年換算売上60億ドル以上のAWSは、これまで何を成し遂げてきたのかAWS日本法人長崎社長に聞く

米アマゾンが2015年4月に発表したAmazon Web Services単体の業績数字からは、このクラウドサービスの現在が、おぼろげながら見えてくる。では、AWSは、これまで何を成し遂げたのか。日本法人の代表取締役社長、長崎忠雄氏に聞いた。

» 2015年06月02日 07時00分 公開
[三木 泉@IT]

 米アマゾンは、2015年4月23日(米国時間)、AWS単体の業績を初めて公開した。まず、AWSの1―3月期の売り上げは15.7億ドル、単純に年換算すると60億ドル以上に達することが判明した。これは巨大オンライン販売ビジネスであるアマゾンの売り上げの7%を占める。

 だが、多くの業界アナリストや株式投資家がいい意味で驚いたのは、営業利益率の大きさだ。米アマゾンは中長期的な観点から事業運営をしているとし、これまで全社的に、プラスの営業利益を出すことがほとんどなかった。そこで、AWSについても同様に、短期的な利益を度外視しているのではないかと考えられていた。短期的に儲けが出ていないのなら、(アマゾン本体と同様、)このビジネスはサステイナブルなのかという懸念が生まれる。「中長期的には利益が出るように考えている」と訴える経営陣を、信じるのか信じないのかという話になってしまう。

 4月23日に発表された数字を見る限り、そうした懸念は当面杞憂だといえる。AWSの1―3月期の営業利益率は16.9%であり、アマゾンの他のセグメントに比べれば、はるかに大きな数字となっている。

 一方で、2014年にAWSが実施した大幅値下げの影響は、かなり大きかったことも見てとれる。アマゾンはAWSについて、2014年第1四半期以降の四半期ごとの業績数字をあわせて公開した。下は、これをグラフ化したものだ。これによると、2014年第2四半期の売り上げは前期を下回った。営業利益率もこの期は7.7%にまで落ち込んでいる。だが、売り上げはその後すぐに増加基調に戻った。営業利益率も、2014年第1四半期のレベルには達していないものの、大幅に向上している。

青が総売上、緑が営業費用、黄土色が営業利益。赤の折れ線グラフは営業利益率の推移。このグラフからは、上記のほかにも、売り上げに季節変動はほぼ見られないこと、営業費用が、売り上げの推移を無視したかのように、リニアな増加を続けていること、などが分かる

「ようやくスタート地点に立てるようになった」

 では、AWSは結局、どのような位置にいて、何を考えているのか。日本国内のデータセンター開設からちょうど4年が経過した、日本法人アマゾンデータサービスジャパンの代表取締役社長、長崎忠雄氏に聞いた。

アマゾンデータサービスジャパン 代表取締役社長、長崎忠雄氏

 AWSは、日本における事業の規模を示唆するような数字を、一切公表していない。だが、「AWSにとって日本は重要な市場だ。重要な市場だということを証明できるだけの顧客もいる」。4年前の2011年、日本にデータセンターを開設した際は、他のどのリージョンよりも高い伸びを示した、と長崎氏はいう。

 「AWS は当初こそ、デベロッパー向けのサービスだった。しかし 5 年くらい前から、Amazon VPC(顧客専用の論理セグメント)や専用線接続など、エンタープライズ向けの機能を強化し、これとともに顧客基盤を広げてきた。今後もさらに、顧客は広がり、多様化していく。その過程で、対象とするそれぞれの顧客のニーズに応えられるように、機能や組織体制を、強化し続ける必要がある。とはいえ、何もないところから、これほどまでに対象を広げてきたのは、大きな成果だと思う」

 日本、そしてグローバルにおける、過去2、3年での成長を押し上げているのは、基幹システムを含む、企業の社内業務システムの、AWSへの移行だ。関連して、SAPジャパンは6月1日、「AWS上で稼働するSAPアプリケーションを導入した国内企業が100社を突破した」と発表している。

 「すべての社内アプリケーションについて、AWSへの移行を進めている企業も増えている。日本企業の中には、これから世界で戦っていかなければならないところが多い。グローバルで戦うには、もっとデジタルを活用していかなければならない。そのためには、今までの日本企業のITでは限界がある。もっとスケーラブルな、自動化の利いたITが求められる。そうした意味で、AWSをプラットフォームとして使うという、先進的な考え方をする顧客が非常に増えている」。

 長崎氏は、日本の企業のマインドが、全般的に少しずつ変わってきたと主張する。「『少しはトライアル・アンド・エラーをしなければならない』『もう少しリスクをとってみなければならない』と考える人が増えている」。

 それでも、日本に限らずグローバルで、クラウドコンピューティングおよびAWSの利用に慎重な人たちがまだまだ多いと、長崎氏は話す。つまり、クラウドサービスの潜在市場は莫大なもので、AWSはまだその入り口をこじ開けただけだという認識だ。

 「過去2年ほどで、ようやくスタート地点に立てるようになったと感じている。今はITの変革期のまっただなかにあり、これからやるべきことのほうが多い」

 日本の一般企業における情報システム部が、リスクを冒してなぜAWSを採用するのか、また今後は、他社との競合を考え、やり方を変えていかざるを得ないのではないか、など、AWSについての素朴な疑問を長崎氏にぶつけました。IT INSIDER No.42「日本法人長崎社長を直撃、Amazon Web Servicesに関する素朴な疑問」で、お読みいただければ幸いです。

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