「Analytics CloudでBI市場をひっくり返す」、セールスフォースが目指す世界Dreamforce 2014

米セールスフォース・ドットコムは、2014年10月第3週にサンフランシスコで開催中の「Dreamforce 2014」で「Salesforce Analytics Cloud」を発表、BI市場のナンバーワンを目指すと宣言した。セールスフォースの狙いを探る。

» 2014年10月17日 09時00分 公開
[三木 泉,@IT]

 「15年前、当社はレガシーな企業4社が約50%のシェアを占めていたCRM市場に参入し、この市場をひっくり返した。そしていま、アナリティクス市場では、レガシーなベンダー4社が大きなシェアを占めている。当社はこの市場をひっくり返そうとしている」。

 米セールスフォースのSalesforce Analytics Cloud担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーである、キース・ビゲロー(Keith Bigelow)氏の、この発言から読み取れることは2つある。同社が本気でBI市場におけるナンバーワンの地位を獲得しようとしていること、そしてターゲットは、Tableau SoftwareやQlik Technologiesではないということだ(Tableauに対する優位性と思われる点については後述する)。

 Salesforce Analytics Cloud(以下、Analytics Cloud)は、データウェアハウスとBIツールを一体化したようなサービス(概要については、こちらの記事をお読みいただきたい)。買い切り型の製品ではなく、クラウドサービスとして提供されることのメリットを、セールスフォースは訴求する。多様なデータ形式への対応は、ETLツールベンダーに任せる部分が大きいようだ。既存Salesforceサービスのデータの取り込みには、デフォルトで対応するが、最初のバージョンでは取り込み間隔が24時間に1回になると、ある説明員は話している。

後述のGEキャピタルの架空シナリオを示すダッシュボード

 Analytics Cloudのキャッチフレーズは、「Analytics for the rest of us」(「誰でもできるアナリティクス」)。TablauやQlik Senseと同様、企業内のあらゆるビジネスユーザーがデータを活用できるような、セルフサービスBI環境を指向している。同サービスによる分析作業の流れは、次のようになる。

 情報システム部門やデータサイエンティスト/アナリストチームはBuilderライセンスを使い、場合によってはETLツールを用いてデータをAnalytics Cloudに取り込み、「データセット」として用意できる。

 一方、Explorerライセンスを持つ一般ビジネスユーザーがデータセットを、グラフとして視覚化し、分析作業を行う。機能は5つに分けられる。「メジャー」(データの最大値、平均、合計などをとる)、グループ化、フィルタリング、表示(グラフの種類を選択)、「アクション」(保存や共有)だ。つまり、単一データセット、あるいはマッシュアップした複数データセットを対象にドリルダウン、比較などの探索作業を行い、その結果である「レンズ」を、Chatterメッセージに貼るなどして、他のユーザーと共有できる。

 Analytics Cloudではモバイル端末での一般ユーザーによる利用を強く意識しており、Tableauのような豊富な機能は、少なくとも当初は期待できない。ユーザーインターフェイスはシンプルでクリーンなものとなっている。

 一方、サービス側のデータ処理スピードが従来のBI製品に比べてけた違いに速く、デスクトップ(Webブラウザ)環境、モバイル端末にかかわらず、快適に使えると、セールスフォースは強調している。

 Analytics Cloudの開発に協力した米GEキャピタルは、法人ローン商品などの営業担当者が、顧客および潜在顧客に関する多様な情報を、専門チームに依頼することなく迅速に分析し、これに基づいて効果的な提案ができることがAnalytics Cloudの大きなメリットだと言っている。分析対象のデータがクラウド上にあり、外出先であってもモバイル端末から安全に分析できるため、ビジネスを機動的なものにできるという。Dreamforce 2014におけるデモでは、(架空の)GEキャピタルの担当者が、米Brunswickのプレジャーボート事業におけるモデル別の売上および在庫、ソーシャルメディアでの人気度などの情報を基に、新商品が大ヒットするとの予想を立て、インベントリファイナンスを提案するというシナリオが示された。

 セールスフォース・ドットコムはBIの分野で、他のベンダーに比べ、大きな潜在的アドバンテージを持っている。Sales Cloud、Marketing Cloud、Service Cloud、Community Cloudを通じ、Salesforce.comのユーザー組織における事業活動、および顧客や市場に関する多様なデータが、すでに同サービス上に集まっているという点だ。

 BIというと、特に一般ユーザーにとっては、「どんなデータを対象に、どんな質問を考えて分析すればいいのか分からない」ということになりがちだ。だが、Salesforce.comを使いこなしている企業なら、分析の材料に事欠かない。マーケティング活動の結果得られたデータなどを営業担当者が自分で視覚化して、各顧客に関するちょっとした分析を行い、即座に営業活動に役立てるといったシナリオが考えられる。

 Analytics Cloudの実際の利用料金や、ユーザー企業の事業内容にもよるが、営業スタッフ全員が日常的に利用することも、想像できる。また、Salesforce.comの既存サービスの価値を高める効果をもたらす可能性もある。

 Dreamforce 2014の基調講演では、会長兼CEOのマーク・ベニオフ(Mark Benioff)氏が、下のような図を示した。「?」となっているところには、今回の発表でAnalytics Cloudが入った。

Analytics Cloudの発表で、セールスフォース・ドットコムの企業ロゴと同じ形が完成

 これによって、セールスフォース・ドットコムの企業ロゴと同じ形が完成したことになる。Analytics Cloudは当面、セールスフォース・ドットコムにとって最後の、主要サービスとなるのかもしれない(企業ロゴをいつでも変える用意があるというのなら別だが)。

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