「バブル期の日本」と「シリコンバレーなう」の共通点プログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(10)(2/2 ページ)

» 2014年08月05日 18時00分 公開
[Engine Yard Tim Romero(ティム・ロメロ),@IT]
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日本の台頭

 実のところ、日本にも質の高いエンジニアはかねてより存在した。しかし昔は経営慣習のせいで、質の高いソフトウェアを作成することは、ほぼ不可能だった。

 しかし、自ら会社を立ち上げ、コミュニティを作ることで、彼らは高い独立意識を持つようになった。そしてソフトウェアの品質は急速に向上し始めた。

 クラウドコンピューティングやPaaSの利用が拡大したことで、この傾向は加速度的に強まった。今や、エンジニア3名のチームが最小限の資金で会社を立ち上げ、昔ながらの営業や管理のプロセスを踏まずに、全国に(さらには世界に)アプローチできる。日本人エンジニアたちは自由を手にした途端、新しいプログラミング言語やより効率的なソフトウェア開発過程の両方に、瞬く間に順応していった。

 日本人のエンジニア(そして日本人従業員全体)は米国人エンジニアと比べて、自分たちの会社や製品、顧客に対する忠誠心を高く持ち続けていると私は思う。

 細部へのこだわりと作品への誇りは、日本の芸術、エンジニアリング、料理、あるいは伝統音楽の中にも見られる。最終成果物の中に職人の個性が見て取れるいずれの分野においても、日本の品質レベルは並外れて高い。

 外部から投資されればされるほど彼らは頑張り、製品の質はどんどん高まっていく。

 しかもだ。日本で起業するということは、社会的に不安定で、失敗の代償も大きい。その結果、あえてスタートアップに挑む日本のエンジニアは、他のエンジニアより自信を持っているし、スキルも高い傾向にある。そして会社を成功させるために、惜しみない努力をする。

米国の衰退

 シリコンバレーのエンジニアの質は、この20年で全体に低下してしまった。最近では、技術系スタートアップたちに資金を投じても、技術の向上にはつながらず、給料とエゴを暴騰させるだけだ。

 シリコンバレーが多くの才能あるエンジニアを魅了し続けているのは確かだが、最近は、給料とエゴ以外に興味がないような人を大勢引きつけ、文化が完全に変わってしまった。

 最高のエンジニアは依然として素晴らしい存在として君臨し続けている。だが同時に、実践技術や納品するコードにあまり関心がない何千もの二流エンジニアが全体の平均になりつつある。

 とどまるところを知らないエンジニア需要と、スタートアップたちの「fail-fast(失敗したら迅速に撤退する)」哲学によって、入れ替わりが激化し、会社や同僚、そして顧客への忠誠心などは失われた時代の遺物のようになってしまった。

 いろいろな意味で、今日のシリコンバレーのエンジニアは、バブル期のあのサラリーマンたちを思い出させる。

 毎晩6時になるとオフィスの卓球台に集まり、それぞれの多忙ぶりを嘆き合う。ケータリング食や無料マッサージ、グルメコーヒー、無料のジム会員制度などの充実した福利厚生を、「もっと仕事をさせようと仕組まれたワナではないか」と勘繰っている。

 このような新種のエンジニアが悪人というわけではない。彼らの多くは、有能で魅力的だ。バブル期に共に働いた大手企業のサラリーマンたちもそうだった。彼らは、彼らが知り得る雇用システムからできるだけ多くのものを得ようとしているだけで、何も間違ってはいない。

 しかし、素晴らしいソフトウェアを作成しようとするなら、そのやり方ではダメだ。

 シリコンバレーのエンジニアは、日本人エンジニアより高学歴で技術評価試験のスコアも高いかもしれない。しかし日本人エンジニアは、彼らよりも規律正しく、会社や同僚、顧客、自分の製品のことを大切にする。

 素晴らしいソフトウェアを作成するなら、このやり方でないと!

筆者プロフィール

Tim Romero(ティム・ロメロ)

Tim Romero(ティム・ロメロ)

プログラマーでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマー社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダーであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。

個人ブログ"Starting Things Up in Japan"


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