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» 2014年11月04日 18時00分 UPDATE

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(8):もしもシステムの欠陥により多額の損害賠償を求められたら (1/2)

システムの欠陥によって損害が発生したとして、作業費用6億5000万円の支払い拒否に加え、23億円の損害賠償まで請求された下請けベンダー。裁判所の判断はいかに?

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

 私が調停を行っている東京地方裁判所民事第22部では、民事調停に加えて建築関係の訴訟も行われている。「建物の構造に問題があり、十分な強度を備えていない」「建物が傾いて使用できない」といった欠陥について多くの訴訟が提起され、損害賠償や補修費用などが争われている様子は、建築もITも変わらない。

 ただし建築とITでは、成果物の完成と欠陥の関係についての考え方が異なる。建築では、建てた家やビルに多少なりとも欠陥が見つかった場合、施主は仕事の完成を認めずに、検収や費用の支払いを拒んだり、補修が完全に終了するまで残金の支払いを延期したりすることがしばしばある。

 ITの場合は、「システムの完成時に全ての欠陥が除去されない限り仕事の完成を認めない」などと言い始めると、大多数のプロジェクトが検収を受けられないことになる。多くの場合、画面表示や演算に誤りは残るものだし、処理速度など性能が出ない場合もある。本番稼働後にそれらの不具合を徐々に修正していき、やがて問題が何も出なくなるというのが一般的な姿であることは、この連載の読者からすれば常識といっても良いだろう。

 完成したモノの欠陥により損害が生じた場合の考え方も、建築とITでは多少異なる。建築の場合は、欠陥により何らかの損害が発生すれば、直ちに受注者による損害賠償が求められるが、ITの場合は、裁判所の判決に「情報処理システムの開発に当たっては、作成したプログラムに不具合が生じることは不可避であり……」といった主旨の記載がよく見られるように、欠陥すなわち損害賠償とはならない。この辺りもIT独特の考え方である。

システムの欠陥により発生した損害は誰が賠償するのか

 とはいえ、「ベンダーの損害賠償責任を判断するのに欠陥の有無を全く考慮に入れないのか」といえば、もちろんそんなことはない。請負契約において成果物の品質に受注者が責任を負わなければならないのは、ITも例外ではない。

 では裁判所は、損害賠償責任と欠陥の関係をどのように考えているのか。今回から2回に分けて説明しよう。

 過去の判例を見る限り、裁判所がIT訴訟において、システムの欠陥による損害の賠償を判断するポイントは、「1 残存する欠陥についてのベンダーの対応」と、「2 欠陥の重大さ」のようである。今回は前者、つまり「欠陥が発覚した際にベンダーは、どのように対処すべきであるか」について考える。まずは、以下の判決を見ていただこう。

【事件の概要】(東京地裁 平成22年1月22日判決より抜粋して要約)

原告:下請けシステム開発会社(以下、下請けベンダー)
被告:元請けシステム開発会社(以下、元請けベンダー)

 元請けベンダーは、ある大学から事務処理システムの開発を請け負い、その一部を下請けベンダーに発注したが、完成し本稼働したシステムには正常系業務に深刻な欠陥があった他、学生の個人情報漏えいや各種データの消滅などの問題が発覚したため、元請ベンダーはユーザーである大学に対して約25億円の損害賠償債務を負うこととなった。

 元請けベンダーは、システムの欠陥の責任は下請けベンダーにあるとし、下請けベンダーへの報酬支払いを拒んだが、下請けベンダーは自身の行った作業費用約6億5000万円を請求して訴訟となった。(本訴)

 訴訟を提起された元請けベンダーは、自らが支払いを拒む正当性を主張するとともに、下請けベンダーに約23億円の損害賠償請求を求める反訴を提起した。

 今回は原告・被告共にベンダーであるため少し分かりにくいが、元請けを発注者、下請けを受注者と見て、「受注者の開発したシステムに欠陥があったため、発注者には25億円の損害が発生し、そのうち23億円を受注者に請求した」と考えていただきたい。

 損害賠償の責任が元請けベンダーと下請けベンダーのどちらにあるかというより、「下請けベンダーがITの専門家として果たすべき責任を果たしたのか」「そもそも果たすべき責任とはどういうことだったのか」が問題となる。

欠陥による損害は当然に賠償されるべきか

 念のため申し上げておくが、本件ではシステムは一応完成して本稼働もしているので、「下請けベンダーがシステムを完成させなかった」ということにはならない。完成後のシステムで発見された欠陥が「瑕疵(かし)」であるかが問題である。

 請け負いで開発したシステムに瑕疵がある場合、瑕疵担保責任が問われ、欠陥の無償補修や欠陥によって生じた損害の賠償が求められる。本件の場合も正にその点が問われた。つまり、「システムに欠陥はつきものなので賠償は免除される」と考えるか、「欠陥による損害は当然に賠償される」と考えるかである。

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