を締結した。当初契約では納期は平成10年12月だったが、スケジュールが遅延し被告ベンダーからの要望に基づいて開発中に平成11年3月に変更された。

 しかし、期限を数カ月過ぎてもシステムは完成せず、原告健保は契約を解除し、支払い済み代金約2億5千万円の返却と損害賠償3億4千万円の支払いを求めて訴訟を提起したが、訴えられた被告ベンダーは、開発遅延の原因は原告健保による機能の追加・変更その他過剰な要求と原告健保が回答すべき懸案事項についての意思決定の遅れによるとして、逆に委任契約解除における報酬と損害賠償として約4億6千万円の支払いを原告健保に求めて反訴を提起した。

 開発中に発注者が要件の追加・変更を繰り返すことによりスケジュールが遅延するのはシステム開発の常であり、その結果、システムが完成を見ないまま、契約が解除されるのは決して珍しいことではない。この事件はそうした争いの典型であり、システム開発に携わるほとんどのユーザー、ベンダーにも発生し得ることには、同意する読者も多いだろう。

ベンダーのプロジェクト管理義務とは

 ベンダーの立場からすると、要件の追加変更に基づくスケジュール遅延やシステムの未完成なら、その責任は要件提供者であるユーザーが負うべきと考えるだろう。

 裁判所も確かに要件追加・変更についてのユーザーの責任を認めてはいる。しかし、この判決では、コンピューターシステムの高い専門性を考慮し、「システムが完成しなかった責任の多くをベンダーにも求める判決」が出た。以下、判決文からポイントとなる部分を抜粋して説明する。

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