「データの重力」を軸に考える、データ/データベース領域のクラウド環境利用Database Expert イベントレポート(3/3 ページ)

» 2014年09月19日 15時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]
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Amazon Kinesis+Lineビジネスコネクト+車載システム=?の新事業立ち上げ

 Duffy氏によれば、AWSでは現在、リアルタイムデータ処理のサービスに力を入れているという。ストリームデータのリアルタイム処理サービス「Amazon Kinesis」はその代表例だが、既にAWSのリアルタイムデータ処理サービスを使ってサービスを展開している企業の事例もある。

 本イベントではその一つとして、中古車の仕入れ・卸売り・販売を手掛けるガリバーインターナショナルが2014年9月からの提供を予定している「DRIVE+」というサービスの紹介が行われた。

 DRIVE+は、近年にわかに注目を集めつつある「コネクテッドカー」サービスの一つ。既にトヨタ自動車やヤフー、グーグルなどもこうしたサービスを展開している。実装方法は多様であるが、同サービスの場合、クルマの状態に関する情報を、車載伝送制御システムと連携したOBD2(On Board Diagnosis second generation)端子から取得、リアルタイムに自動車の各種情報を収集し、インターネットを介してクラウド環境上のデータと組み合わせることで、利便性の高い情報サービスをユーザーに提供しようというもの。ガリバーインターナショナルでは、ユーザーに情報を提供するインターフェースとして「LINEビジネスコネクト」を採用。他社とは一味違うサービスでより広範なユーザー層の開拓を狙う。

Drive+のサービスイメージ Lineという、既に国内で広く普及しているアプリをプラットフォームに、「スタンプを押す」という簡易な操作で情報を取得できるようにするという
ガリバーインターナショナル 事業開発チーム 北島昇氏

 このDRIVE+のリアルタイムデータ処理基盤の中核を担うのが、Amazon Dynamo DBやAmazon Redshift、Amazon S3といったAWSの各種クラウドストレージ/データベースサービスだ。ガリバーインターナショナル 事業開発チーム 北島昇氏によれば、これらのAWSサービス群を採用することで、「膨大な情報をリアルタイムで安定して処理できるインフラを、圧倒的な短期間で、かつ低コストで用意できた」という。

 加えて同氏は、ビジネス面から見た場合には、クラウドサービスならではのスケーラビリティが、DRIVE+のビジネス立ち上げにおいて大きな役割を果たしたと指摘する。

 「将来的に新たなビジネスモデルを取り入れる際に、余分なシステムコストが発生しないか。経営層からのこの問いに対して、AWSは柔軟なスケーラビリティを備えているため、自信を持ってYESと答えることができた。この意思決定が、DRIVE+のビジネスを立ち上げる上では極めて大きかった」

 また、コンテンツ グラビティのコンセプトにのっとってクラウド上にデータを集約し、集中的にそれらを処理できる環境を構築することで、DRIVE+のような個別サービスが実現できただけでなく、クラウド上に集約したデータを他のサービスやマーケティング施策でより柔軟に活用しやすくなる効果も期待できるという。

 最後に同氏は、コンテンツ グラビティのコンセプトを具現化する上で重要な「人」や「組織風土」の課題を指摘する。

 「いくら“コンテンツ グラビティ”が有用だといっても、それを実際に生かすには、ユーザーや決裁者にその価値を理解してもらわないと話がなかなか前に進まない。弊社でDRIVE+のプロジェクトを立ち上げる際にも、経営陣を連れてシリコンバレーに行き、最新のクラウドソリューションやモバイル技術、コネクテッドカーで先行する米国事情の視察を行った。このように、最新テクノロジとビジネスとの間の距離を縮める地道な取り組みが思いのほか重要だと感じている」

 本イベントではデータ処理の実施場所とデータ格納場所を近付ける、ビジネス開発を既存クラウドサービスを使って組み上げる、といった、クラウドならではのユースケースが聞けた。

 データアクセス頻度や容量単価のしきい値、データの機密性など、クラウドかオンプレミスかといった検討軸は複数あるが、従来、ミドルウェアやアプリケーションを自前で構築して運用していた領域について、いざとなればクラウドサービスでテストしておける、とりあえずリリースしてマーケットの様子をうかがう、といったトライアンドエラー環境として一定のバリエーションあるクラウドサービスが選択肢にできる点は魅力だ。社内スタートアップベンチャー的に最小リスクで立ち上げる必要がある場合、他の要件と比較した見積もり試算で、十分に折り合いが付く場合は、AWSに限らずこうしたクラウドサービスの利用比率は増えていくだろう。

 DBサービスの利用についても、一昔前までは仮想インスタンスでDBを動作させた場合のログ管理やバックアップ、HA構成の実装などに難を示すユーザーも少なくなかったが、現在ではこうした懸念も多くの要件で払しょくできる一定の機能レベルのサービスを提供しつつある。

 むろん、だからといって全てのデータベースやストレージがサービスプロバイダーのプラットフォームに移行すると言っているわけではなく、事業の根幹を担うシステムや、あるいは通信総量にコストが掛かるようなユーザーの多いコンシューマーサービスはオンプレミスで、という判断もまた正しいことに変わりはない。また、社内でシステムそのものへの知識や仕掛けを積み上げていくことでしか実現しない企業価値も存在する。事実、大規模なコンシューマーサービス運営事業者らや、傘下に多様な企業・重要情報を扱う企業を擁する大手企業グループなどは、こぞって自社内にAWS相当の強い共通IT基盤構築を進めている。

 本イベントでポイントとなるのは、オンプレミスだけでなく、クラウドサービスプラットフォーム上でも「コンテンツ グラビティ」――データの存りかを中心としたシステム設計が具体的に検討できるようになりつつある、という点だろう。この考え方を基に、データ格納場所やITインフラ、システム全体の運用ノウハウそのものが価値になり得るか否かを、シンプルに考えられるようになってきたということだ。

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