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» 2015年03月25日 18時00分 UPDATE

特集:DevOpsで変わる情シスの未来(9):DevOpsが浸透しない「本当の理由」 (1/3)

欧米では業種を問わず、多くの企業に浸透しているのに対し、国内ではいまだバズワードと見られているDevOps。その真因とは何か? アジャイル開発、DevOpsに深い知見を持つ、日本HPの藤井智弘氏が「DevOpsの誤解」の真因を喝破する。

[編集部/@IT]

DevOpsが、日本ではスローガンから脱し切れない理由とは?

 ビジネスとITの距離が年々縮小し、ITのパフォーマンスがビジネスのパフォーマンスを左右する時代になっている。特に現在、SoE(System of Engagement)領域に属するフロント系のシステムは、業種を問わず多くの企業が運用している。市場環境変化が速い中、こうした顧客接点となるシステムはもちろん、それと連携するバックオフィスのシステムも含めて、ニーズに合わせて迅速・柔軟に改善できなければ、ライバルも多い中で確実に機会損失を被ることになる。これを受けて、欧米では金融、メーカー、流通など、多くの企業がDevOpsに取り組んでいる。

 一方、国内では「ビジネスにスピードが求められている」という認識はありながら、DevOpsについてはいまだバズワードと見られている傾向が強い。特に目立つのは、「開発/運用部門が同じ会社の中にある一部のWeb系企業のもの」「ECやゲームなど、開発成果物がビジネスに直結している企業のもの」「受託開発が一般的な国内企業にとっては非現実的」といった見解だ。

 だが、国内でもフロントシステムは多くの企業が持ち、それらが重要な顧客接点として機能している。国内企業が置かれている状況は欧米企業と同じだ。製品・サービスの流通形態がWeb中心となり、企業規模を問わずグローバルの戦いになっていることも、多くの企業は重々認識しているだろう。にもかかわらず、なぜ国内ではDevOpsが半ば冷めた目で見られているのだろうか? いまだにこの取り組みが浸透していかない、真の理由とは何なのか?

 あらゆる角度からDevOpsトレンドを掘り下げてきた本特集。今回はDevOpsがバズワードにされている真因と、「企業が考えるべきポイント」を具体的に掘り下げてみたい。今回はアジャイル開発やDevOpsに深い知見を持つ、日本HP HPソフトウェア事業統括 プリセールス統括本部 ALMプリセールス部の藤井智弘氏に話を聞いた。

「開発と運用の分断」は言い訳

ALT 日本HPの藤井智弘氏

編集部 藤井さんはDevOpsに対する理解の浸透を、どのように見ていますか?

藤井氏 従来はアジャイル開発やDevOpsに対して、「うちでは無理」といった否定的な見解が目立ちました。しかし昨今は、Web系以外の一般的な大企業においてもこれらの新しいアプローチに対する関心は高く、「具体的にどう取り組むか」という認識に変わりつつあると思います。もちろんウオーターフォールがなくなることはありません。しかし“目的に応じた開発手法やデリバリ形態の選択肢”として、リアリティをもって、その実践方法が求められている段階にあると見ています。

編集部 ただ日本国内では、受託開発によって開発と運用が組織的に分断されている例が一般的です。その点、ビジネス部門と同じ目的意識を持つことが重要なアジャイルやDevOpsは、内製化率が高い欧米企業とは異なり、国内の大方の企業にとって実現が難しいのでは、といった見方も強いですが……。

藤井氏 確かに内製化率の違いは一因とはいえるかもしれません。内製化していれば、業務部門、開発部門、運用部門が「同じビジネスゴール」の下で協業がやりやすくなるでしょうし、環境も自社内にあるので開発から運用までの一気通貫の流れをコントロールしやすくなるでしょう。受託開発の場合、開発の主体も環境も“外出し“になることが多いので、開発側は「作ったモノを納品する」がゴールになってしまう。この点は確かに実践のハードルになっているとは思います。

 しかし誤解してほしくないのは、これは受託開発という「契約形態の問題」ではないことです。確かに受託か準委任かによって、「分業の在り方」や「合意するシステムのゴールイメージの持ち方」に差が出るのは事実です。しかし問題になるのは、「受託開発=丸投げ」という“実態”の方であり、「役割分担」の問題です。受託開発という契約形態でも、「一つの目的を共有」し、その実現のために各自が積極的に関与していこうするメンタリティがあれば、アジャイルやDevOpsは実現できます

 「何に対して契約するのか」という前提を、きちんと確認することが大切であり、それができていれば受託開発でもアジャイルやDevOpsができない理由は何もありません。むしろ「契約」を“できない理由”にしている部分もあるのではないでしょうか。

編集部 内製化率の高さに目を奪われてしまい、「内製化しているのだから共通のゴールを持てるのは当たり前だ」といった具合に、アジャイルやDevOps実現のカギとなる部分が、見落とされる傾向にあったといえるかもしれませんね。

藤井氏 確かに欧米は内製化している企業が多いのは事実です。しかし、なぜ内製化しているかといえぱ、「ITを差別化要素」と捉えているからです。そしてITで競争に勝つためにエンジニアを――それも「同じ目的を共有できること」を重視して――雇用している。これには欧米では人材の流動性が高く、働く側も自らの専門性を高めたいと考える人が多いため、そもそも「目的を共有できる人」を集めやすいという点もあるでしょう。しかし、DevOps実践のカギとなるのは、そうした「ビジネス目的を実現するために、各自がコミットする」ことであって、契約形態は本質的な問題ではないことが、この点からもうかがえるのではないでしょうか。

編集部 では国内では「ITで差別化をしよう」という認識は進んでいるのでしょうか?

藤井氏 内製化については、「外注費削減のため」という観点から進んでいるケースが多いように見受けられます。しかしそれとはまた違う文脈で、「もっとビジネス展開のペースを上げていかなければ」という認識は着実に浸透しています。

 というのも、最近はコンシューマー向けにサービスを提供するシステムを、業種を問わず多くの企業が持っていますし、顧客の声をすぐにシステムに反映しなければ、ロイヤルティの低下や販売機会の損失を招きやすい状況になっています。例えば、通信業もライバルが多い中、サービス品質の向上が日々求められていますし、保険業も商品メニューを組み替えるなどして、スピーディに差別化を図っていかなければなりません。メーカー、流通なども同様です。多くの業種において、製品・サービスの差別化を図るために、それを支えるシステムにスピーディな開発・改善が求められている。

 つまり「Webのサービスを改善するため」ではなく、「本業の競争力を高めていくため」に、システム開発・改善に一層のスピードが求められているわけです。今、アジャイルやDevOpsに関心を持っているのも、そうした認識を持つ企業です。「ではどう行うのか」という具体的な実践手段を模索している段階といえます。

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