QlikViewとQlik Senseの違いに見る、セルフBIの現在アナリティクス トレンド ピックアップ

クリック・テクノロジーズは、2015年2月にセルフサービスBIツールの新製品、「Qlik Sense」を提供開始した。では、同社がこれまで提供してきたQlikViewとの違いは何なのか。これを分かりやすく説明する。

» 2015年04月23日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 セルフサービスBIツールを語る時、忘れてはならないことに、次の2点があります。それは、「ビジネスの最前線にいる人が、ツールに関するスキルを取得することなく、データをビジネスに活用することを積極的に支援できれば、BIに新たな可能性が生まれること」、そしてもう一つは、「ツールとしての使いやすさと、分析や表現に関する高度な機能は、必ずしも両立しないこと」です。BIツールベンダーである米クリック・テクノロジーズ(以下、クリックテック)の戦略は、このことを示す、一つのいい例だと思います。

 クリックテックは、自社のBIツール「QlikView」を説明するため、「セルフサービスBI」というキーワードを使ってきました。これを知っている読者は、筆者が最近書いた「『セルフサービスBI』って、いったい何?」という記事に、「何を今さら」と思われたかもしれません。

 しかしクリックテックは、2014年末(日本国内では2015年2月)に「Qlik Sense」という新しいBI製品の提供を開始しました、これは、セルフサービスBIの新たなトレンドに対応するためです。クリックテックジャパンは2015年4月中旬に開催した事業戦略説明会で、2製品を共に推進していくことを、改めて宣言しました。

2つのBIツールには、ユーザー層の違いがある

 QlikViewとQlik Senseには、共通の機能がたくさんあります。では、なぜクリックテックは、2つのBIツールを提供するようになったのでしょうか。QlikViewとQlik Senseの違いは何なのでしょうか。

 2つの製品の根本的な違いは、製品のユーザー層にあります。QlikViewが直接のユーザーとして想定しているのは、情報システム部門や、「データアナリスト」「データサイエンティスト」「ビジネスアナリスト」と呼ばれる人たちです。こういう人たちがQlikViewを使い、インタラクティブなダッシュボードを作成します。これを、よりビジネスに近いユーザーが活用して、ドリルダウンなどの操作を行い、情報を探索できます。

 この製品のポイントは、一般ユーザーが自らダッシュボードを作成しないからといって、受動的に情報を「見る」だけに終わらず、多角的に分析できるようにしていることです。一方、情報の活用に、ダッシュボードを作成する人と、これを積極的に使う人という役割分担があるものですから、高度な分析機能に加え、きめ細かな設定が行えるようになっています。

 これに対し、QlikSenseが想定しているのは、一般的なビジネスユーザーです。「データ分析を本業としない一般のビジネスパーソンが、パワーユーザーの支援を受けることなく、自らデータを操作・探索し、ダッシュボードを作成して自分で使い、場合によっては他のユーザーと共有する」というのが、この製品の典型的な利用形態です。このため、使いやすさは最優先課題となっており、細かな設定については「決め打ち」されている点があります。

 クリックテックは、現在ではQlikViewを「Guided Analytics」と呼び、Qlik Senseを「Self-service Analytics」と表現するようになっています。

Qlik Senseは、ツールの使い方など知りたくない人でも分析ができることを目指している

 2製品間のユーザー層の違いは、使いやすさの違いにつながります。Qlik Senseは、データ分析を本業としないビジネスパーソンの利用を想定していますので、ツール自体の使い方を習得したり、複雑な手順を踏んだりすることなく、活用できることに重点が置かれています。従って、表現の自由度や機能に関してはQlikViewよりもシンプルになっています。

価格体系はセルフサービスBIの重要ポイントの一つ

 ユーザー層の違いは、2製品の価格体系にも反映されています。

 QlikSenseは実のところ、エンドユーザーが自らの端末にインストールして使う「Qlik Sense Desktop」と、データのアクセスや制御、共有をつかさどるサーバー製品の「Qlik Sense」に分かれています。そして、Qlik Sense Desktopは、BIツールとして、機能に特段の制限が加えられていないにもかかわらず、無償で提供されています。要するに、クリックテックは、「デスクトップ製品ではユーザーを増やすことに専念し、サーバー製品でビジネスをする」ことを考えているわけです。Qlik Senseが組織で本格的に活用されるようになるにつれ、サーバー製品を導入するケースは増えていくのでしょう。しかし、各ユーザーが、フル機能のセルフサービスBIツールがどんなものなのかを体験し、「自分に活用しきれるのか」「自分の業務に役立つのか」を確認するには、便利な製品といえます。

 製品価格は、セルフサービスBIの導入を検討するうえで、重要なポイントです。

 「セルフサービスBIツール」と呼ばれる製品では、ソフトウエア、サービスのどちらの形態で提供されているとしても、一般のビジネスパーソンに広く利用してもらうことがテーマとなっています。従って、ライセンスあるいは利用料は、ユーザー単位であり、しかも比較的低価格なものが多いのが特徴です。とはいえ、製品によって価格には大きな違いがあります。多数の一般社員が活用できるようにしたいと考えても、製品コストがネックとなって実現できないケースもあります。

 ではQlik Senseは、例えばセルフサービスBIにおける注目ベンダーの1社である、Tablau SoftwareのTableauとは、どのような違いがあるのでしょうか。クリックテックジャパンでは、優位性の一例として、同社が「連想技術」と呼ぶ、複数データの結合機能が高度であることを挙げています。例えば、2つのテーブルが読み込まれると、同じ項目名を持つ表や列が検知され、半自動的に関連付けられて1つのデータソースとして扱えるようになるのです。同社はまた、サーバー製品で、データガバナンスに関し、豊富な機能を備えていると説明しています。

セルフサービスBIの「度合い」は、組織によって違う

 クリックテックジャパンは2015年度の事業戦略発表で、上記のQlikViewとQlik Senseの双方に力を入れていくと説明しています。

 Qlik Senseのような製品は、「ビジネスの現場にいる人々自身による、機動的なデータ活用を支援できる」という点で、注目されやすい存在です。しかし実際には、そうした利用形態だけになっていくのではなく、QlikViewが実現しているような、パワーユーザーによって整備されたデータ分析環境を、ビジネスの現場の人々が能動的に活用するようなBIのやり方も、さらに広がっていくだろうと、クリックテックジャパンは話しています。結局のところ、データの分析や活用における要件が厳しい場合にはQlikView、幅広いユーザーの活用が最大のテーマとなる場合には、QlikSenseというすみ分けのようです。

 どちらの製品についても、重要なテーマはビジネスにおけるデータ分析の活用であり、このために、同社はエンジニアリングリソースを拡充し、コンサルティング活動を強化していくとのことです。

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