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» 2014年11月17日 18時00分 UPDATE

クラウド時代のアジャイルシステムインテグレーション(1):いまさら聞けない「クラウドの基礎」〜クラウドファースト時代の常識・非常識〜 (1/3)

クラウドの可能性や適用領域を評価する時代は過ぎ去り、クラウド利用を前提に考える「クラウドファースト」時代に突入している。本連載ではクラウドを使ったSIに豊富な知見を持つ、TISのITアーキテクト 松井暢之氏が、クラウド時代のシステムインテグレーションの在り方を基礎から分かりやすく解説する。

[松井暢之,TIS株式会社]

クラウドに対する期待と幻滅

 近年、パブリッククラウドは爆発的に普及し、サーバー仮想化と同様、多くの企業にとってもはや当たり前のものとなりつつあります。IDC Japanによると、国内のクラウド関連のITサービス市場規模は、2018年には2013年比で3.3倍になると予測されています。一方で、クラウド関連以外のITサービス市場はマイナス成長になるといわれています。

ALT 図1 国内クラウドサービス関連ITサービス市場 支出額予測、2013年〜2018年(出展:IDC Japan「国内クラウドサービス向けITサービス市場 2013年の実績と2014年〜2018年の予測」)

 MM総研による国内法人へのアンケート調査結果によれば、新規システム構築の際には、「原則的にクラウドサービスを利用する」と回答した法人が40.5%を記録。「クラウドとオンプレミスを比較検討して最適な方法で構築する」と回答した法人も加えれば、実に78.1%もの法人がクラウドの活用に積極的な姿勢を見せています。

ALT 図2 新規システムの構築方法(出展:MM総研ニュースリリース「国内クラウドサービス需要動向」MM総研 [ 東京・港 ] )

 一方、米ガートナーによる「Gartner Hype Cycle」では「Cloud Computing」が幻滅期の底に位置しています。このことから、「クラウドさえ導入すれば既存システムの運用コストは圧縮され、新しいビジネスも簡単に素早く立ち上げることができる」という過度の期待は幻想でしかないことも、理解され始めていることがうかがえます。

参考リンク:Gartner's 2014 Hype Cycle for Emerging Technologies Maps the Journey to Digital Business(米ガートナー)

 ではこうした状況にあって、SIerやIT部門のエンジニアは、どのようにクラウドを活用していけばよいのでしょうか?――こうした問い掛けは、クラウドの浸透に伴い、各種メディアやイベントなどにおいて非常に数多くなされてきました。そのたびに、「これからのITエンジニアは、クラウドの特性と限界を十二分に把握し、クラウドだからこその価値を、エンドユーザーや顧客企業に提供する能力が必須となる」と指摘されてきました。一方で、その裏返しのように叫ばれてきた、「クラウド時代は、運用の受託業務を収益源としてきたSIerにとって厳しい時代になる」「業務部門主導でパブリッククラウドを利用する例が増え、IT部門/情報システム部門の存在意義が問われるようになった」といった辛辣(しんらつ)な意見も無視することはできません。

 もちろん今、多くのエンジニアはそうした声も意識しながら、日々クラウド活用に携わっていることでしょう。しかし、クラウド前提でシステム構築を考えるクラウドファースト時代になりつつある今、「クラウド」という言葉自体が、ある種の飽和状態を迎えているとも言えるのではないでしょうか? クラウドが当たり前の、身近なものになるにつれて、その真の意義やメリット、有効活用のカタチが、かえって曖昧になりつつあるようにも思うのです。

 そこで、もう一度「クラウド」の本質を振り返り、今あらためてその技術の使いこなし方、クラウド活用の正しい発展の方向性を考えようというのが本連載のテーマです。時々刻々と移り変わるビジネス要請にアジャイルに応えられる、「クラウドファースト時代のシステムインテグレーション」とはどういうものなのか、具体的にひも解くことで、今求められているクラウド活用の在り方を明確化していくことが狙いです。これを通じて、SIerや社内IT部門が存在意義を担保するための一助となれば幸いです。

あらためて「クラウドって何?」

 では早速、本論に入りましょう。どうすればクラウドの価値を引き出し、エンドユーザーに提供できるのでしょうか? これを考えるために、あらためて「クラウドとは何か」を確認しておきたいと思います。

 そもそもクラウドという言葉は、2006年当時、米グーグルのCEOだったエリック・シュミット氏が「データもアーキテクチャもサーバー上に置くのが前提だ。そういったものはどこかの雲(クラウド)の中にあればよい。われわれはそれをクラウドコンピューティングと呼んでいる」と発言したことが由来とされています。

 このクラウドという言葉は、さまざまな立場の人によってあらゆる解釈が与えられていますが、ITエンジニアにとっては次のNIST(米国国立標準技術研究所)による定義が分かりやすいのではないでしょうか。

「共用の構成可能なコンピューティングリソース(ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービス)の集積に、どこからでも、簡便に、必要に応じて、ネットワーク経由でアクセスすることを可能とするモデルであり、最小限の利用手続きまたはサービスプロバイダーとのやりとりで速やかに割当てられ提供されるもの」

(出展:情報処理推進機構「NISTによるクラウドコンピューティングの定義」(PDF)

 いかかでしょうか。単なる「サーバー仮想化基盤」を「クラウド」と呼ぶ傾向が、業界内でもいっとき強く見られましたが、決してそうではないことをあらためて確認できるのではないでしょうか。「構成可能(configurable)なリソースを必要に応じて簡単に素早く調達できる」こと――すなわち“すぐに使えるシステム基盤”としてリソースを提供することがクラウドの本質であり、サーバー仮想化はそれを行うための前提条件にすぎないのです。

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