システムとビジネスの確立をリード。世界に向けて“日本取引所グループの差別化”を図ったエンジニアITでビジネスを変革。デジタル時代のテクノロジリーダーたち(1)(2/3 ページ)

» 2015年02月23日 19時00分 公開
[斎藤公二/構成:編集部/@IT]

前例のないシステム開発

編集部 とはいえ、前例が何もない中で、新規にシステムを作るのは非常に困難だったと思うのですが。

箕輪氏 そうですね。特に大きな課題となったのは、国内には存在しないビジネスだったため、システムと同時に「OTCデリバティブ清算」という制度の整備も求められたことです。そもそもシステムのユーザーとなる日本証券クリアリング機構も、エンドユーザーとなる銀行や証券会社も、当初はOTCデリバティブ清算がどのようなものなのか、詳しくは知らない状態。こうした事情から、システム開発の在り方が、従来とは大きく異なるものになったのです。

編集部 システムを作ることが、新たなビジネスを作ることとイコールだったのですね。国内に有効なナレッジがない中で、どのようにプロジェクトを進めたのですか?

箕輪氏 この時目を付けたのが、これまで取引所にシステム提供していたベンダーではなく、金融機関同士の相対取引に特化した海外のパッケージベンダーです。そこにはOTCデリバティブ市場のナレッジが存在し、そこで培われたパッケージ機能を清算機関に転用できるノウハウがあることを確認し、導入を決定しました。そのパッケージ機能からノウハウをひも解いてビジネスモデルを構築していく、というアプローチを採ったのです。

 JPXでは、株券取引を担う「arrowhead」をはじめとする通常のシステム開発の場合、まずユーザーニーズに沿って要件定義し、JPXのウオーターフォール型の開発標準に沿ってシステムを作り上げる“ビジネス主導の開発”が一般的な流れです。これは取引所で「場立ち」(証券取引所で売買取引を処理する人たちの作業)をシステムに落とし込んだときからの伝統でもあります。一方、本件についてはJPX内部にビジネスナレッジがありません。つまり、パッケージを買うことはそのナレッジを買うことでもあったのです。“システム主導の開発”となったのも、ある意味、自然な流れだったと思います。

編集部 具体的にはどのように開発したのでしょう?

ALT 「システムとビジネスを同時に整備していくことで、新たな差別化のチャンスをつかんだ」

箕輪氏 そもそも要件がないため要件定義はできません。また、ベンダーの総合テストが終わってからユーザーテストに入るのが一般的ですが、業務が見えないためそれもできません。そこでパッケージの機能を一つ一つ見て、それをユーザーと開発者が一緒に試しながら業務自体を学び、日本国内ではどういう制度にすべきなのか、共に検討していく、というスタイルを採りました。

 パッケージのカスタマイズも最小限に抑えました。まずは1年という短期間のうちにシステムをローンチする目標でしたから、カスタマイズでテスト工数が増えると間に合わなくなってしまうためです。また、制度が固まっていない中での開発であるため、最初にカスタマイズしてシステムを作り込んでしまうと、後で制度変更があった際、柔軟に対応できなくなることも考慮した結果です。

編集部 最初はどのようなところから始めたのですか?

箕輪氏 まずは必要な機能の優先順位付けから始めました。システムの中核となるのは取引管理です。具体的には、相対取引を管理している機関から取引データを自動的に取り込み、CCPとして債務負担可能な取引データであるかを自動チェックします。その上で、債務負担可能と判断した取引データを取り込み、債務のポジション(※)を管理します。2015年2月現在は、10万件以上のポジションを管理しており、債務ごとにどれほどのリスクがあるのかをシステムでシミュレーションして、「担保がいくら必要か」などのサマリーを提示しています。この分析のためのシナリオが1250通りあり、10万件×2(相対)×1250通りの分析を1日2回、各40分程度かけて行っています。

※相対取引の主体となる銀行や証券会社などが保有するポートフォリオの持ち高情報を指す。リスク管理の重要な指標となる

 こうした機能を核に、「制度の実行を支える機能」と、各種リポートなど「エンドユーザーに必要となる機能」を大きく分け、OTCデリバティブ清算の業務を行う上で、重要な機能から順に実装していったのです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。